ひらけ玉手箱

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  「しゃばけ」シリーズ第13弾　「すえずえ」

  「若だんなのお嫁さん、ついに決定」の帯書きに、それが誰かより、仁吉や佐吉はどうなる？！と気を揉んだのだが……ほっ。なかなかの解決策ではないでしょうか。これまでの巻でも、人である若旦那と人ではない妖の行く末が何やら段々に重苦しくなってきて、勝手に切なく感じておりました。「仁吉と佐吉の千年」はぐっときて、はっと嬉しい展開でもやもやが晴れました。やれ、めでたい！ 「しゃばけ」シリーズもついに第13弾とは。初めて読んだのはいったい何年前になるのだろう。気まぐれに記録しているのでとびとびだが、過去の感想を拾ってみた。久々の読書記録ちなみに、最近の作品から時を遡っているので、出版順とは逆読むとほっとする定番の一冊。でもなにやら若旦那が年頃になるにつれ、前作に続き別れの予感もはらむエピソードも。先を知りたいような、いつまでもこのまま読んでいたいような。作者はどんなふうに締めくくるんでしょうね。 十周年？過去のタイトルを並べてみても、はてどんな意味だったかしらん、と首をひねらねばならない記憶力の低下に、時の流れを痛感する。最初は一太郎が探偵役（病人が目明し、という設定も目新しかった。そして一太郎の目となり足となる岡っ引き役が妖怪、という設定も）で殺人事件も起こっていたのだった。ほんわかムードが定着するにつれ、死人はそうそう出なくなったと思うけど、どうだろう。代わりに妖怪たちや友との別れ（今作のラスと一編など特に）の日を思わせる切ない作品が増えてきた。どんな幕切れが用意されているのか、ちょっと怖い。各章の始まりの文で、時を遡っているのがわかる仕立て。謎解きのようにほどけていく過去が、終章で一つの流れになり、ほっとさせる。揺れた水面に、魚が飛び跳ね、あとはしんと静まり返るような。それでも、消えたさざ波はどれも印象的で、きっと若旦那の胸にもざわめきを残しているだろう。 映画「闇の子どもたち」を観てあまりの闇の深さに浮かびきれずにいた私。中和剤にしゃばけシリーズの最新刊を読んでみた。成功（＾＾*）ミステリ風味はまったく影を潜めてしまったけど、安心して読めるほのぼの感が嬉しい。 こうしてみるとシリーズ化してから、長くなればなるほど、行く末を心配しているのがわかる。長編の宿命か。結末が知りたいような惜しいような。ここのところ、別れの予感が続いたから、ほんっとに胸がざわざわしていて、読み終えてからの爽快感に水を差していた感がある。今回の作品は持ち味を損なわず、いかにも「しゃばけ」な感じで嬉しい。

  2014.09.16

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  　『輝夜姫』　

  ときめきと切なさにかけては、やっぱり少女漫画に叶うものなし！とあらためて、しみじみと読み耽り、読み終えてはまた手に取り、ため息をついた。久々に少女時代の興奮へ誘ってくれたのは、『輝夜姫』　 【中古】【古本】輝夜姫(かぐやひめ) [1~14巻 全巻]　文庫版　(著)清水玲子 -全巻読破.COM 漫画...【中古】【古本】輝夜姫(かぐやひめ) [1~14巻 全巻]　文庫版　(著)清水玲子 -全巻読破.COM 漫画...私ってやっぱりどうしても面食い、という思いも強くしたこの作品。ブックオフ行脚にやってきた友人とはしごしていて、入手していなかった16巻以降を一気買いできた。望外の喜び。あえて感想には触れないのは、そのくらい興奮が収まってなくてうまく綴れないから。ああ、そう言えば、かつて見合いの相手に言われた事を思い出した。珍しく付き合ってもいいかな、と思った人物だったけど、「よかったね、また会いたいと思える人で」と当時友人に言われ、「…え？会ってもいいけど（なんて偉そうなんだ）、会いたいっていうのとは違うような…」「何それ。また会いたいっていう気持ちがなければ相手にも失礼だよ」「…え？そんなものなの？…」「そうだよ！」ってな会話があり、正直にそのやり取りを伝えて「ごめんなさい。やっぱり会わない方がいいと思います」と電話で伝えた時。年の功というか、不愉快でもあったろうにきちんと話を聞いてくれて、あげく、「会いたい」の基準はなんだろうと聞かれ「少なくとも目の前にいたらドキドキしないと…」なんて今考えると、よくまぁそんな事を、と思うくらい言いたい放題（言える人だったんだなー）言った私にひと言。「それは少女漫画の世界を現実に持ってこようとしてるんだと思う。　夢を見るのは悪いことじゃないけど、現実はそんなにときめかないものじゃないかな」年下相手に、一方的に諭すでもなく対等な目線で話してくれるいい人だった。だけど、一方で並々でなかった私の少女漫画にかける想い（が高じて今に至ることを思うと複雑だが）や必ずある！と信じていたトキメキまで否定されたような気がしてどこか冷めてしまったのだっけ。それでも今まで憶えてるくらい、自分にとってはよくも悪くも印象に残っていた。どっちが正しかったのかな。話がそれました。週末巡ったブックオフでは、１０５円本がすべて９０円になる期間限定サービスを実施していたので、１０５円本限定で探しまくった。その値段では買えないけど、同じ作者の『秘密』は以前から気になっていて、「コミック以外は全品半額」セールを前にしていた時に勘違いしてこの機会に！と買ってしまったコミック本。 【楽天ポイント7倍】【中古本】秘密 (1-7巻続刊）漫画全巻セット【中古】こちらも気になる展開。２巻までしか買っていないので、今後のテーマは以下に安く早く入手するか、かな。

  2010.06.21

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  「花のあと」を読む

  　　　　　　　　　　　　藤沢周平作　　　　　文春文庫　映画の後に本屋に飛び込みその日のうちに読んだ「花のあと」。文庫版は、解説が読後感を良くも悪くもしてくれる曲者なのだが、文藝評論家桶谷秀昭氏の文章は的確だった。　「花のあと」は町人（市井）ものと武家ものが混じり合う短編集だが、氏の言葉を借りれば藤沢作品は、武家もので諧謔の味を出し、その諧謔が端正な文体、悲劇的な美しさをもつ自然描写と共存している特色があり、町人ものでは諧謔は影をひそめ、深い情感に由来する同苦と愛が描かれている、という。　藩主の寵愛を集めた身が、ある出来事をきっかけに尼になった「雪間草」の主人公の美貌に似合わぬ怪力、勘定方としては才覚を備えながら、風采が上がらぬばかりに妻や同僚に低く見られがちな「悪癖」の主人公、平助の奇癖。決して美貌ではないが、腕に覚えのある女剣士以登の思い出語り。狂言のような、これ見よとの諧謔ではない。人物の造形と筆遣いが軽妙洒脱なのだ。　対して町人ものでの「同苦」とは、藤沢周平が人間に寄せるあたたかい視線をよく表現していると思う。人の心の哀しみを見つめ寄り添う、その温もりがあるから、どの作品もたとえ哀しくて切なくても、どこかほっとする拠り所がある。読んで荒んだ気持ちにならない。　現代小説の中には、切れ味が鋭い分読み終えた後にも痛みが続き、読み終えた後幸福感に包まれる時間を持てない作品もある。味わい方は人それぞれだが、作者の小説がどの世代からも受け入れられ読み継がれるのは、時代小説に題材をとったまっすぐな人間描写ゆえではないだろうか。　その時代小説につきものの封建制度を、桶谷氏は福沢諭吉の言葉として「箱のようなもの」だという。「蝉しぐれ」を例にあげ、その箱の中で生きる運命を生き抜く人々の生き様を描くことで、現代小説では味わえない感動を与える、と。もちろん読者である私たちにはもはや「箱」がない。箱がない今日では時間は直線的に未来へ流れ、封建の世では四季の巡りに合わせて円を描き流れる、ゆえにその時間間隔を時代小説が再現する時、めったに味わえない或る心の安らぎをおぼえるのだ、と。　時代小説に対する私の想いを、なんて巧みに代弁してくれているのだろう、と感激した。この短編集を読み終えた後に訪れた安らぎを灯して、今夜は安眠しよう。

  2010.05.04

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  世界一あたたかい人生相談　☆　幸せの人生レシピ

  1991年ロンドン発の、ホームレスの人たちの自立支援プロジェクトがビッグイシュー。いえ、支援＜応援でしょうね、きっと。そしてプロジェクトなんて大層な形容詞は使わない方がたぶん似つかわしい･･････。路上生活者が路上で売る雑誌「ビッグイシュー日本版」は定価300円。160円が販売者の収入になるそうだ。人気連載で初の単行本化が、『世界一あたたかい人生相談--幸せの人生レシピ』。読者の悩みにホームレスの人々が答える「ホームレス人生相談」もなかなかのものだが、回答に合わせて、癒し顔の料理研究家、枝元なほみさんが「悩みに効く料理」のレシピで応援する、二度美味しい人生相談なのだ。気になる箇所に付箋（ＦＡＸ送信メモのリサイクル）をつけていったら、結構な数になった。読み終えてから、絞りつつ付箋をはずしていく。「悩みがあるのはね、もう一段上の自分になるための通り道やと思ってほしいな」よく言われる言葉だけど関西弁が優しい。「それで、徹底的に考えてもわかんなかったら、いったん考えるのをやめてみる。」あ、これは実践してるかも。思考停止に近いかもしれないけど。実際「ひょっと答えが見つかる」こともあるから有効技だと思う。「怒りっぽいというのは、自分が弱いということやないかな。」なるほど。自分が傷つくのを自己防衛するために他人を攻撃するのか。「まだまだおれ自身も弱いねん。自分の嫌なところを隠そうとしてる自分もいてる。性格なんか直そう思ってもすぐには直らんし、悩んだり考え込んだりすると、そこで止まってしまうしな。だから無理せんと、もっと楽になりいや。」「“自分の言ってることが伝わらない”とあるけど、本当に真剣に伝えようとしたのかな。友達に対しても何に対しても“これだけは伝えたい”という時に、少しでもいいかげんな気持ちがどっかにあると、相手も気がそがれて中途半端な返事しか返ってこないと思うねん。」ううん。自分は一生懸命なのに、って正当化しそうな時に思い出したい言葉。「友達が離れていくのも、あまり気にしなくてええと思うよ。人間同士の付き合いって空気みたいな門で、くっついたり離れたり、また新しく引き寄せたりするやろ。つき合ってて性格が合わないと感じていても、不思議と惹かれ合う腐れ縁もある。反対の性格の人間が自分を中和してくれたりな。」上の記述は「怒りっぽい性格を直して、温和な人づき合いができるようになりたい」という20歳の読者への回答から抜粋したもの。青春まっ只中での友達環境は切実だろう。でも。人生を違う目線で生きている、違った年代の違った生活を送っている人の言葉は「不思議と惹かれあったり」「中和してくれたり」するものなのかも、と素直に思う。普通の生活をしていない（大体普通って何だろう）から特殊な人間の特殊な発想、と思わずに読んで欲しい。琴線に触れるって事は、共有できる想いがあるから。「悩みに効く料理」のレシピに添えられたなほみさんの一言とセレクトがまた楽しい。『どうしたら、身近な異性に興味をもつことができますか？』という相談へのおすすめレシピはショートケーキ「ケーキ屋さんで売っているみたいなケーキ作りに挑戦して、失敗するのはどうかしら？私はケーキの本を見て初めてケーキを作って見事に玉砕。二度と高望みはするもんか、と思いましたっけ。失恋よりも人生学んだ気がしました、ほんと。」納得したり、笑ったり。 

  2009.06.24

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  悩んだときは山に行け! 女の子のためのお手軽登山入門

  山が好きだーっという熱いメッセージが木霊している本。冒頭のごあいさつで「ちなみに私は運動オンチなのでご安心を。」と言われて安心し、「天性の貧乏性である私の金銭感覚で予算を紹介していますから」と書いてあるのを読んでちょっと揺れしかも「女子のための登山入門」という副題は伊達じゃない！コラム「スズキ式･山の登り方」の痒いところに手が届く親切さ。 まず、なにを買えばいいですか？ でも、なにか買わないと盛り上がらないんですが・・・・・・女子なのでいろいろ心配です、などなど必見。コラムはＱ＆Ａ方式になっているのだけど、このAnswerがまたなかなかイケる。例えば上の番号のコラムの回答（Ａ）はこんな感じ。とりあえず、なにも買わなくていいですよならば、この３つがあれば完璧です　注：ケチにもほどがあるスズキが選ぶ「初登山三種の神器」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　山用のアンダーウェア・靴・カッパそのうち気にならなくなります　注:と言いつつ親身で具体的なアドバイス満載さらに心強いことには地図が苦手なんですけど・・・・・・。読めなくてもＯＫ！どうでしょう。なんだか行けそうな気分になってきますよね。バイト先を含む山小屋情報も具体的で楽しい。章の扉にある自作版画（スタンプ）も乙女な気分にさせてくれる。とはいえ、何度も訪れている場所に行くにも時々迷ってしまう方向音痴の私の場合、やはり一人で行く勇気は出ないなぁ。生死にかかわりそうで。そんな私でも山を楽しんだ気分になれる貴重な１冊。これだけ好きなものに出会えたら人生悔いなし！と羨ましく思えてしまう。 

  2009.06.23

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  居眠り磐音江戸双紙 29 「冬桜ノ雀」を読む

  大好きな居眠り磐音江戸双紙シリーズ最新刊を読み終える。磐根シリーズも２９作目。エンターテイメントだからなんでもありでいいとは思うものの、今回は忍術どころか宇宙空間まで飛び出し、なんだか山田風太郎じみてきたような。それでいても爽やかで正攻法の磐根は、実にまた魅力的なのだけど。次作では家族が増えそうな勢い。うう～ん。どこまで続くかな。いつまでも読みたいような、いいトコロでページを閉じたいような。複雑な読者ゴコロ。この春ＮＨＫ土曜時代劇でもドラマが再開し、山本磐根にうっとりしている今日この頃。そう言えば、３月に読んだ「居眠り磐音江戸双紙２８　照葉ノ露」。どんな感想だったろう･･････記録が残っているといいけど。“う～ん。やっぱり磐根はいいなぁ。切なくも温かい。読み終えた後の心地よさを感じるために読んでいるのかもしれない。中年（という言葉は好かないけど）女性にとってのハリポタ的存在、という随分前に読んだ新聞記事が思い出される。納得しちゃうなー。”･･････どこまでもミーハーな読み方をしてるな、私

  2009.06.03

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  石持浅海作品三題

  始まりは「ＢＧ、あるいは死せるカイニス」。　　　　　　ポセイドンはエラトス王の娘カイニスと交わった際、　　　　　　何でも望みをかなえてやると約束した。　　　　　　カイニスは男になることを望んだ。　　　　　　願いは聞き届けられた　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ギリシャ神話よりすべての人間が女性として生まれ、限られた一部の優秀な人間が男性化する世界での話。時間軸はそのまま、パラレルワールドに近い設定。読んだ直後、残業の日々に突入し感想を書き留めておくことができなかった。ただ作者への評価が定まらなかったので、あと何作品か読んでみよう、と思い立ったまま時間が流れていた。そして今月。執筆順の長編３作品を読んでみた。　　　アイルランドの薔薇 (光文社文庫)　　　　05/21 　　読了「BG、あるいは死せるカイニス」を読んでから、評価にとまどい他の作品を数冊読んでみよう、と思い立ってから早数ヶ月。時がたつのは早い。内容を忘れてしまうのも早い。でもこの作品を読んで、独特の「あの感じ」は思い出せた。[ポリティカル本格ミステリー]かどうかはよくわからないが、題材を見つける視点が面白い。非日常の設定なのだけど、考えてみればミステリこそ非日常の世界。人物の描き方もこの作品ではまだ荒さを感じるが好ましい印象。 　　　月の扉 　　　05/23 　　読了先に読み終えた「アイルランドの薔薇」より文章が洗練された印象。登場人物の書き分けもいい。前作もそうだったが、素人探偵の個性や謎解きが魅力的だ。余韻もあり、物語としてよくまとまっているが、それ（背後から乗客を監視していると思わせる）にしても、これだけの「談議」が繰り広げられるのに邪魔が入らなかったというのは苦しい。緻密に考えられてはいるのだけど、やはり、それにしても。ラストが、切ないだけにタイトルと合わせて幻想的な幕引きに仕上がっている。師匠のような人がいたら、会ってみたい、とは思う。そういう人物がなんのためにいるのか、いないのか。そこまで考えたくなった作品。 　　水の迷宮 　　05/28　　　読了　「地球を造ってみないか？」とはなんて魅力的な誘い文句だろう。水族館は群衆を飲み込みながら外界とは異質の閉鎖空間。Ｂ＆Ｂ、飛行機に続く密室の舞台としても完璧。　結末の受け止め方は人それぞれ異なるだろう。しかし。全編を貫く熱い想いの核が一人の男の壮大な夢であり、謎解きが一度は廃れた水族館とともに生まれ変わった職員の、過去･現在･未来の人間模様を浮き彫りにする触媒であったりする構成は、最後の感動を素直に共有させてくれる。解説の辻真先氏が『純情な一ミステリ読者として気持ちのいい涙に暮れた。それはこの作品が、たとえ[現実]離れしていても[真実]離れしていないからだと思っている』と語るその気持ちがよくわかる。石持作品をどう評価すべきか、結論を持ち越したまま読み始めた執筆順３作目。やっと晴れやかに面白かった、と言える。

  2009.05.28

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  四月に読んだ本たち

  4月の読書メーター　　読んだ本の数：6冊　　　読んだページ数：331ページ 作者の展覧会に行って読みたくなった１冊。おみやげコーナーでは早々に売り切れたそう。動物に寄せる愛が熱く伝わってくる名ガイド。単なる癒し本とは違う温度を感じます。 読了日：04月15日 コラボもいいなぁ、と感心した１冊。工藤直子さんとあべ弘士の絶妙の職人技。生き物の伝説が23編語られるがどれも秀逸。アリは自分の小ささにコンプレックスを持ち、いつでもどこでもチクチク地球をかじって小さくしているのだという。『じつにまじめな　あたまとじつにまじめな　おしりだがウエストのところが　ふまじめだ　　　　　　それを　みやぶられまいとありたちはいそがしくあるきウエストをみせない』読了日：04月21日  楽しい！頷ける！句会常連は「雪野袋」「鳩野ポッポ」「北風コンザブロー」「大耳はな」「河うそ雄」「ハーリー・トゲマル]キャラクターが皆さん愛すべき人物･･････いや動物たち。可愛いだけではないのだ。人間以上に人間臭い。考えれば動物なんだから野性の本能の濃さは当然人間以上なんだよね。その彼らが人間のように句を詠むのがまた一興。春夏秋冬の絵も実にいいです。読了日：04月22日 「オトマノペ」は「ワンワン」とか「きらきら」など音や様子を現す言葉だそう。音（オトマノペ）を入れて詠む句会というのが今回の趣向。いい句揃いで迷いますが私好みは『ピチャピョロリ　オタマジャクシが　初泳ぎ』 かな。食べ物限定の句を読み続けるカワウソのうそお君の『ユラクネリ　鰻クネクネ　のどゴクリ』　 も捨てがたいですが。世界中から募集した「投句」も面白い。これはぜひ続編を読んでみたいシリーズ。読了日：04月23日 表紙が怖い･･････と思っていたので、作者あべ氏原画展品を美術館で鑑賞した後も並べられていた絵本に手も出さずじまいだった。中を開いてみればよかったのに。「オオカミがシカを食べることも、シカがオオカミに食べられることも、悪いことではないのだそのことはオオカミもシカもよくわかってのことだ」言葉だけ切り取るとありふれたように響くが、あべ氏の力強い挿絵と動物たちに向けるあたたかい眼差しが、それだけではない感動を与えてくれる。読了日：04月27日 これまた表紙の烏が怖くて手にしなかった本だが、開くと絵も内容もいい。動物たちのしぐさや表情があべ氏ならでは。北海道の湿原に住む生き物たちの裁判のお話。タンチョウを訴えたのはえさ（年貢）になるヤチウグイという魚たち。裁判が進むうち、問題が見えてくる。環境問題の講義を１時間聞くより、わずか５分この本を読んで欲しい、と思わせるお話。読了日：04月29日 　あべ弘士月間。　　 本当は3月に読んだ伊坂幸太郎作品「モダンタイムス」に影響されて読み返した「魔王」その他もある。読んだらすぐ記録しないとあっさり忘れてしまう自分が悲しい。自戒をこめて4月分を思い出せる限りUP。 

  2009.05.01

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  11月の読書記録

  11月の読書メーター読んだ本の数：6冊読んだページ数：1877ページスリーピング・ドール ライムシリーズ第６弾「ウォッチメイカー」で助演女優賞を獲得した尋問のプロ、キャサリン・ダンスにスポットライトをあてたスピンオフ作品。やはりディーヴァー！こう来たか・・・・・さらにこう来る？！とクライマックスは例によって怒涛の展開。いい仕事をしてくれます。読了日：11月08日 　　　著者：ジェフリー ディーヴァーぐう~の音 エッセイ漫画ならこの人、の安定感。しかも好き嫌いなくよく食べる！特に内臓関係の描写は愛を感じる熱さ。スッポンなんて食べたいとも思っていなかった私が、まるごと味わえるその奥の深さに触れてついふらっと興味を持ってしまった。今回は「紹介」がメインなので、レシピがないのがちょっと残念。いやでも趣向が違うからそれで正解か。読了日：11月09日 　　　著者：大田垣 晴子灰色のピーターパン―池袋ウエストゲートパーク〈6〉 (池袋ウエストゲートパーク (6)) 久々に池袋ウエストゲートパークシリーズの続きをまとめ読み。相変わらずのメンバーが相変わらずの活躍ぶりでほっとするけど、ううん。いいのかな、こんなに変わらなくて。水戸黄門ファンの私だからその安定感も好きだけど。読了日：11月10日 　　　著者：石田 衣良Gボーイズ冬戦争―池袋ウエストゲートパーク7 面食いと言われてもいい。池袋のガキの王、キング「タカシ」はカッコイイ！ ＴＶドラマはあまり見ない私が、かつてはまった宮藤官九郎脚本のテレビドラマ版では、窪塚洋介が演じていた。最近映画「ＩＣＨＩ」でも組長の息子役で出ていたが、『I.W.G.P.』を思い出してしまったなぁ。初登場の「影」は今回だけのキャストだろうか。気になる人物。読了日：11月13日　　　著者：石田 衣良非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク8 I.W.G.Pシリーズ最新作。「灰色のピーターパン」から一気にシリーズ３冊を読み終える。いいな、男の友情って。定番だけど、女にはないごつさと甘さがいい。それにしても作者、どこでネタを仕入れるのだろう。シリーズを読むとその時代の社会現象がわかる。今回は非正規雇用問題。いつだって世の中に新しい視線を向けているたゆまぬ努力と好奇心に感心してしまう。読了日：11月17日 　　　著者：石田 衣良5年3組リョウタ組 石田 衣良、この人はよき編集人に恵まれているのか自らの取材力が素晴らしいのか、現場をよく勉強してますね。「現代版坊ちゃん」のリョウタ先生の活躍は、「優秀な同僚」染谷によって際立っている。いいコンビだ。読了日：11月24日 　　　著者：石田 衣良

  2008.12.15

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  10月の読書記録

  　　10月の読書メーター　　　　　　　　　　　　　　読んだ本の数：8冊　　　　　　　　　　　　　　読んだページ数：2751ページ最後のアジアパー伝夏にアジアを旅したので思わず読んだものの、表紙の「最後の」を見逃していた私。シリーズ最終作から読んでしまった模様です・・・・・。　　　　　気になるから遡って読むべきか。　　　　　観光旅行では見ることのできない面を読みながら納得したような不思議なような。　　　　　現地に行っただけに複雑です。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　読了日：10月02日 著者：鴨志田 穣石榴ノ蠅 (双葉文庫 さ 19-29 居眠り磐音江戸双紙)山本磐根が大好きではまったこのシリーズ、全二十数巻を読破してようやく追いついたのが前作あたり。いろんな事が大団円にまとまりすぎて今回などはまるで番外編の趣きも。　　　　　次回からはテンポのよい展開を楽しませてもらいたいもの。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　読了日：10月05日 著者：佐伯 泰英狂骨の夢 (講談社ノベルス)シリーズ３作目。ボリュームも内容も手ごたえあり！　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 読了日：10月13日 著者：京極 夏彦宗像教授伝奇考 (第4集) (潮漫画文庫)105円の古本市で４～６巻をゲット！　　　　　　このテの本は久しぶりでワクワクしたものの期待が大きすぎたかな･･････。　　　　　　続く巻に期待（＾＾）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　読了日：10月23日 著者：星野 之宣鉄鼠の檻 (講談社ノベルス)１作目で名前だけ知ったあの人物がこんな形で帰ってくるとは。そしてあの人も･･････。毎回初登場の知人が出てくるのもなんだか楽しみになってきた。　　　　 ネズミ顔の古物商は今後どんな風にかかわってくるのかな。　　　　 それにしても今回も800ページ超。なぜこうも長いのだ・・・・・。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　読了日：10月25日 著者：京極 夏彦いっちばん映画「闇の子どもたち」を観てあまりの闇の深さに浮かびきれずにいた私。中和剤にしゃばけシリーズの最新刊を読んでみた。成功（＾＾*）ミステリ風味はまったく影を潜めてしまったけど、　　　　　安心して読めるほのぼの感が嬉しい。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　読了日：10月27日 著者：畠中 恵宗像教授伝奇考 (第5集) (潮漫画文庫)諸星大二郎の「西遊妖猿伝」を思い出させる平将門＆孫悟空のミステリー『西遊将門伝 』 。　　　　　 「斉天大聖」というキーワードで結びつくとは思わなかった！　　　　　 「天皇」の名称が、道教の最高神の一つ天皇大帝（てんこうたいてい＝北極星）から来ているのは初めて知った。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　読了日：10月30日 著者：星野 之宣宗像教授伝奇考 (第6集) (潮漫画文庫)義経＝ジンギスカン説は有名だが新撰組の土方歳三になぞらえるとは・・・・・。　　　　　　面白い切り口だなぁ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　読了日：10月30日 著者：星野 之宣ブログで紹介されていた読書メーター。この秋最高に嬉しいサイトとの出会いになった。読んだ本の感想や情報をとりあえず書き込んでおける。おすすめです

  2008.10.31

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  容疑者Xの献身

                                        容疑者Ｘの献身 　 東野圭吾/著なるほど。映画「デスノ－ト」も天才同士の対決だったがこちらも。 天才数学者と天才物理学者の対決。 主人公の石神は数学を純粋に愛するがゆえに大学内部での堕落した現状に幻滅し高校教師の職を選ぶ。その彼が、存在してくれるだけで幸せを感じる女性に出会う。不幸な巡り合わせで殺人を犯してしまった彼女を守るため、完全犯罪計画を練り、ある決意を固める。正直クライマックスに至るまでは淡々と読み進めていたのだ。論理重視はいいけど情愛的には数学の美同様シンプルかしらね、と。最後にああいうしかけがあったとは。彼の構築した論理を崩したのが、旧友であり天才物理学者湯川（ガリレオ先生シリ－ズってのがあるらしい）の友情と、他ならぬ彼女の真情、という非論理的な心のエネルギ－だったことは、ありふれているけど感動的。天才の論理は理解できなかった凡人の彼女が、すべてを知った時の心の揺れには共感できるし、選択も「こういう彼女だからこそ彼は」と「動機」を納得させる力がある。是非はともかくとしても。女性にとっては理想的な男、工藤を対照に置いたことで、愛し方にもさまざまな方法があることを効果的に知らせる。ともに幸せになる生き方、そうでない生き方。『自分が愛する者にとって幸せな道を選ぶ』 同じ作者の先日読んだ作品、「秘密」に出てきた台詞が甦る。 これもまた切ない選択。 2006年（134回） 直木賞 受賞作。個人的にはなぜ「秘密」で受賞できなかったのか、と思うのだが。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　                             　（2006.08記）原作を読んだ時の感想を引っ張り出してみた。当時の記憶の糸をたぐりよせても、感想を読んでも、世間が絶賛するこの作品をどうやら私は手放しで賞賛していない。映画を観て思い出した。トリックに使われた「歯車」の存在を軽く見ているような印象（これを克明に描いてはどんでん返しが成立しないから、今思えばやむを得ないわけだけど）がどうしても倫理的にひっかかったのと、う～ん、なんだろ･･････結末が、こうすっきり落ちてくれなくて、昇華度がいまひとつだったんだと思う。しかーし。今回の映画化作品では！　　　　　　　　　　　　　　　　　              　To be continued...... 

  2008.10.04

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  The MANZAI

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　The MANZAI１～４ 　ピュア文庫　　あさのあつこ　　　　　　　　　　　　　“中学二年の秋、十月の最初の木曜日。　　　　　　　　　　　　　ぼくは、俗にいう『おつきあい』を申し込まれた。”物語の冒頭はこんな風に始まる。微笑ましい。『おつきあい』を申し込んだ相手が「ぼく」と同学年の大柄な男でなければ。中学二年･･････微妙にくすぐられる年齢設定だ。靴のサイズが28.5cmではもう小さいと言い出した伸び盛りの甥っ子の歳でもある。どっぷり子どものままで心は大人に近付き、人生を、恋愛を、友情を、もしかすると一番ストレートに考える時期かもしれない。理屈や論理より先に、感受性が相手（人間とは限らない）を捉える、そんな透明な時。この著名な作家の小説を私はまだ読んでいない。代表作の「バッテリー」ですら、原作はもちろん映画も見逃し、ＮＨＫのテレビドラマをちらちら眺めた程度なのだ。それでも見聞きする限り、主人公の巧は切れ味鋭い（鋭すぎる）スーパー中学生のようだが、こちらの作品では陰陽をなすように、普通の中学生たち（とはいえ家庭事情にそれぞれキズを持ってはいるのだが）の特別な繋がりが、ユーモラスにテンポ良く描かれている。文庫1冊目の巻末、重松清との特別対談では、あさのあつこの描く少年の魅力について書かれていて面白いが、2巻目の芦原すなお氏の解説も作品紹介としてわかりやすい。そのまま引用させてもらおう。作者はこの物語において、「特別な」魂がどのようにして他の「特別な」魂と結びつくのかを描いている。別の言い方をするのなら、どのようにして友情が生まれ、育っていくのかを書いている。『バッテリー』のときのように、まるで苦行のように孤高の魂の奇跡を書き綴っていくのではなく、作者自身が作品の中でゆったりと遊んでいる。主人公の歩は、“･･････ぼくは、他人に対して神経質だと自覚している。表面的には親切とも優しいとも見えるけれど、神経質なだけだ。臆病と言いかえたほうが良いかもしれない”少年だ。そんな歩を心から愛する（なんて書くと歩は真っ赤になって怒りそう）貴史は、“ま・ん・ざ・い。なっ、犯罪やなくて漫才。ええやろ？なっなっ” と漫才のパートナーになれ、と誘い続ける。理由は“だっておかしくて笑ってるときに、人を傷つけたりはせんやろ。なっ、歩、おもろいやつが一番やで。他人を愉快に笑わせるなんて最高やないか” である。歩は“人と人との間合いって、剣豪小説のように、白刃を交えて切りあうためじゃなく、普通に生きていくのにこそ必要なんだ”と思っている。間合いを全く無視して踏み込んでくる貴史はやっかいなのだ。“漫才なんかやりたくない。それでも、心の一部がとんとんと弾んでいる。言葉を使って人を傷つけるよりも、言葉を使って人を笑わせる方が、何倍も尊いことだ。”と思うようになる。貴史を一途に慕う美少女メグが、歩の憧れのマドンナ「発光少女」だったり、クセのあるメンバーに囲まれたりで羨ましいくらい密度の濃い中学ライフは、まだまだ波乱含み。漫才の持つ、キレがあって、嬉しくも悲しくも可笑しくてあったかい、あの余韻を残して物語は続きそうだ。「嘘をつくな」「逃げるな」なんて、きれいごとに付き合っていたら、とんでもない目に遭う。ぼくはまだ十五歳だけれど、それくらいは知っている。十五歳だから知っているのかもしれない。嘘をついても、逃げてもいい。でも、嘘をついてはいけない、逃げてはならない相手もまた、いるのだ。そんな相手に巡り合うことこそ、人生の醍醐味。中学生でそれが叶った主人公は幸せ者だ。

  2008.07.28

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  悪人 　　　　

     幸せになりたかった。ただそれだけを願っていた。   保険外交員の女が殺害された。   捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者。   それぞれの家族たち。   群像劇は、逃亡劇から純愛劇へ   なぜ、事件はおきたのか？なぜ、二人は逃げ続けるのか？   そして、悪人とはいったい誰なのか？　　　　　　　　　　              　～帯書きより～読み終えてしばらくはやり切れない。「これでいいのか？」という結末への焦れた思い（これは作者の狙い通りと思えるが）と、かなり読ませる！と引っ張られて読んだ挙句のオチがあまりにも俗っぽいことへの落胆と。え？そんな一昔前の少女漫画によくあるオチでいいの？と思わずにはいられない。（私は漫画好きなので浸って読んだその頃の作品は大好きだが、それはそれとして。）文章にも構成にも書き手の巧みな技を感じるだけに残念。       　第一章「「彼女は誰に会いたかったか？」         　第二章「彼は誰に会いたかったか？」         　第三章「彼女は誰に会ったか？」         　第四章「彼は誰に会ったか？」         　最終章「私が会った悪人」誰しも読み終えた後、タイトルに戻って考えるだろう。誰が『悪人』だったのか。そもそも「悪人」ってなんだろう。作者の造語だろうか。「善人」に対して皮肉をこめた「悪人」。歴史上の人物の中でも抜きん出てエキセントリックな親鸞が浄土真宗を広める際、『歎異抄』に残した言葉にも出てくる。『善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや（善人が極楽往生できるのなら、まして悪人ができないはずがない）』。しょせん凡夫＝一般ピ－ポーは自力で往生するための善を成しとげることはできないのだから、悪人（この場合は自力で悟りを開く修行ができない人？）と自覚している人の方が、仏様におすがりする以外に道はない、と素直で一心に信仰できる分、自分は善人だと思っている人より阿弥陀如来に救われる、くらいの意味か。世の中自分は善人、と思い込んでいる人間が圧倒的に多いはず。人間もっと謙虚であるべきかもしれない。被害者となる女性にしても、親にとっては可愛い娘だが、傲慢な二面性があった。それにしても「悪者」と一字違えただけで、ずいぶんと哲学的な匂いを持つ。匂いと言えば、そう。終盤出てくる文章があった。俺、それまでは部屋にこもって映画ばっかり見とったけん、人間が泣いたり、悲しんだり、怒ったり、憎んだりする姿は、腐るほど見とったっちゃけど、人の気持ちに匂いがしたのは、あのときが初めてでした。主要人物でもない、ある若者が被害者の父に出会って、というより遭遇して感じたことを後に語った一文だったと思う。人の気持ちに匂いがあるなら、文章にもあっていい。この作品はどんな匂いがした？すでに読み終えて一月以上が経っている。思い出の中の匂いは、少し湿っぽい。 

  2008.07.24

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  楽　　園

  「模倣犯」の犯人逮捕から９年、犯人を追い詰めたフリーライターの前畑滋子は事件で受けた傷からいまだに立ち直れないでいる。そんな彼女の元に舞い込んだ奇妙な依頼。ひとり息子を交通事故で亡くした母は、彼が「頭に浮かんだ絵」を書き留めたノートを持参する。“コウモリの風見鶏の家に横たわる灰色の肌の少女”は実際に起きた事件の予知なのか？何より前畑滋子を震撼させ、再び「事件」を追う起爆剤となったスケッチがそこにはあった･･････。『模倣犯』以来の宮部作品。「R.P.G」「ドリームバスター」「あかんべえ」「ブレイブ・ストーリー」「誰か」「ICO 霧の城」「日暮らし」「孤宿の人」「名もなき毒」「この子だれの子」。時代物・ファンタジー・児童向け作品を除けば、現代を舞台にしたものは「R.P.G」（未読）と新シリーズ「誰か」「名もなき毒」（期待されない部署勤めの普通のサラリーマンが日常の中の非日常に向かい合い、素人流に事件を追う話。ほっこりしているのになぜかもの哀しい。）の３作品しかない。『模倣犯』は作者にとっても、重い十字架になった作品なのか原案は、作者自身が『模倣犯』連載中に見た（作品中では12歳という若さで他界する等という少年が“見た”）、あまりにも鮮やかな夢なのだそう。目が覚めた時の、涙が出そうな寂しさと悲しみも作品のモチーフに影響しているのだろう。『模倣犯』でも登場した人物や、新しい登場人物が、いろんな立場から事件にかかわる。前作（と書くにはためらいがある。決して『模倣犯』の続編ではないから･･････）で印象に残った豆腐屋の祖父のように、今回誕生した魅力的な人物は、萩谷敏子（等の母）という「象の目」をした婦人である。太っていて鈍重だという意味でお前の母親は象みたいだ、と級友にからかわれた等が、むしろ誇らしげに言う台詞がいい。「―象ってね、野性のときでも、人間に飼い馴らされてからも、目つきが変わらないんだよ。ずっとああいう、穏やかな目をしているんだよ。それは知性があるからなんだ。そんな動物、ほかにはいないんだって。」人物の造型のうまさやストーリー展開は流石。もっとも今回は早い時点で事件は一応の解決をみている。真相に迫る過程で糸口になった「一時保管箱」、そこにいくつも入っていたマッチ箱の意味、うん、日常の観察眼が鋭い、唸らせる。物語が進んでいく中、絡み合う人々の思惑や悲しみ･やりきれなさが切ない。滋子の夫（人情に弱く感激屋）昭二が思わずこぼす一言が、あまりにも素朴に真っ当で、はっと胸を衝かれる。 「なんで子供が死ぬんだろう。なんでそんな悲しいことが起こるんだ？」心中、滋子は繰り返す。“なぜ子供が死ぬんだろう。なぜ大人にならない少女が殺されるのだろう。”二人がその時思い浮かべたのは、それぞれ12歳の少年と15歳の少女。死の原因は異なるが、喪失の悲しみは等しい。残された家族にとって、真相にたどり着くことは本当に必要なのか、そんな深刻で答えの出ない問題提起もある。親子関係のあり方も。それでも。萩谷敏子という母親の存在に救われる。最後に吹く風は、彼女の悲しみだけでなく、作品に取り込まれた読者にまとわりつく悲しみの影も払ってくれる。なぜなら。萩谷敏子という人はそういう人なのだ。

  2008.07.05

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  使命と魂のリミット

  ※深刻なネタバレはないつもりですが、これから読む予定のある方はご注意　　　　　閉鎖空間・タイムリミット・隣り合わせの生死　　　　　　　　　　　　　　あの日、手術室で何があったのか？　　　　　　　　　　　　　　今日、手術室で何が起きるのか？　　　　　　　　　　　　　　　　　　　心の限界に挑む医学サスペンス舞台が病院ということもあって、帯書きには劇的な文字が並ぶが、これはサスペンスというより、ヒューマンドラマの方がしっくりきそう。いかにも深刻なタイトルは壮大すぎて、天邪鬼な私は感情移入しにくいでもなかったが、ラストを考えると、むしろ「リミット（限界）」の方が重点だったのかもしれない、と思える。手術室も三次元的な意味だけでなく様々なリミットを持つ場所だし、「使命」を果たす側の力量にも「魂」の容量にもリミットはある。有限であることを、それでいいんだと受け容れるような優しさと、限界点を設定するのは自分自身だという諭しが矛盾せず存在している。中学生の頃、元気だった父を心臓手術の失敗で永遠に失った氷室夕紀。名医とされる執刀医はなぜ失敗したのか･･････拭いきれない疑惑を自身で確かめるために、彼女は心臓外科医となることを決意する。大学病院の心臓血管外科で研修医として消耗していく毎日。自分の仕事ってなんなのだ、父が死を前に語った誰もが持つという使命を、果たしているといえるのか、と自問する惑いの日々。「医療ミスを公表し、謝罪しなければ、病院を破壊する」と突然舞い込んだ脅迫で病院側も組織として追い詰められる中、次第に明らかになっていく事実の皮肉な巡り会わせに、彼女の疑惑は抱えきれるリミットに達していた。かつて父の手術をした医師の助手として、父と同じ内容の手術にたち合う機会を得た夕紀。脅迫の狙いは何なのか？そして有紀の疑惑はどんな決着をみるのか？過去は、そして未来は。医師の、夕紀の、犯人とそれを追う刑事の、想いが交錯し自分という魂への挑戦が始まる。ストレートな作品だと思う。だからこそ読み終えた時に安心できるし、それだからどこか漂う物足りなさも否定できない。主要人物はみな、「嘘がつけない」人間だと言ってしまっていいだろう。それぞれが人生に傷を持ち、自分がなすべきことへの想いが熱い。魂のベクトルが同じなのか。人間模様以外でも、研修医制度の実情や医療ミスなど最近の医療現場の旬の話題や、犯行に導く遠因となった時事問題も扱っている。「遺族というのは、どんなに医師がベストを尽くしたといっても、腹の底から納得しているわけではない。何とかできたんじゃないか、と何年経っても疑っている。それを言葉に出さないのは。単にきっかけがないからだ」という指摘も率直だ。その“きっかけ”を与えられた時の集団心理も、犯人のある目的を手助けすることになる。帯書きに煽られず、先入観を持たずに読んで欲しい。

  2008.06.23

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  模倣犯

  　　　　　　　1995年11月から1999年10月までの４年間『週刊ポスト』に掲載された原稿を元に、2001年3月、分厚い上下巻として世に出る。翌2002年には森田芳光監督、中居正広主演で映画化。映画館まで足を運ぶ気になれずテレビで観た記憶があるが、ラストの衝撃シーン（原作とは異なる）しか憶えていなかったのが幸いして、物語の進行を最後まで楽しむことができた。連続誘拐殺人事件の顛末を、数多い登場人物それぞれの立場から追った長編なので、読み応えはあるが重い。救いがないまま突き放される最後でないのが幸いだ。終盤に近付くにつれて、日本初、未曾有の事件を描いているのに、なぜタイトルが「模倣犯」なんだろう、と気になったがなるほどこういうオチか、と納得。連載期間の長さを考慮しても、あまりにも種々のテーマが盛り込まれていてまとまるのかとはらはらもしたが、流石だ。宮部作品は数を読んでいないが、過去に目にしたもので近いと思ったのは『理由』（高層マンションの一室で発見された四人の惨殺死体の謎を、事件を巡る様々な人々の証言で追ったルポ形式の作品）。硬質で鍛錬された体のような趣きだったが、この『模倣犯』は“人間が誰しも抱える心の闇”を描いている分湿度が高い。事件が結末を迎えた夜も雨が降っていた。「凍るように冷たいが静かな雨だった。」　　1996年9月12日の朝、一家惨殺事件の唯一の生き残りである塚田真一は、犬を連れた散歩中に、公園のゴミ箱で女性の右腕を発見する。その後の捜査で行方不明になっていた古川鞠子のハンドバッグが発見されるが犯人を名乗る人物は「右腕は古川鞠子のものではない」とテレビ局に犯行を告げる電話をかけ、連続誘拐殺人事件としてマスコミの注目を浴びる。古川鞠子の祖父、有馬義男へも傷心の彼を弄ぶかのような電話をするが･･････。女性の失踪事件を追ううち事件にたどり着くルポライター・前畑滋子は「被害者はなぜいつも女性なのか。私たちはなぜいつも殺されなければならないのか」と事件に対して男女では向き合い方が違う事実に気づかせてくれる。一家惨殺事件加害者の一人娘で、あろうことか事件で受けた傷口から血が流れたままの塚田真一に父親の減刑嘆願に協力しろと詰め寄る樋口めぐみの行状は衝撃的だった。捜査の後方支援デスク担当の武上悦郎や元同僚の“建築家”のアプローチの仕方も面白い。数多の登場人物の中で、もっとも魅力的に思えたのは、有馬義男その人。40年以上も豆腐屋を営んできた彼の洞察は深くて普通にわかりやすい。「あんたら若い人は、よくそういうものの言い方をするね。」（中略）「自分には何々する資格はないとかさ。自分は何々だと思ってコレコレのことをしてきたけれど、本当はそれは偽りで（･･････略･･････）」（中略）「ホントは違ってた。ホントはこうだった。やめなさいよ。あんたがそのとき考えたことが本当なんだよ。本当のあんたは、そのときそのときその場にちゃんといるんだよ」被害者の遺族は「あの時自分がこうしていたら、こうしなかったら（殺されずにすんだかもしれない）」と事件の後も自分を責め続ける。殺人者は二度殺すのだ。最初は被害者の肉体を。次には遺族の心を。この本を読んでいる最中に起きた秋葉原の無差別殺傷事件を、悲しいことにマスコミや人々がやがて忘れる日が来ても、被害者と遺族は忘れない。癒し、なんて一言では言い尽くせない切なさ。動機らしい動機がない殺人は、不条理な悲しみが募る。

  2008.06.14

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  チーム・バチスタの栄光

  映画『チーム・バチスタの栄光』を観る前に、以前原作を読んだ時の感想を探してみた。『このミステリーがすごい！』大賞受賞作。医療過誤（って医療ミスとどう違うのかなあ）か殺人か。不定愁訴外来（通称愚痴外来）担当で上昇志向皆無の万年講師田口先生と、厚生労働省の肩書きの長い役人かつエイリアンの白鳥（名前のイメージは美しいだけに･･････）の異色コンビがグロリアス・セブンと賞賛される心臓外科手術スタッフ、チーム・バチスタにまとわりつく死の謎を追う。作者は現役医師らしい。なるほど専門語もぽんぽんと飛び出す。典型的文系の私が投げ出さず読み通す事ができたのは、医療現場の裏事情のリアリティと、しだいにノリがよくなるコミカルな田口先生の語りによるところが大きいかも。正直前半は少し気だるかった。嫌いな文章ではない。どちらかといえば好きだがどうもテンポがいま一つ。と思っていたら後半いきなり現れた迷（この場合は迷惑の迷、かも）探偵、浪花の商人が論理で完全武装したような白鳥の登場で一気に活気づいた。事件の流れも文章のノリも。田口に割り振られたと思われた探偵役をなぜ途中交代する？と不思議に思ったが、白鳥の品性のかけらもない熱弁に頭に来たり感心したりですっかり感情移入してしまい、いつのまにやらぐいと引き寄せられている。犯行の手口としては密室完全犯罪を匂わせた割にはあっけない種明かしで若干物足りない。だがそこにたどりつくまでのチ－ム・バチスタの内情暴露と、登場人物のカルテ作成は十分楽しめたし下地になってる。重いテーマを救うような春のラストシ－ン。私はほっとして受け止めたけれど、これをどう受け止めるかで筆力への評価も微妙に変わりそう。作者は1961年、千葉県生まれ。この作品がデビュ－。今後の作品でどう出るか。楽しみ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００６年９月３日記 偉そうだなあ。　　でも確かにそう言えば、テンポが白鳥の登場から劇的に変わるのだった。　　ファンファーレが鳴り響き、さてここからが本番だ、という勢い。　　白鳥役の阿部ちゃんの健闘やいかに。 

  2008.02.27

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  読書に精進中

  よんどころない事情で『居眠り磐音江戸双紙シリ－ズ』読破を最優先事項に設定してからかれこれ１週間。今夜は５巻目に突入。さっき１話目を読み終えた。居眠り磐音 江戸双紙２居眠り磐音 江戸双紙３居眠り磐音 江戸双紙４「縁側で居眠りする老猫を思わせる」居眠り剣法の達人にして春風のような主人公、坂崎磐根はその外見に似合わない風雲児（このあたり大好きな「桃太郎侍」風でいいかも）。常に嵐が巻き起こる。以下ネタバレ注意報。委細は省いてありますが筋を知りたくない場合は飛ばしてお読みください。幼馴染であり幼き頃から夫婦の縁を誓った許婚・奈緒は、なんと家族を救うため、自ら女衒に身を売る決断をする。奈緒の行方を追って長崎、小倉、京都さらに金沢へ旅する磐根。美貌と気品･教養を買われ転売されるたびにつりあがる奈緒の値はもはや千両以上。皮肉な事に最後に行き着いたのは、藩を抜けた磐根が住みついた江戸であった。今読んでいるのは、吉原に華々しくデビュ－を飾るその日が間もなく、という頃合。５巻目の冒頭。苦悩しながらも諦観したように見える岩根の言葉が沁みる。『遊里の外から奈緒の堅固を祈りつつ過ごす。その気持ちがいつの日にか、奈緒にも通じるはずだ。そのような男と女がこの世の中にいても、またそのような夫婦のあり方があってもよいような気が磐根はしていた。』『世の中にはできることとできぬことがございます。今のそれがしには、遠くから奈緒殿の無事を祈る事しかできませぬ』･･････ここまで苦労しながら、想いながら、と若い友人柳次郎や、磐根を慕いつつ同性の奈緒を思いやるおこんは、それでいいのか、と問うが手立ても浮かばぬまま、静かな磐根にかわって憤っている。生涯妻は持たぬ、という磐根の決心がこの先どう変転していくのか、女としても見届けたい。二十数巻目から読み始めたので先が見える分ちょっとキビシイのだが、その間の経緯を想像しながら読むのも一興。ああ、ネタが古くなってしまふ････と嘆きつつ、なかなかブログが書けないのも、訪問してコメントできないのも、読書に精進中のため、と大目に見てくだされたし。

  2007.11.19

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  居眠り磐音江戸双紙シリ－ズ　「陽炎の辻」

  佐伯泰英氏の「居眠り磐音江戸双紙」はシリ－ズ途中の20～21巻を同僚から借りて読み出した。その後、これはいい、面白いと思いながら、読書の時間そのものを確保できずにあっという間に時ばかり過ぎた。なんと３か月以上経過。我ながら呆れる。この間ＮＨＫ木曜時代劇新シリ－ズで山本耕史主演の「陽炎の辻」がスタ－ト。これまた面白くて一気に加熱するも、本は進まず。情けない。そんなこんなでＴＶ版の方は最終回を迎えてしまった。重い尻をあげることになったのは････というよりひっぱたかれたのは、前々からお願いしていたリクエストに応えて、図書館がシリ－ズを買い揃えてくれることに決まったから。新刊なので私が読まない限り次の方が読めない。これはマズイ。やうやう踏ん切りがついたかと思えば、それでも一週間、手をつけずにいたんである。私ってヤツは。とうとう。とうとうですね、昨日と今日で一巻目を読み終えました。昨夜は寝る前に１００ペ－ジくらい。今日は最優先課題にして食後に没頭し残り２５０ペ－ジを読み終えた。会話文が多いし、文字も大きいので、読める人なら一晩で楽に１冊読めそうなのだ。が。私は読むのが致命的に遅い。今週末の期限まで最低あと１冊は読み終えねば、と思っているのだが、果たせるかな。一気に読むとやはり面白い。テンポもいいし、立ち合いの場面もドラマのシ－ンが浮かび上がる。あとがきを読んで驚いた。作者の佐伯氏は、幼い時分に市川雷蔵主演の無声映画『雄呂地』を怖くて泣き叫びながら観て、その「捕り物」に捕らわれ映画人を目指していたという。夢が果たせずスペインに渡り、闘牛の取材本を出して後、ノンフィクションやミステリ－とジャンルを転々と変え、時代劇に戻ったのは、やはりスタ－トとなった『雄呂地』への想いが深かったからだろうか。スム－ズな場面転換や見栄えのいい斬り合いの場面、登場人物たちの魅力あるキャラクタ－など、エンタ－テイメントとして楽しめる要素が盛り込まれているのもなるほど、と思える。「陽炎の辻」１冊でドラマ全１０話分かと思っていたら、まだまださわりの部分だった。何冊分をドラマにつぎ込んだのかを確かめながら読むのも先が楽しみ。あらためて思う。「縁側で居眠りする老猫を思わせる」居眠り剣法の達人にして春風のような主人公磐根を、山本耕史は限りなく忠実に演じてくれていたのだな、と。

  2007.11.12

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  主婦のバイブル本２冊　我が家を救うか？

  読書の秋、なのにさっぱり本に親しんでいない。しかし親しむ時間も取れない････いやこれは言い訳。自分に喝！そんな中２冊購入。このあたりでは自宅で通夜・葬儀を行う際、台所仕事を手伝ってくれたお勝手衆にお礼をお渡しする習慣がある。先週お手伝いしたのは母の実家で、送ったのは私自身の伯父でもあったからいただく筋は無いのだが、それではこちらの気が治まらない、と伯母がくれた商品券で買ったもの。このテの本を読むのは大好きなのに実践はさっぱりの私。実際今も寝室は途中で放棄した衣替えのケ－スと衣類が散乱中。最近の食事には野菜＆工夫が足りない。料理や家事が好きな人は毎日好きなことを楽しみながら、心豊かに暮らせるんだろうけどなあ、とつくづく羨んでしまう。重い腰をあげるために宣言してしまおう。本日の仕事メニュ－。　　　１　衣替えの完成　　　　２　先日観た「さくらん」＆夏に観た映画の感想をまとめる　　　　３　冷蔵庫の豚肉の消費　　　　　４　今朝父が収穫してきたでっかい大根の身の振り方を決める　　　　５　朝の洗濯物が乾いたら収納　　　　６　先日の葬儀の写真を画像縮小して叔父にメ－ル　　　　ほほほ。大言壮語にならないといいのだけど。どんなにこっ恥ずかしい結果になっても後ほど達成度をご報告いたします。　　　注：達成度を顔文字にてＵＰしましたそうそう、最近仏像シリ－ズなどなどで百科本シリ－ズが人気だが、店頭でナイスな本を発見した。さっそく水木しげるＬＯＶＥな友人に一巻目をプレゼント。このシリ－ズはいい！（まだ読んでないけど）

  2007.10.28

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  ひとり日和

  出版社/著者からの内容紹介人っていやね......人は去っていくからね。20歳の知寿が居候することになったのは、 母の知り合いである71歳・吟子さんの家。駅のホームが見える小さな平屋で暮らし始めた私は、キオスクで働き、恋をし、吟子さんとホースケさんの恋にあてられ、少しずつ成長していく。選考委員が絶賛した第136回芥川賞受賞作。　　三田知寿　　～「技巧に走らない、若々しい」セックスをするが「お互いあってもなくてもどうでもいい」　彼氏と別れた時の台詞は「おやおや」。相手の台詞も口真似の「おやおや」。　それは「どこでもいいから東京で暮らしたい」と遠縁の吟子さんの家で暮らし始めて　間もなくの春半ば。　夏秋冬の季節で彼女のまわりも変わる。　手癖が悪い彼女の宝箱の中身が増えていく。　　荻野吟子　　～知寿の母親によれば「東京に出る親戚が一度はお世話になる」女性。　　知寿の部屋の鴨居には三方を囲む猫の写真がある。かつての飼い猫たちの名は　『チェロキ－』。　　全員がチェロキ－だったわけではなく、生前の名前を忘れてしまうので唯一憶えている　　最初の猫の名前が彼らの総称になってしまった。つきあいの距離感覚が絶妙？　　ホースケさん　　～吟子さんのダンスのお相手。時々食事にやってくる。専用の黒い箸あり。作者の青山七恵（あおやま ななえ）は1983年1月20日 生まれ。23歳11ヶ月で2007年の芥川賞受賞。ちなみに直木賞は該当なし。常には褒めない石原慎太郎と村上龍が、珍しくもそろってこの作品を推したそうな。う～ん。正直わからない。なぜ芥川賞？疑似家族ニート小説とでもいうのだろうか。今時の流行？家族ではない者同士の、近すぎず遠すぎない距離の交流。近づきすぎなければ別れの辛さもナマの葛藤もない。でも得るものもないだろう、と思うのは私が古いタイプの人間だからだろうか。同じ血が通っていても、心まで似ているわけではない。わたしは思春期の頃から、母の若々しさとかなれなれしさが、心の中ではいちいち気に障っていた。理解されないことではなく、理解される事がなんとなくいやなのだった。二人だけの生活に息苦しさを与えないよう友達のような母親を目指していたのだろうが、疲れや世間体のためにそうなりきれない母が、中途半端で恥ずかしかったラフスケッチに淡い色がおかれ、互いに混じりあわない透明な水彩画。始まりは匂いさえ感じなかった。カレ－の匂いが流れ、キンンモクセイが色づき香る。やがて冬になって彼女は思う。わたしはこんなおばあさんになれるだろうか。七十歳になっても身ぎれいにして、自分だけの小さな家をもち、バレンタインにはチョコレ－トを買いに行く、そんな暮らしができるだろうか彼女の中で季節が動く。会社の寮に入り一人立ちした最後の章が「春の手前」なのは暗示的。そうやって、知っている人を入れ替えていく。知らない人の中に自分を突っ込んでみる。楽観的でも悲観的でもなかった。ただ、目が覚めるとやってきているその日その日を、一人でなんとかこなしていく。「見込みがなくても、終わりが見えていても、なんだって始めるのは自由だ」、と思える彼女の人生は確かにこれから始まるような気がする。

  2007.07.18

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  ちんぷんかん

  　長崎屋の若だんな＝一太郎　　　～みごとなほどに病弱な主人公。　　　幼くして一度この世を去ったが大妖だった祖母の尽力で生き返る。　　　若だんな大事の二人の兄や（手代の仁吉と佐吉）と大甘の両親、妖たちに　　　見守られながらもなぜか事件に巻き込まれ････。　家鳴（やなり）　　　～若だんなの親衛隊。家につく小鬼たち。　　「ぎゅんい－」「きょんぴ－」は泣き声のバリエ－ション。　おたえ　　　～若だんなのおっ母さん。大妖の母を持ちそれなりに苦労したコイバナを今回披露。　寛朝　　　～化け物退治で有名な広徳寺の僧。弟子の秋英は師匠の気まぐれに対応するのに忙しい。　　　　　　 今回は兄やたちにも箴言する一幕も。　玉乃屋の姉妹　お咲とおくら　　　～異母兄・松之助の縁談相手。病弱な姉と健気な妹。　　　 仲の良さと病状への不安が混じりあって思いがけない事件を生む。　小紅　　　～古い桜の木が若だんなに遣わした花びらの精。　　　 桜が散る時が消える時なのだが･･･。「しゃばけ」シリーズ第６弾。相変わらず柴田ゆうのイラストがなんとも可愛い。シリ－ズが愛されるのはこの絵による力も大きいだろう。毎度生死の境をさまよう若だんなが、今回は冒頭から三途の川へ。収録された５編を簡単に紹介。　　「鬼と子鬼」　火事の煙を吸って意識を失い気がつけば三途の川にいた若だんな。死者は冥土で七日に一度計七回の裁きを受け、四十九日を過ぎてやっと三途の川にたどり着くまで、八百里も歩かなければならない。川を渡るにも方法があり････やれやれ死ぬのも楽じゃないなあ。　　「ちんぷんかん」　上野の化け物退治のメッカ、広徳寺の怪僧寛朝と愛弟子秋英が登場。寺に引き取られた早々秋英が弟子入りしたのには寛朝だけが知る理由があった。出てくる春画を覗き込む家鳴たちの様子が裏表紙に描いてある。表情がいい。　　「男ぶり」　若だんなの母おたえの若き日の恋のあれこれ。父との馴れ初めを聞いたはずが思わぬコイバナに発展。長崎屋の親馬鹿と守り役の妖馬鹿は先代からの伝統である事も判明。男ぶりとは、なるほどの表題。　　「今昔」　若だんなの異母兄・松之助の縁談が具体的に進むがなにやらややこしい事に。「今昔」は陰陽師の今昔か。家事で消失したお店が新築され、お祝いのご馳走が随分とまた美味しそう。前の巻にも出てきた当時の高級菓子『鈴木越後』の羊羹ってどんなんだろ。　　「はるがいくよ」　古い桜の木の怪。赤子の姿で挨拶に訪れた花びらの精はあっという間に育って可愛い女の子、小紅になった。桜吹雪とともに消えてしまう運命を悲しんで、若だんなは散らない桜にする手立てを必死に探すのだが････。個人的にぐっときたのは最後の一編。肝心の小紅は「花びらはこんなものだ」と言う。　　　「人にしろ、猫や金魚にしろ、その命の長さは様々だ。　 　　古き社にあるご神木などになると、何百年も生き続けているし、　　　 朝顔は朝開いて、昼前にはしぼんでしまう。　　　 しかし己が生まれて死ぬまでを、一々他と比べ、生きている間中嘆いている　　　 生き物などおるまい。」という寛朝。だけど若だんなも兄やたちも気づいてしまうのだ。妖と人間の時の刻みが違う事に。別れの時がいつか来る事に。次号はどうなる！もっともっとシリ－ズが続きますように。

  2007.07.13

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  まんまこと

  麻之助　～江戸は神田の古名主、高橋宗右衛門のひとり息子。　　　　　　　　 十六を境に自慢の息子からお気楽な若者に化ける清十郎　～隣町名主、八木源兵衛の跡取りにして麻太郎の悪友。　　　　　　　　 おなごの道にかけては凄腕の色男。吉五郎　～二人の幼馴染。三人寄れば･･･。　　　　　　　　 武家から養子に出され同心見習に精を出す堅物。お由有　～清十郎の義母。三人とは幼馴染。桜の花のような女性。　　　　　　　　 息子の幸太を麻太郎が猫可愛がりしている。お寿ず　～吉五郎のまた従妹。麻之助の縁談相手。明るい紅の朝顔のような女性。　　　　　　　　 慕う相手は長く生きられないと本人も周りも思い定めている水元家次男。水元又四郎 ～武家の次男坊。お寿ずとは清いながらも浅からぬ縁。　　　　　　　　　　体が弱く布団から出られぬ身だが、麻之助とはお寿ずを間に　　　　　　　　　　不思議な間柄を築く。「しゃばけ」シリーズの最新作だ！とはりきって読んだら新シリーズだった。タイトルの意味は『ほんとうのこと』。全６話を「まんまことｗｅｂ」から紹介すると･････。「まんまこと」色男の清十郎が、幼なじみの麻之助によりにもよって“念者のふり”を頼んできた。どうやら太物問屋の娘からお腹の子の父と名指しされ、まるで身に覚えのない清十郎が困り果てての頼みの様子。まことの父は誰なのか。麻之助の裁定がさえる第一話。 「柿の実を半分」　質屋の三池屋小左衛門の庭から、柿を盗んだ麻之助。気軽にいただいたつもりが、執拗に追い掛け回され、閉口。先年、愛する妻子を亡くした寂しさから、小左衛門は話し相手が欲しいようだった。でっちあげの昔の恋人の忘れ形見が当人の前に現われるが――。人情の機微いとおしい第二話。 「万年、青いやつ」　呑気ものの麻之助に縁談。そこに万年青の鉢をめぐる争いがもちこまれる。万年青好きの“連”のお披露目会のあと、のこされたひと鉢は一体誰のものなのか。大家、松野屋七郎兵衛、店子袋物師安助、両者一歩も退かぬ構え。江戸情緒あふれる第三話。 「吾が子か、他の子か、誰の子か」　麻之助の家で清十郎があばれはじめた。なんと、弟・幸太のまことの父の父を名乗る人物が現われたのだという。亡き息子の松三郎が江戸づとめの折、残した子が幸太だと言ってのりこんできた。松三郎の放蕩のあとを追い、深川に芝に麻之助・清十郎・吉五郎の三人組は足を運ぶ。せつない記憶につながる第四話。 「こけ未練」　麻之助が又四郎の見舞いのため、高級菓子司越後鈴木に寄ったところ、最初に狆、つづいて娘を拾ってしまう。これが厄介の種だった……。赤い手絡をした娘を探す岡っ引きに追われ、麻之助と清十郎は江戸の往来をひた走るが。娘ごころの複雑さが鮮烈な第五話。 「静心なく」　｢八木家の末の子は預かっている｣｢金を用意しておけ。五十両｣幸太が攫われた。支配町の住人の暮らしを左右する町名主にはいつでも逆恨みの危険があるのだ。なにかの因縁か、それとも金欲しさか――ラストシーンが胸に沁みる第六話。ひと味違ったお気楽トンボの若旦那シリーズ。読んでいて感じたのはお江戸と現代のものの考え方の微妙な違い。道理、と言った方が近いか。自由恋愛でなかった時代の恋のあれやこれやがいっそ新鮮。

  2007.07.09

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  螺鈿迷宮

  東城大学医学生　天馬大吉　　～この上なくめでたい名前の主人公でありながらアンラッキ－・トルネ－ドを呼ぶ男。　　大作家の引用グセあり。事故で亡くなった両親の遺産を食い潰しつつ留年を重ねるが、　　碧翠院桜宮病院で潜入捜査をするハメになる････。初恋は桜宮関係者の謎の女性。弱小新聞社記者　別宮葉子（べっくようこ）　～天馬の幼馴染。通称ハコ。「血塗れヒイラギ」の別名を持つ。黙っていれば美人。メディカルアソシエイツ　結城　　　～幽鬼のような正真正銘のばくち打ち（のせいかゲン担ぎ）。頬の痙攣は笑顔のしるし。　　　　　桜宮病院病院長　桜宮巌雄　～南方戦線の生き残り。得意技は無麻酔整体。碧翠院副院長　桜宮すみれ　　～入院時に患者と雇用契約を結ぶ『すみれ・エンタ－プライズ』社長。　　一卵性双生児（陽）。緑の園のジャンヌ・ダルク。男運悪し。桜宮病院副院長　桜宮小百合　～第一印象は三蔵法師その実体は。「すみれはいつも詰めが甘いの」が口癖。　　一卵性双生児（陰）。碧翠院院長　桜宮華緒　　～通称ハナ。薔薇工房の主。入院患者の死期を薔薇で告げる。　（桜宮一家を象徴する薔薇は白薔薇５列。家族の数からしたら４列なのに････）　　螺鈿細工が趣味。でかい看護婦　姫宮　～「失敗（ミス）ドミノ倒し」。得意は「すみません攻撃」。魚座のＡＢ型。皮膚科医師　白鳥　～ずんぐりむっくりで妙に器用なトンデモナイ医者･･･になってます、今回。『チーム・バチスタの栄光』、『ナイチンゲールの沈黙』 に続く、バチスタシリ－ズ番外編もしくはスピンオフ作品、と書かれているようだが、むしろこの後出たシリ－ズ第三作、『ジェネラル・ル－ジュの凱旋』と第二作『ナイチンゲールの沈黙』を合わせて三部作、の味わい。昔あったワッペン！角度を変えると違う画になるあのワッペン、な感じ。光のあて方が違って投影される影が異なる。テンポの良さと論理の爽快感では、『ジェネラル・ル－ジュの凱旋』に軍配をあげよう。しかし、現役の医師である作者の言いたい事はこの作品にこそ溢れているのではないかと思える。終末期医療そして解剖を含む死亡時検索。以下は登場順に抜き書き。「すべからく薬というものは使わないで済むなら使うな。クス路とは役に立つ毒だ。毒であることには変わらない」　（桜宮巌雄院長）「医学とは屍肉を食らって生き永らえてきた、クソッタレの学問だ」「人は誰でも知らないうちに他人を傷つけている。存在するということは、誰かを傷つける、ということと同じだ。だから、無意識の鈍感さよりは、意図された悪意の方がまだマシなのかも知れない。このことがわからないうちは、そいつはまだガキだ」　（同）「この解剖体は徒花だ。行われるべきことが行われなくても世の中は廻っていく、ということの何よりの証拠さ。患者が泣くなった時に検索せずして何が医学だ。医学は、出自の悪い学問のクセに、今や貴婦人のように振舞っている。笑止千万、一番大切な自分の母胎を軽視している現代医療は、いつかどこかで破綻する。クソッタレがクソを垂れなくなったなら、どこかから歪みが吹き出す。眠れる悪魔が目覚める日は近い」　　　　　　　　　　　（同）「死にたい人を死なせてあげるのと、殺すのは違う。それから確実に死ぬとわかっている人の最期をコントロ－ルしてあげることの、どこが悪いの？延命だけの生を続けるのは医療の傲慢。どうせ死ぬなら他人に役立つように死ねばいいでしょ。サバンナでは屍肉はハイエナの餌になる。医療というサバンナで、あたしたちが桜宮の屍体をどう扱おうが、よそから文句を言われる筋合いはない。」（すみれ）「・・・生きているうちに本人から解剖承諾をもらっておく。その医学知識は次の患者のため、医療の基知識になる」（桜宮巌雄院長）「まるで、ゆずり葉の世界ですね」（天馬）その天馬が言う『ゆずり葉』の詩は小学校時代の教科書に掲載されていて妙に印象的だった。ゆずり葉 　 河合　酔茗　（かわいすいめい）子供たちよ。これはゆずり葉の木です。このゆずり葉は新しい葉が出来ると入り代わってふるい葉が落ちてしまうのです。こんな厚い葉こんなに大きい葉でも新しい葉が出来ると無造作に落ちる新しい葉にいのちをゆずってー。子供たちよお前たちは何をほしがらないでもすべてのものがお前たちにゆずられるのです。太陽のめぐるかぎりゆずられるものは絶えません。かがやける大都会もそっくりお前たちがゆずり受けるのです。読みきれないほどの書物もみんなお前たちの手に受け取るのです。幸福なる子供たちよお前たちの手はまだ小さいけれどー。世のお父さん、お母さんたちは何一つ持ってゆかない。みんなお前たちにゆずってゆくためにいのちあるもの、よいもの、美しいものを、一生懸命に造っています。今、お前たちは気が付かないけれどひとりでにいのちは延びる。鳥のようにうたい、花のように笑っている間に気が付いてきます。そしたら子供たちよ。もう一度ゆずり葉の木の下に立ってゆずり葉を見るときが来るでしょう。作者は明治３０年代の代表的詩人。およそ百年前の言葉になるだろうか。現代の大人たちが子どもたちに「不都合な真実」しか残せないのだとしたらあまりに寂しすぎる。たった百年。されど百年。享受の後のしっぺ返し。これから百年間が真に試される時代になるんだろうな。「相手の言葉を百パ－セント信じるということは、その人に関心がないのと同じことよ」（すみれ）「男には二種類しかいない。勇ましいろくでなしと腰抜けのろくでなしだ。」（天馬）医療以外のコメントで心に残った（ひっかかった）のはこの２つ。

  2007.07.06

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  ジェネラル・ルージュの凱旋

  【舞台】東城大学医学部付属病院オレンジ新棟１階・救命救急センタ－＆不定愁訴外来＆第三会議室＆岬　【登場人物】万年講師なのにリスクマネジメント委員長 田口公平 ～今回は同期会の幹事役？　厚生労働省大臣官房秘書課付技官・医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長 白鳥圭輔 ～意外にも音楽の才能あり？救命救急センター部長　速水晃一　～田口の同期生。将軍（ジェネラル）として赤字の象徴オレンジ新棟（救急医療＆小児科）に君臨。ＩＣＵチームのポケットに必須のアイテム、ルージュには裏伝説あり。啖呵を切らせたら一級品。扱いにくい同僚だろうなあ。エシックス・コミティ（倫理問題審査委員会・別称「泥沼倫理」）委員長　沼田助教授～精神科医師。得意技は「重箱の隅つつき攻撃」。田口（グッチ－）追い落としの急先鋒。放射線科　島津助教授～田口の同期生。MRIのスペシャリスト。がんがんトンネル魔人。口は悪いが子どもには人気。三船事務長　～速水にアメリカン・ヤッピ－と評されたアメリカ帰りの病院改革児。赤字運営解消の切り込み隊長。速水の悲願、ドクタ－・ヘリ導入にＮＯを出し続けるが････。ICU（集中治療室勤務）看護師 如月翔子　～ICUの爆弾娘。学科はダメでも実技はナンバ－ワン。ICU（集中治療室勤務）看護師見習い 姫宮　～謎の新人ピンク眼鏡はやっぱり謎の人物だった････ICU　花房師長　～ハヤブサの異名をとる看護科期待の星。今回ジェネラル速水とともに業者との癒着を告発された人物。裏伝説にも関与？不定愁訴外来専任看護師　藤原真琴 ～看護師長を歴任した猛者。不定愁訴外来の陰の実力者。今回はその実力とナ－スネットワ－クで大活躍。小児科看護師長猫田（千里眼の眠り猫）は愛弟子。作品順だとこの前に氷姫（白鳥の謎の部下）が登場する番外編『螺鈿迷宮』があるはずだが、飛ばして読んでも話の流れには影響なし、と先に読んだ妹がきっぱり言い切ったのでシリ－ズ第三弾のこの本から読むことにする。うん。むしろ第二弾の「ナイチンゲ－ルの沈黙」とセットで味わうのが正解。前作「ナイチンゲ－ルの沈黙」は登場人物にも美形が多くて（それは大歓迎なんだが）ミステリアスファンタジ－調だったから、物足りない人にはいまひとつの作品だったのではないかと思う。こちらはテンポよく読めるし、医療の倫理と現場の確執をめぐる論戦も楽しめるのでよりお勧め。児童虐待による死亡立証のために取り上げられたＡｉ（オートプシ－・イメ－ジング）＝画像解剖（死亡時画像病理診断）についてのやり取りも興味深い。前作で知ったＤＭＡ（デジタル・ム－ビ－・アナリシス）に続き最先端技術の情報収集もできる。「死体は語る」「死体は生きている」（かつてこのタイトルを聞いた母は「死体は死なせておいてやれ」とコメントした･･）シリ－ズで、初めて監察医制度を知り、作者である元東京都監察医務院長、上野正彦氏が語る殺人捜査の舞台裏、何より死者が語る真実に愕然としたのも今は昔。それでもあの頃死者の尊厳を守る、という生者より死者の倫理にたった価値観に目からウロコの思いがしたのは印象に残っている。（『大漁』で、大漁を祝う浜の猟師らと海で行われているだろう大勢の鰯の弔いを対比させた金子みすずの視点にも衝撃を受けた。思えば通じるものがある）搬送時に死亡が確認（ＤＯＡ＝到着時死亡）されていても目の前の患者の信頼には応える、と自らのクビを賭けて断固とした態度をとるジェネラル速水には感動。実は確信もないままの「救命救急医の心意気」だったと知って呆然とするチ－ムを前に告げる「俺は死者は信頼しているんだ。絶対にウソをつかないからな」にまた感動。その前段に出てくる「女の涙を信用するかしないか」論もいい。

  2007.06.22

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  ナイチンゲ－ルの沈黙

  　【舞台】東城大学医学部付属病院小児科病棟＆不定愁訴外来＆ドア･トウ･ヘブン　【登場人物】不定愁訴外来（通称愚痴外来）医師 田口公平　～通称グッチ－　厚生労働省大臣官房秘書課付技官＆医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長 白鳥圭輔　～　無敵なロジカルモンスタ－に今回は天敵現る？桜宮警察署 加納警視正　　　～新登場！電脳紙芝居ならぬＤＭＡ（デジタル・ム－ビ－・アナリシス）を得意とする　　　電子猟犬（デジタル・ハウンドドッグ）桜宮警察署 玉村警部補　～加納警視正の相棒。　　　　　　　　　　　　危うくお遍路の道連れにされかかった哀れなタマ小児科看護師 浜田小夜　～東城大学医学部付属病院の歌姫。　　　　　　　　　　　　　彼女の歌には不思議な神通力が････小児科入院患者 牧村瑞人　～眼球摘出手術を要する癌網膜芽腫(レティノブラストーマ)患者。　　　　　　　　　　　　　14歳のプリンス。父親の虐待を受けて育った掟破りな読書家。ドア･トウ･ヘブン（VIPルーム）入院患者 水落冴子　　　　　　　　　　　　～謎めく話題の歌姫。白銀の迦陵頻伽。第一作『チーム・バチスタの栄光』同様、前半（今回の構成では第一部「天窓の迦陵頻伽」）は今回の登場人物の説明にさかれていてノリがいまひとつ。後半（第二部「ナイチンゲ－ル・ラプソディ」）でロジカルモンスタ－白鳥が出現（出場というより出現）すると同時にテンポがよくなり怒涛のように終宴になだれこむ。これも前作と同じ。尊敬できる人物ではないんだけど、確かにキ－パ－ソンなんだなあ、としみじみ思う。なんと無敵の白鳥にも天敵がいたことにびっくり。一時思惑通りに白鳥を動かした加納警視正の押しは見事だったが、しょせんキャリア組の暴れ馬は人類の壁を越えられない。「閑職＆最前線」の役職を持つ予測不能なモンスタ－を負かし続ける事はできなかったか。ハブとマング－スの闘いは見応えがあって面白かったな。白鳥に田口、加納に玉村、この組み合わせも絶妙。歌姫二人の人物造形とその声の持つ魔力を、医学的な見地からスト－リ－に絡めていく設定も楽しい。美形のプリンスとプリンセスは登場するし、結末も加えると素敵に女性好みのシチュエ－ション、だと思うがどうだろう。登場人物紹介に書ききれなかった「眠り猫」猫田看護師長やハイパ－マン・バッカス友の会会長のヒデマサ（10歳・鼠径ヘルニア）、バッカスの敵正論宇宙人シトロン星人を崇拝するアツシ（5歳・癌網膜芽腫）、『失われた時を求めて』が愛読書の白雪姫杉山由紀（16歳・白血病）に敏腕マネ－ジャ－にして男としてはサイテ－な城崎。綺羅星のごとく並ぶ脇役たちがいい。 　　　　　　　　迦陵頻伽（かりょうびんが)極楽浄土に住むとされる想像上の鳥。上半身が菩薩、下半身が鳥。古代インドでは音楽の神とされ、妙なる声で鳴くそうな。 私のお気に入りは平泉にある中尊寺金色堂の華鬘（けまん）に対で彫刻された迦陵頻伽。お堂の中を飾るアクセサリー。もともとは花を糸で連ねて輪に結んでいたものが華鬘。図ではわかりにくいが手にしているのは花びらを盛ったかご。

  2007.06.03

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  チーム・バチスタの栄光

  海堂尊の田口･白鳥コンビシリ－ズ第二作「ナイチンゲールの沈黙」を読み終えた。今夜のうちに感想を書きたいところだが、明日は早出。一作目の「チーム・バチスタの栄光」を読んだ時の感想を振り返ってお風呂にしよう。　　　　　　　　　　　　　「チーム・バチスタの栄光」 海堂尊／著 『このミステリーがすごい！』大賞受賞作。医療過誤（って医療ミスとどう違うのかなあ）か殺人か。不定愁訴外来（通称愚痴外来）担当で上昇志向皆無の万年講師田口先生と、厚生労働省の肩書きの長い役人かつエイリアンの白鳥（名前のイメ－ジは美しいだけに・・・）の異色コンビがグロリアス・セブンと賞賛される心臓外科手術スタッフ、チーム・バチスタにまとわりつく死の謎を追う。作者は現役医師らしい。なるほど専門語もぽんぽんと飛び出す。典型的文系の私が投げ出さず読み通す事ができたのは、医療現場の裏事情のリアリティと、しだいにノリがよくなるコミカルな田口先生の語りによるところが大きいかも。正直前半は少し気だるかった。嫌いな文章ではない。どちらかといえば好きだがどうもテンポがいま一つ。と思っていたら後半いきなり現れた迷（この場合は迷惑の迷、かも）探偵、浪花の商人が論理で完全武装したような白鳥の登場で一気に活気づいた。事件の流れも文章のノリも。田口に割り振られたと思われた探偵役をなぜ途中交代する？と不思議に思ったが、白鳥の品性のかけらもない熱弁に頭に来たり感心したりですっかり感情移入してしまい、いつのまにやらぐいと引き寄せられている。犯行の手口としては密室完全犯罪を匂わせた割にはあっけない種明かしで若干物足りない。だがそこにたどりつくまでのチ－ム・バチスタの内情暴露と、登場人物のカルテ作成は十分楽しめたし下地になってる。重いテ－マを救うような春のラストシ－ン。私はほっとして受け止めたけれど、これをどう受け止めるかで筆力への評価も微妙に変わりそう。作者は1961年、千葉県生まれ。この作品がデビュ－。今後の作品でどう出るか。楽しみ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　－　2006年9月記　－第三作「ジェネラル・ルージュの凱旋」もすでに手元にあり。今度こそ謎の人物、グッチ－（愚痴外来担当だからだから）田口のドッペルゲンガ－、氷姫に会える！･･･とわくわくしていたら。どうやら氷姫が登場するのはこの１つ前に出たスピンオフ作品の「螺鈿迷宮」らしい。が～ん。

  2007.06.02

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  鴨川ホルモ－

  内容（「BOOK」データベースより）このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、出向いた先で見たものは、世にも華麗な女(鼻)でした。このごろ都にはやるもの、協定、合戦、片思い。祇園祭の宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。恋に、戦に、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。京都の街に巻き起こる、疾風怒涛の狂乱絵巻。都大路に鳴り響く、伝説誕生のファンファーレ。前代未聞の娯楽大作、碁盤の目をした夢芝居。「鴨川ホルモー」ここにあり!! 私は大学に行ってない。だからキャンパスライフは永遠の憧れであったりする。しかし、「京大青竜会」の場合、いわゆる通常のキャンパスライフとは一線を画した内容だった････。タイトルの「ホルモ－」は京都の地に密かに引き継がれてきた伝統の競技。どんな競技かについては、作品中前半の多くを割いて、作者が書き綴っているためここでは触れない。主人公の安倍は２年に一度代替わりする「京大青竜会」の第五百代目会長。単純計算して千年続いてきたわけだ。平安時代の最も有名な陰陽師、安倍晴明が没したのは1005年10月31日。この本が出発されたのは2006年4月。その前に執筆しているわけだから、最後に語られる、あるエピソ－ドと合わせて考えると、安倍晴明没後千年記念ともいえそう。京都・魑魅魍魎・オニ・陰陽五行説とまあ、私のツボを押しまくりなのだが、そしてキャラ揃えもなかなかいいのだが、期待が大きすぎたのか、いまひとつ一気に読めなかった。主人公の安倍か？こう････悶々と自己嫌悪に陥りつつなんだか青春しちゃってて、知らぬ間にひと皮むけてちゃっかり幸せになっちゃう、という。少女漫画では許せるパタ－ンなのになあ。（『彼女』におさまるのは、たいていドジでいじけ虫のチンケな方、という一時代があったと思うのは私だけだろうか。当時は好きだったんだけどね、そういうの。）安倍も結構苦労してるし。この小説自体、設定がユニ－クで楽しい。筆致も軽妙でユ－モラスだが少し荒いか。魑魅魍魎の闊歩する京都の夜。実はとっても好きなんである。登場人物の名前から連想した、怨霊と噂された、もしくは不思議なオーラを持つ人物をあげてみよう♪　主人公・安倍＝安倍晴明は決まりね。････なんでこう生き生きしちゃうんだか、私。　　　　　　　　　　　　　第499代目会長スガ氏＝菅原道真　右大臣の地位を追われ九州の太宰府へ左遷された道真は失意のまま世を去る。その後、都では追放劇の黒幕、藤原時平が若くして死去。その縁者が次々に亡くなる。しまいには内裏に落雷。多数の死者が出て、道真は祟りを恐れて雷神に祭り上げられるんですね。　　　　　　　　　安倍のマドンナ 早良京子＝早良親王（さわらしんのう）　 桓武天皇の弟。藤原種継暗殺事件の容疑者にされ淡路島に流される途中、抗議の断食で絶命。その後、都（長岡京）では、不幸や異変が相次ぎ、桓武天皇は相当びびって無理やり平安京に遷都したらしい。　　　　　　　　　　　安倍の親友 高村＝小野篁（おののたかむら） 遣隋使小野妹子の子孫。昼間は宮廷に仕え、夜は珍皇寺の井戸から地獄に通い閻魔大王の裁きを手伝ったとか。伝説の多い謎の人物。　　　　　　　　　　　　　凡ちゃんこと楠木ふみ＝楠木正成　孤軍奮闘の末切腹して果てた天下の忠臣。見方を変えれば無能な上司（後醍醐帝と取り巻きの公家たち）のために悲劇の玉砕。それで太平記では怨霊に？

  2007.05.28

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  銃とチョコレート

  少年リンツの住む国で富豪の家から金貨や宝石が盗まれる事件が多発。現場に残されているカードに書かれていた【GODIVA】の文字は泥棒の名前として国民に定着した。その怪盗ゴディバに挑戦する探偵ロイズは子どもたちのヒーローだ。ある日リンツは、父の形見の聖書の中から古びた手書きの地図を見つける。その後、新聞記者見習いマルコリーニから、「【GODIVA】カードの裏には風車小屋の絵がえがかれている。」という極秘情報を教えてもらったリンツは、自分が持っている地図が怪盗ゴディバ事件の鍵をにぎるものだと確信する。地図の裏にも風車小屋が描かれていたのだ。リンツは「怪盗の情報に懸賞金！」を出すという探偵ロイズに知らせるべく手紙を出したが……。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（出版社/著者からの内容紹介）体裁は確かに少年少女小説。ルビまでしっかりふってあるし。しかしこの作品、あえて少年少女小説という形式をとった大人向けではないのか。作者の狙いはどっちだ？と時に悶々しながら読み進めた私。奥付を見て納得。シリーズ「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリ－ランド」の第10回配本、だそうである。なるほど。質の高さはそのままで、わかりやすい見事な収束。ひっくりかえった宝箱が、整然と元の姿にもどったすっきり感と満足感が読み終えた後に漂う。タイトルにあるチョコレ－トは、子どもたちの大好物。主人公のリンツ、名探偵ロイズ、怪盗ゴディバと名前を並べるだけで楽しい。銃も最高級のチョコレ－トも、非日常であり憧れ。スリル溢れる成長の旅を彩るのに不足なし。国民的英雄である名探偵ロイズが実は政府に作られた虚像であったり、悪者にされている怪盗ゴディバに理想があるのも情報操作されたり、子どもに嬉々として読ませたくない大人の実態がそこにはある。性善説と性悪説。どちらか、と問われても答える事はできない。しかし人間が現在、生態系のトップにたっているのは、未熟な幼生でこの世に生れ落ち、成体になるまで長い時間がかかるからだ、という説をいつかどこかで読んだ。（同じ哺乳類でもウマは誕生後間もなく自分の足で立つことができる。ヒトが二本足で立つまでにかかる時間と比べて欲しい。）未熟ゆえに進化の可能性を持ち、環境に対応できる時間を持つからだと。その代わり、経験と庇護が不可欠だろう。育ちの過程でどんな栄養を摂り、いかなる外敵に合い、どう養われたか。成体に変化するまでのエッセンスを、少年少女小説という形式は一冊で味わうことができる。お得である。実はあまり得意ではない（読むべき時に読まずに過ごしたからだろうな。反省）少年少女小説、人生の後半にして今が再注目の時か。

  2007.05.26

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  ツギハギ姫と波乗り王子

  「好きになってしまった人はいつかあたしを嫌いになる。だから嫌い」。本当の自分でいられるのは、メイド喫茶でアルバイトをしている時と、アニメやゲームキャラに自分を重ね合わせてイラストを描いている時だけ。エッチの相手にも、生身の自分は見せない。杏は、自分の感情をツギハギだらけにして、その場しのぎの"仮の自分"を繋ぎ合わせた日々を送っていた。だが、ある嵐の夕方、サーフボードを抱えた青年・陸と出会った時、杏の感情に変化が訪れる。やがて二人は奇妙な同居生活をはじめるが...。居場所を探している全ての人に捧げるラブストーリー。（「BOOK」データベースより）表紙が印象的。と思ったら「さくらん」で映画監督としてのデビュ－も飾った蜷川実花（にながわみか）が撮影した作品だった。いいなあ。この二次元から溢れ出そうな色彩感覚。作者の著書の多くは彼女が表紙を担当したらしい。よほど共感できる「何か」があるんだろうか。    主人公は10代の少女の設定が多いこと、いくつもの作品がドラマ化･映画化（「虹の女神」もそうだったのね）されていること、は読み終えてから知った。時代の寵児、的な作家だったのかな。但しこの「ツギハギ姫と波乗り王子」の主人公はどう考えても20代。お相手の青年リクは27歳だから、20代半ばかなあ。メイド喫茶のバイトに年齢制限はないだろうけど「ご主人様」の台詞が似合う年齢には限りがあるだろう。少女漫画で育った世代層が厚くなっている以上、それを髣髴とさせる小説が多くなっているのはむしろ自然かもしれない。しかし、手法が小説である以上、漫画では描けないプラスアルファが欲しい。････念のため。漫画が一段下だなどとはまったく考えていない。漫画でなければ表現できない「何か」があるように、小説でなければ表現できない「何か」があるはずだし、あるべきだ、と思っているのだ。正直この作品を読んでよくできた漫画のようだ、と思った。ある種の漫画にあるよね、こういう雰囲気。こういう設定、って。特に若い世代の共感を呼びそうな。でもそれ以上の「何か」がない。小説でなければならない理由が見当たらない。水槽の熱帯魚を見ている感じ。手に伝わる熱や冷たさがない。それなりに切ないのに。その切なさは目の前の水槽に立つ波か泡のようだ。これまでの作品を調べてみたら、ずいぶんと数が多いし、内容も時代を映した衝撃的な題材が多い。『14（fourteen）』は、あの酒鬼薔薇聖斗を主人公にした作品？気になるが品切れで重版の予定がないのはどういう事？ますます気になるではないか。で、この表紙はやっぱり蜷川実花なんだろうな。になみかの作品は鮮烈でビ－トが効いてるけど、根を張った存在感がある。名前負けならぬ表紙負けじゃなかろうかと、これ1冊を読む限りでは思うのだけど。

  2007.05.09

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• アナン、

  「アナン、(上)（下）」講談社文庫         飯田 譲治 / 梓 河人 (著)新宿鮫シリ－ズを浮気しながら地道に制覇中、２月に新宿へ出張が決まった時は、これも縁だなあ、と張り切った。ホテルが受験シ－ズンで思うように予約出来ないと知った時、思い切ってその前に読んだ「魂萌え！」で主人公が初体験した女性用カプセルホテルに挑戦してみた。場所が場所だけに（読みかけで持っていった「新宿鮫」によるとそのあたりは『コロンビア人の娼婦や客引き』が集まるところ、だそうで）一応事前に女性用カプセルホテルについての評判をチェック。１泊してみての感想は「いや－勉強になりました」。常連になろうとは思わないけど、あそこでじっくり人間観察ができたら面白い。初心者の私はつい目線を合わせないよう遠慮してしまった。同僚に貸してもらって読んだこの作品の舞台がまた「新宿」。物語の進行につれて場所は移るが、最初は新宿から始まる。記憶喪失のホームレス、流（ナガレ）が初雪の日に死ぬと決めて、旅立つ前に豪華な食事をとろうと出向いた料亭裏のゴミ袋に赤ん坊を見つけ、拾うところから。カプセルホテルも新鮮に思ったがダンボ－ルハウスやホームレスの実態もなかなか新鮮。ずいぶん酷い言い方になるが、漠然と、ホ－ムレスには過去も未来もなくただ、今を生きるために呼吸している（ああ、なんて身もふたもない）どこか陽炎のようなイメ－ジがあった。その彼らに、思えば当然ながらホ－ムレスになるまでの普通の生活があり、転落した理由があること、それぞれに個性があることをあらためて知った。必ずしも普通社会と一致しないル－ルや価値観も。「アナン、」はホームレスの生態を鋭く描く社会派小説ではない。「魂萌え！」の「！」（ファイヤ～ッ････注：独自解釈）同様、この「、」が読む前は気になった。主人公のアナンが持つ「窓」を開くことを意味するのかもしれないし、表紙を飾った彼の天職、モザイクのかけらを意味するのかもしれない。最初は「、」の答えを意識しながら読んでいたが、読みやすいのとアナンと流がどうなってしまうのか、先が気になるのとで、特に後編は夢中で読み進んだ。もはやあれこれ詮索せずとも満足している。アナンの生い立ち、流の過去、冒頭の発砲事件、といくつかの謎に加えて殺人事件に絡むエピソ－ドもあったのでこれはミステリとファンタジ－の融合路線なのか？と首を傾げたが、評によれば「スピリチュアルファンタジ－」なのだそうである。なるほど。美輪さんと江原さんの「オーラの泉」に思いを寄せる私にぴったり。ファンタジ－好きな私、を自認していながら実は漫画で浸ったほどに本では耽読できなかったので、もう大人になっちゃってファンタジ－を楽しむことができなくなったんだろうか、それとも元から思っていたほどファンタジ－好きでもなかったのかな、と寂しく感じていたが、そうかそうか。私の場合はスピリチュアルファンタジ－が向いていたんだなあ。言葉もわからない赤ん坊（アナン）に自分の過去（秘密）を打ち明けずにはいられない大人たち。懺悔のような告白をただそのままに受け止めるアナン。皆の気持ちを支配して導くリ－ダ－としてではなく、「窓」として存在する彼の特質も興味深いし、それ以上に彼を取り巻く個々の登場人物の設定が面白い。父親として慕う流とアナンの関係は途中からあまりに切なくて苦しいくらいだけれど、それすらも受け止めて成長していくアナンにエールを送りたい。いずれ映画化される計画もあるようで楽しみな一方、美少年にうるさい私の眼鏡に適うキャストになってくれるのか、不安も大きい。ファン心理って難しい。

  2007.04.06

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