ライトノベルを書くための参考資料
このシリーズはなかなか書けるものではないようです。多くの資料を紹介できた方が、多くの若い書き手の方々の参考になるかとは思いますが、入手が容易で安くて読み物としておもしろい物を探し、自分で書けるまで消化するのには時間がかかるものです。『小説の参考資料』第四回の始まりです。前回、キャラクター作りだけでなく、小説を書く上で最上とも言える参考資料『キャラクターメーカー 6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」』を紹介しましたが、あれは少々難しく、若い書き手の方々には理解しにくい部分も多々あったのではないかと心配していました(私も全部は理解していません)。今回は、もっと簡単に軽く読める資料を用意しました。簡単で軽いからと言って実用書として不適切だというわけではありません。難解な表現を駆使して重々しく書いても中身が伴わなければ意味がありませんし、受け手が消化できなくても意味がありません。それでは、今回の資料を見て行きましょう。◆簡単な紹介◆今回紹介するのは宝島社から発行されている宝島文庫の『冲方丁のライトノベル書き方講座』です。著者は本のタイトルにもあるように冲方丁氏。現役のライトノベル作家の方です。作品を読んだ事がなくても名前を聞いた事があるという人はいると思います。私も作品を読んだ事はないのですが、小説の書き方に関する新しい本なので今回手にとってみました。本書を見つけたのは半年近く前だと思いますが、本屋に置いていなかったため(前回、紹介した『キャラクターメーカー 6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」』はまだありました)アマゾンなどで入手するとよいでしょう。この本は、著者作の『冲方式ストーリー創作塾』の文庫版であり、『冲方式ストーリー創作塾』よりも洗練されたつくりになっていると思われます。文庫の方が安いというのはこの世の常なので、今回紹介する文庫版だけを買っておくとよいでしょう(それを知らず、アマゾンで両方買おうと思っていたため、文庫だけ買ってほっとしております)。本書は、ライトノベル作家である著者が実際にプロとして書いた書籍の裏話や製作過程について書くというものです。細かく解説されてあってとても参考になります。著者の作品はまだ読んだ事がないのですが、作品を読んだ後にこの本を読んだらもっと深くこの本の内容を理解できるでしょう。もちろん、これだけ読んでも大丈夫です。◆削るのではなく、肉付けする創作方式◆この著者は、彫刻のように削って小説の形を出すのではなく、アイディアをどんどん付け足していく肉付けの方法で創作をしています。本書の1時間目では種書きという大量のメモを作る最初の段階から、種書きを元にした骨書き(設定、概要など)、プロットを作る筋書き、実際の執筆をする肉書き、余分なものを削る皮書きという工程が紹介されています。物語作りのための実際のメモは(多少は、本書を書くために簡略化されているかもしれませんが)それだけで『何か』のエネルギーを感じさせるものがありました。ここで重要なのは、設定やプロットの前に作品を書くために大量のメモが必要だという事です。作品のためのメモを取る事で作品を作るための土台を作り、物語作りの準備を整えています。作品のイメージを自分で的確につかむためのイメージスケッチとでもいうのでしょうか。こういった作業だけでも、真似をする価値があると思います。簡単ですし。◆具体的な問題解決の手段◆小説を書く上で「オリジナリティがない」や「つまらない」などと言われるのは素人のクリエイターではよくある事だと思います。本書ではそれに関する答えも用意されているため、これを読むためだけにこの本を買っても損はないでしょう。どういった事が書いてあったか、具体的に記してしまうと問題になりそうなので、そういう事が書いてあったという紹介だけに留めておきます。◆物書き遊び◆本書を読むだけでモチベーションが上るという事もあるかもしれません。そんな方がすぐに書けるように、トレーニングの要素がある物書き遊びの仕方がいくつも載っています。『主題探し』のコツなど、重要なものもあるため読んでおいて損はないでしょう。◆おわりに◆本書では、小説の書き方について書いてあるだけでなく、「ライトノベル作家は編集者を始めとする様々な人物から注文を受けて小説を書く作家である」という事を再認識させる部分も多く書いてあります。口で言ってもあまり理解してもらえるとは思いませんが、ライトノベル作家を目指す若い書き手の中にはこの部分を理解していない方もいる事でしょう。そういう方達にこそ、最初の三項目にしっかり目を通していただきたいと思います。職業としての小説家を選ぶとはこういう事であるという部分もきっちり記してあるいい本でした。