[07 職務発明]の記事一覧 | 特許の思想体系

023 予言　この１年で・・・こうなる

こんちくは。この１年以内に、技術者系の就職・転職情報誌に、各社の「職務発明報償規程」を比較する企画が登場するでしょう。なぜなら、そのような正夢を見ました。ではなくて、中村修二事件に代表されるように、発明者に対する「相当の対価」が非常に大きな問題として取り上げられ、いまも多くの裁判が継続しています。そのような動きを受けて、職務発明制度が改正され、今年（２００５年）４月１日より施行されます。「職務発明報償規程」は、単に知財部が作成して、社内の発明に関する規程という意義から、技術者に対する人事的待遇の問題になったと認識すべきです。優秀な研究者・技術者を集めないと、グローバルな競争に勝てなくなってきました。各会社は、そのために「職務発明報償規程」を売りにすることを考えるでしょう。最近、新聞には各社の職務発明に関する取り決めをどのようにしているかについての記事が多く掲載・連載されています。実際、中村修二事件の和解があった次の日の日経新聞１面は日立の発明報奨制度の記事でした。そのような取材を受けている会社は、その規程に自信があるところばかりだと思われます。公表する必要のない社内規程ですが、優秀な技術者が欲しい企業では、積極的に公表してくるでしょう。新聞に取り上げられれば、非常に効率のよい広告になります。技術者から見た場合、必ずしも「相当の対価」が高額であればよいというほど単純ではないとは思います。そのように信じます。私の知っている技術者の方は、お金のためだけで研究・開発をやっているとは到底思えません。しかし、「職務発明報償規程」がよければ、技術者に対する待遇ひいては研究環境もよいはずだと考えることでしょう。この推測が外れることもあるでしょうが、一般的には、正しい方向へと向かっている場合が多いでしょう。となると、就職・転職情報誌の読者である技術者からも「職務発明報償規程比較」企画への要望が高まるでしょう。企業のニーズ、技術者のニーズが一致したということで、上記の予言です。□△○　□△●　□▲○　□▲●　■△○　■△●　■▲○　■▲●　□△○社会保険労務士、行政書士、司法書士の皆さん社内規程作成に携わっている方も多いと思います。その中に、「職務発明取扱規程」「職務発明報償規程」「発明考案管理規程」等はありませんか。改訂が必要になってきています。もし、ないとしてもこれからは必要かもしれません。お客様にお手伝いができるチャンスではないでしょうか。上記したストーリーは、提案営業として活用できないかと考えます。これからは、知財に関するアドバイスができることは大きな競争力になるだろうと思います。アドバイスの際の留意点としては、会社側に有利な「職務発明報償規程」を作成していたのでは、将来、優秀な技術者流出が予想されるということです。発明をした従業者と、その支援をした使用者との間の利益の調整がキーです。「今宵はここまでにいたしとうござりまする」（流行語大賞　１９８８年　流行語部門・金賞）。【応援感謝】こちらもクリックください。　人気blogランキング　ブログポポタル

01A 和解の壁の向こう

こんちくは。「昨夜はどこのテレビ局にも中村教授が出ていた」そうです（伝聞です。情報ありがとうございます）。６億が高いか低いかという議論が主になってしまうのでしょう。報道も議論もされないことですが、私は、つい、知財部はどのような活動をしているのだろう、今後の影響はどのようなものだろうと考えてしまいます。（１）特許電子図書館で、原告が発明者で、被告が出願人である公開公報を検索してみました。３４０件という結果がでてきました＊１。原告は、「平成１１年（１９９９年）１２月に被告会社を退職」しております。それにもかかわらず、２００４年公開の公報が２１件ありました。２００４年に公開になるものは、普通、２００２年６月以降で２００３年６月頃までに出願されたものです。退職後も原告が発明して、被告が出願しているということになります。そのようなことはありませんので、これらは分割出願というものです。知財部が主体となってこのような特許活動を行っていることがわかります。もちろん、原告の相当対価を高くするために活動をしているわけではありません。ライバルとの戦いがありますので、そのためです。でも、ジレンマになってしまいます。会社のために強い特許を取得しようとする活動がそのまま原告の相当対価を高くする活動になってしまうわけですから＊２。（２）職務発明制度（特許法第３５条）が改正され、今年（平成１７年）４月１日に施行されます。この和解は、その意味で非常にタイミングがよいです。知財部にとって、今回の和解を説明することによって「対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議（特許法第３５条第４項）」は、スムーズに行くのではないでしょうか。また、「知財管理規定」「発明考案管理規定」等をコンサルしている士業の方々には、提案営業のよい題材ではないでしょうか？「協議」「開示」「聴取」がキーワードです。こちらもヒントになると思います。＊１検索対象は平成５年以降の公報ですので、それより前の公報は検索できません。したがいまして、実際には３４０件以上あります。＊２裁判の対象となっている特許は１件だけで、分割出願とは関係のない案件でしょう。厳密にはジレンマといえないでしょう。しかし、その１件に対しても無効審判対応等の特許活動があるでしょうから、その活動はジレンマを感じることになると思います。「今宵はここまでにいたしとうござりまする」（流行語大賞　１９８８年　流行語部門・金賞）。【応援感謝】こちらもクリックください。　人気blogランキング　ブログポポタル

00C ２００億円事件(3)

前回（00A ２００億円事件(2) ）の続きです。具体的にどうやって、２００億円を計算したかを示しておきます。（１）市場全体の売上高合計（将来予想含む）　１兆２０８６億円（２）競合２社（寡占市場）に許諾した場合、会社の売上割合　２分の１（３）前回（00A ２００億円事件(2) ）の（Ｂ）－１を適用する。超過売上高の計算方法は次の２つ。（３ａ）採用には証拠が不十分なので、（３ｂ）を採用。（３ａ）　会社が超過売上高から得る利益を算定する。（３ｂ）　競合他社に本件特許発明の実施を許諾した場合を想定して、その場合に得られる実施料収入により算定する。（４）実施料率　販売額の２０％（５）独占の利益１兆２０８６億　×　１／２　×　２０％　＝　１２０８億円（６）発明者の貢献度　５０％なぜならば、以下の３つの理由がある。（６ａ）独力で、全く独自の発想に基づいて発明である。（６ｂ）小企業の貧弱な研究環境の下で、個人的能力と独創的な発想である。（６ｃ）職務発明としては全く稀有な事例である。発明に対する会社の貢献度とは、発明がされるに当たって人的物的面で客観的に寄与した内容により判断される。寄与が使用者会社の規模に照らしてどれほどの負担かといった、いわば使用者の主観的な側面が考慮されるものではない。（７）相当対価１２０８億円　×　５０％　＝　６０４億円　そう、つまり、裁判所は６０４億円を発明者は会社に請求できると判断したのです。　え！２００億円じゃなかったの？　そうなんです。２００億円は、上記の相当対価の計算結果ではないのです。原告（発明者）は、２００億円の請求しかしなかったので、この２００億円が認められたのです。弁論主義と言って、裁判所は主張しないことを認めるということはできないのですね。

00A ２００億円事件(2)

相当対価の算定方法　２００億円事件（H16. 1.30 東京地裁平成13(ワ)17772）での、相当対価（発明者が得る利益）の計算方法をまとめましたので、公開します。【０１　使用者が受けるべき利益】（つまり、会社が得る利益のこと。改正後の特許法３５条新５項でも同じ文言）使用者が当該発明に関する権利を承継することによって受けるべき利益（３５条４項）とは、当該発明を実施して得られる利益ではなく（∵無償の通常実施権（３５条１項）），特許権の取得により当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益（独占の利益）のことである。　つまり、その発明を普通に実施して得られる利益ではなくて、独占排他権という特許権らしさから得られた利益のことです。【０２　独占の利益の認定】（つまり、特許権らしさから得られた利益はどう計算するか）独占の利益とは、次のうちのいずれかである。（Ａ）　他社に許諾している場合、実施料収入。（Ｂ）　他社に実施を禁止した場合、使用者があげた利益。（Ｂ）－１　使用者が当該発明を実施した製品を製造販売している場合他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較して、これを上回る売上高（以下「超過売上高」）を得ているとすれば、超過売上高に基づく収益が該当。（Ｂ）－２　使用者が当該発明自体を実施していない場合当該発明の代替技術を実施した製品の販売について使用者が市場において優位な立場を獲得しているなら、それによる超過売上高に基づく利益が該当。（Ｃ）　他社に許諾した場合を仮に想定、その場合に得られる実施料収入。　つまり、（Ａ）　会社がライセンス料で稼いでいたら、そのライセンス料。（Ｂ）－１　独占市場を築いていたら、市場の原理に従って競争していたならばという仮定の下、得られたであろう利益との差額。（Ｂ）－２　その発明そのものにより商品を販売していなくても、代わりの商品で独占市場を築いていたら、上の（Ｂ）－１と同じ。（Ｃ）　もしも（Ａ）と同じにライセンスしたら、いくらのライセンス料だったのだろうか。【０３　期間】独占の利益は、存続期間満了までの間に使用者があげる超過売上高に基づく利益である。特許権は，その存続期間を通じて特許発明の実施を独占することのできる権利だからです。つまり、今までの利益だけでなく、特許権が切れるまでのこれからの将来の利益も含むということです。【０４　貢献度の認定】発明がされる経緯において発明者が果たした役割を，使用者との関係での貢献度として数値化して認定【０５　職務発明の相当対価の額を算定】独占の利益　×　貢献度

009 ２００億円事件

　２００５年（来年、平成１７年）４月１日より新職務発明が施行される。これに伴って、各社の知財部はこの新職務発明制度（特許法３５条）を検討していることと思います。　私も、久しぶりに例の職務発明の相当対価２００億円＊１事件の判決（H16. 1.30 東京地裁平成13(ワ)17772 特許権民事訴訟事件）を読み返しました。　企業内の知財部員には、不条理と思えるくだりがあります。以下、原文。-----　被告は，本件特許発明の特許出願後，設定登録に至る間に被告会社特許部が努力をしたことや，本件特許発明の事業化に原告が関与しなかったことなどを指摘するが，発明がされた後のこれらの事情は，そもそも使用者会社の貢献度として考慮される事情に当たらない（仮にこの点をおくとしても，本件特許権が設定登録され，特許異議に対して維持された経緯をみても，その手続における被告会社の対応は，出願人として通常の範囲の対応であるし，青色ＬＥＤが産業界において待望されていた技術であることに照らせば，本件特許発明の事業化は，いわば成功が保証されていたものであって，事業化に特段のリスク等が存在したものでもない。被告の主張は，この点からも失当である。）。-----　どうでしょうか？当事者ではない知財部員の方々も「私のあのガンバリは何ら貢献度として考慮されないのか。私のいまの仕事はいったい何なのか？」ということを考えなかったでしょうか。私もこれを最初に読んだ時は、知財部員でしたから、「えっ」と絶句でした。　ただし、これは職務発明の相当対価の評価であることを忘れてはいけません。特許法３５条４項には「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」が考慮されるのです。つまり、発明が完成されるまでの間なのです。発明届出書が提出された後は、相当対価の評価には考慮されないのです＊２。発明完成までは、研究・開発部門の責任、その後は知財部が主役、これが役割分担という組織の基本で、これを確認したまでにすぎないのです。　ですから、落ち込む必要などありません。知財部はこれから「知の時代」の舵取りをする重要な部署です。＊１「２００億円及びこれに対する平成１３年８月２３日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。」が主文です。２００億というのがまず目に行くと思いますが、年５分というのも凄いでしょ。いまどき、年５分（５％／年）の利息ですよ。銀行に預けるよりも、裁判で長引いたほうがよい利率ですね。もちろん、あくまでも、取れればの話ですよ。ビジネスに応用はできないでしょう。予測可能性が低すぎます。＊２論理的に正確に表現するとすれば、発明が完成した後の知財部員の貢献は相当対価の評価について、条文上何も規定されていない、ということです。したがって、評価する必要もないが、必ずしも評価の対象外だとも言えません（ですから、判決文のかっこ書きがあるのです）。ただし、その趣旨からすれば考慮外が妥当でしょう。この部分は、今回の改正で「その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献」となりました。これによって、発明完成後の貢献も考慮される余地がでてきました。＜追記＞２００４年１２月２４日、東京高等裁判所での控訴審の口頭弁論は、終結しました。職権勧告により和解手続に入りました。仮に、和解が成立しない場合は、２００５年３月２８日に判決言い渡しが行われます。＜さらなる追記＞二審にて、６億円で和解（遅延損害金を含めると、８億４千４百万円）