恐怖のさんぽ
わたしが小学1年生だった頃の夏、学校も夏休みで、となりのうちにあそびにいこうと姉をさそいました。小林さんという隣のうちには、ちびちゃんと言う名前の雑種犬と、リックという名のゴウルデンレトリバーを飼っていて、私はこの2頭のうち雑種犬のなかでも比較的小さい、ちびちゃんが、ほしくてほしくてたまらなかったのです。当時のわたしは、ぬいぐるみの犬にあきていたので生き生きとした、ちびちゃんの体を触るのが好きだった。ちびちゃんはグレー色で目はチワワに似て大きさは、すぐ横のうちにいる柴犬の、コウちゃんよりもひとまわり小さくてかわいいと思ったからです。「ちびちゃんほしい!」とおじさんに言ったら「まるちゃんがほしいのなら、いつでもあげるよ。」と言ってくれた。おじさんが「まるちゃんはお姉さんはいるけど妹がいないものね、いわゆる欲求不満なんだね、精神的アロマテラピーとでもいうのかとにかく、ちびちゃんがほしいのだね。」とわん公をつないである鎖のもとをはずして、「さっ、散歩につれていってね!」と、わたしの手に渡してくれるのです。わたしがちびちゃんを、おじさんはリックをつれて散歩にいく。以前から母に、「犬かって」と何度ねだってもだめだったので、当時ポジティブであった私は隣のおじさんが犬の散歩に行くのに、いっしょについていくのが常であったのです。ちびちゃんは、いつも、わたしの不意をつき、前に、いきよいよく走ろうとして鎖を引っ張り、わたしを驚かせた。おじさんは、「いうことをきかなかったら、まるちゃん!頭ずきを一発お見舞いしてやってね!」と言われた。まだ一年生だったわたしは、「頭ずきてなに?」とおじさんに聞くと、とっても親切なおじさんだったので、ちびちゃんの顔を両手で持って、頭ずきをして見せてくれた。鋭いスキンシップに感動したわたしは、すぐに試してみることにした。力、加減と言う言葉は当時の私の辞書になかったので、力まかせに小さな手でちびちゃんの顔を両手で持って生まれて初めて、思いっきり頭ずきをすると「ゴン!」と鈍い音がして目の前を夜でもないのに星がきらきら輝いて、ふらついたのを今でも憶えている。ちびちゃんも相当ダメージをうけたらしく、頭を何度もふり、ハンニバルな世界から脱出を試みる小心な小娘に見えたのは、わたしだけだったでしょうか?