小さないのち
ある本に、こんな詩の一節がある。大切な人に気づかない僕がいた。家族だから、友達だからって、必ず明日会える訳じゃない。大切な人に気づかない僕がいた。もう二度と会えないとわかっていたなら、何を僕はしただろう。 アーモンドを気管に詰まらせる誤嚥(ごえん)により3年半前に10歳で亡くなった桜井みのりちゃんを思って、姉のちひろさん(17)がつづった。父親の会社員紀彦さん(47)が娘の生きた証しを残したいとまとめた本「みのり」に収められている。 事故が起きたのは2012年の暮れ。さいたま市の自宅で家族の忘年会をした後、当時小学4年だったみのりちゃんは、中学1年だったちひろさんとお菓子を食べながらゲームをしていた。みのりちゃんがアーモンドを口に入れた後にせき込み、しばらくしてけいれんし始めた。ちひろさんが泣きながら近所に助けを求め、救急車を呼んだ。 買い物に出ていた紀彦さんと妻の知佳子さん(49)が帰宅すると、すでに救急車が到着していた。みのりちゃんはあえぎながらも自分の名前を言えた。知佳子さんの声がけにうなずく姿に「大丈夫」と思ったという。だが、みのりちゃんは病院でまもなく脳死状態になり、約3カ月後の13年3月25日に亡くなった。 忘年会のお菓子の中にアーモンドが入っていた。アーモンドが水分を吸って大きくなり、気管にちょうどはまったらしい。 紀彦さんは言う。「人の死は2度ある、と友人に言われた。1度目は生命の死。覚えてくれる人がいなくなったときが2度目だと。みのりに何が起こったのか、どんな子だったのか、覚えておいてもらいたくて本をつくった」(朝日新聞編集委員・大久保真紀)胸が痛みます。