宝物です。 畦地梅太郎の版画
昨年の10月に亡くなった父の相続の書類をつくるため、久しぶりに実家に帰りました。書類の準備もなんとか終わり、母、妹と一緒にお茶を飲んでいた時、 おもむろに母が、 「今日、車で帰るなら絵を持って行ってね。」 と言いました。 「絵?」 と聞くと、見慣れた1枚の版画を持ってきました。 それはだいぶ以前から実家の壁を飾ってきた作家、畦地梅太郎さんの作品。 父は絵や書が好きで、リビングや廊下など、いたる所に飾っていました。それらの中でも、畦地さんの版画は他のものとは違い、なんとも言えずユニークで温かな雰囲気。 「なんでこの絵を?」 と私が聞くと、母がゆっくりと額を裏返しました。 するとそこには、父の字で何かが書かれています・・。 額の裏にこう書いてありました。 『 昭和62年 4月 (私の名前)、高校入学記念として25,000円にて購入す。 志望校に入学できて よろこび大なり。 』 私が第1希望の高校に入学した時に、父がこの絵を買っていたようです。 絵をよく見ると、左下に小さく作品名が。 『親子よろこぶ』。 確かに、作品名どおり親子らしき二人が両手を上げて喜んでいる様子が描かれています。 この絵はいつの間にか、父が買ってきて、いつの間にか飾ってあったものです。 でもちゃんと意味があったんです。 私の高校入学を心から喜んでくれて、それで記念に買ってきたものだったんです。 母も、私も、妹も知りませんでした。絵は見慣れたものだったのに、こんな意味があったなんて。 父の気持ちが嬉しくて嬉しくて、涙があふれてきました。 母に渡された大切な父の形見。 これからは私の家の壁で、ずっと私のことを見守ってくれるような気がします。