知識を捨ててこそ、道が開ける
知識を捨ててこそ、道が開ける 070125の課題から 私は以前から「英語力」なんてものは幻想にすぎないと主張してきた。必要なのは、母語での思考力と、言語の本質の理解で、それにしっかりとした基礎知識があれば、専門知識すらもそんなに必要ではない。でも、「最低限の語学力、英語力は必要でしょう」と切り返されて、なかなかこれという答えを出すことができなかったが、つい最近になって、やはり英語力は不要と、はっきり断言できるようになった。□ In embryos, NGF spurs neurodevelopment. But in adults, NGF’s only role is to drive acute and chronic pain in at least three different ways. NGF = nerve growth factor、神経成長因子□ NGFは胎児の段階では神経の発達を刺激する。 × それが成体になると、その役割が少なくとも3通りの経路で急性慢性の疼痛を誘発するにすぎないものとなる。 × しかし、成体ではその唯一の役割が少なくとも3通りの経路で急性慢性の疼痛を誘発するものとなる。 まったく意味がとれていないものを除くと、ほぼ上のどちらかになった。onlyを「~にすぎない」とする選択肢をもっているのはいいことなのだが、ここはonlyの位置がちがうだろ。それに、話の流れからして否定的な意味になるはずがない。 その意味では「唯一の」とする方がまだしも罪は軽いのだが、これではどうも意味がよくわからない。鮮明なイメージが浮かんでこない。鮮明なイメージが浮かんでこないものは、よくて誤訳、悪くすれば非文でしかない。 こんな文を文と認めるのは、英語にonlyがあるというだけの理由で、自分のなかの疑問を打ち消してしまう偽善者であるか、科学知識だけが異常に肥大した者であるかのどちらかである。 そもそも、前に何か文があって、「NGFにはたったひとつしか役割がありません」と書いてあるのでなければ、「その唯一の役割は」、「その唯一の役割が」なる文は絶対に生まれない。それが母語というものである。 母語はいい加減な結論に警鐘を鳴らしてくれる。母語がしっかりしているかぎり、「降参」はあっても、「妥協」はありえない。 辞書を引くと、onlyには「最良の」、「最善の」という訳が書いてある。この意味ならなるほどわかる。NGFの「まさにこれしかないという」役割ということになれば、onlyでもあり、bestでもあることになる。 こういうところで、onlyには「最良の」という意味があることを、知識として出してくる輩がいるが、まったく無意味なことである。仮にそういうことを知識として知っていたとしても、この文を「NGFの最良の役割は~である」とすることしかできない。それでは、残念ながら鮮明なイメージは浮かんでこない。 原文の言いたいことがよくわかるようにしようとすれば、ほぼ次のような文に落ち着くことになる。「ようになるなんて書いてないんですが」と言う人が必ずいる。「~に行った」と言うとき、go よりむしろ be動詞を使う方がよい。これを逆に考えれば、英語でその瞬間瞬間を表現しているものを、日本語では多少動きや流れとして表現した方がよく、またそうしないかぎり、どこかにしっくりしないものが残って、原文が伝えたかったものが伝わないことになる。 □ それが成体になると、その役割の中心が少なくとも3通りの経路で急性慢性の疼痛を誘発する方向に移る。 □ それが成体になると、その役割が少なくとも3通りの経路で急性慢性の疼痛を誘発することに絞られるようになる。←ランキングに登録しています。クリック、よろしくお願いします。