センチメンタルな旅 冬の旅 荒木経惟
これほど有名な写真家の写真集ですが、いつも週刊誌や月刊誌でしか見ていず、センチメンタルな旅も実は観たことがなかったのです。で、これは1991年2月に出版された「センチメンタルな旅 冬の旅」です。愛妻 陽子さんとの新婚写真を私小説風に撮ったものが「センチメンタルな旅」、そして陽子さんが癌に侵され入院してから、亡くなり、葬儀・火葬となり、愛猫チロだけが待つ家に返るまでを描写したのが「冬の旅」です。 なんともすさまじいのは写真家という職業意識です。つまり、この写真集は、新婚の日から愛し続けた妻の死をファインダー越しに撮影したものなのです。単に、眺めて記憶したのではなく、写真の対象として構図を考え(おそらく)、そしてシャッターを切った結果なのです。 その写真の積み重ねを観たときに、なんとも涙が出てきます。 写真として残っているのではなく、その作業の結果としての写真集に、陽子さんへの深い愛情を感じ、生活を急に変更された人生の不条理を感じて、見ている僕も涙が出るのです。 名作です。