へんりのヒトリゴト(7)<スイスの憲法事情と永世中立国の意味>
スイスは皆知ってるよね?でも詳しくは知らないんじゃないかな?って言うのも僕も知らなかったから。 そんな訳で今回はスイス(Swiss Confederation)を紹介します。 まずは基礎知識。 人口717万人(2000年)で面積は北海道の約1/2、首都はBern(ベルン)。 成人識字率は99.0%で、平均余命78.9歳。 一人当たりのGNI(国民所得)は38,410$(日本は35,620$)、国民一万人当たりの医師数は32.3人(日本は19.3人)だからかなり裕福な感じ。 でも結構、内部は込み合ってます。 言語は独語、仏語、伊語、ロマンシュ語の全てが公用語。 民族は独系(63.7%)、仏系(19.2%)、伊系(7.6%)。ロマンシュ系(0.6%)。 宗教はカトリック46%、プロテスタント40%。 ちなみに主要産業は資源がないため、精密機械・化学・薬品など加工産業や観光。チューリヒは国際金融市場として有名。 兵力は平時3470人の将兵のみで、戦時は陸軍35万、空軍3万。国民皆兵制のもと、成人男子は42歳まで民兵訓練を受け、自宅に銃や弾薬を置いて有事に備えている。 ところで、スイスはこの前まで国連に加盟していなかったのは知ってた? スイスは永世中立国なので、EUどころか、なんと!国連にも参加していませんでした!ですが、冷戦終結により国連の役割が変化するした事などの理由で2002年に国連加盟に至ったんですわ。でも、こん時の国連加盟を巡る国民投票で反対票は45%もあったから、加盟申請書には「中立政策の堅持」を明記したんだって。 んで、今回は難しい話を2つ紹介するね。1つは「憲法事情」、もう1つは「永世中立の意味」。長いけど、ついてきてくれるかな? まず「憲法事情」。 「スイス連邦憲法は聖典ではなく、人々が自らの手で作ってきたことで、歴史や文化・言語の異なる国家の一体性を強める機能を果たしてきた」んだって。…どういうことかって? スイスの憲法は、国民の積極関与があるんですな。直接民主制の伝統を誇っているスイスは連邦政府と連邦議会以外にも、有権者10万人の署名が集まれば憲法改正の国民投票ができちゃいます。 なんでこんな風になってんのかって事やねんけど、それは言葉や歴史の異なる地方の共同体が連邦国家を形成してきたことが大きな理由みたい。さっきの基礎知識でも紹介したけど、スイスには色んな民族や言語があるからね。それと、カントン主権の原則ってのがあって(カントンは「州」って意味です)、23あるカントンは連邦憲法により制限されない範囲内で主権を持ってます。 さて、その連邦憲法やけど、1848年に初めて制定されてから、2回も全面改正をして今の憲法になったのです。 1回目は1874年。約140回の部分改正を経て、2回目は1999年。度重なる部分改正で複雑化した条文を整理しました。でも新憲法も、早くも「国家と宗教の関係」や、「国連加盟に伴う規定変更」などの改正が行なわれちゃってます。 けど、頻繁な改正提案は国民の負担を増やすみたいで、最近の投票率は30-50%と低迷中だって。 それと「永世中立(Permanent Neutrality)の意味」。 なんとなくは知ってると思うけど、ちょっとだけ専門的なお話をしようと思います。 「他国からの攻撃に対して、自国を自衛する場合を除いて他のいずれの国に対しても武力に訴えてはならず、又将来多国間に戦争が勃発した場合いずれの交戦国にも援助を行なってはならない義務を負った国家の法的地位」の事で、対称になるのが、「中立主義(Neutralism)」。では3つの特徴を紹介しましょう。 (1)平時と戦時…通常国家の中立は、戦時つまり戦争中の中立だけに限定される。でも永世中立国では、戦争中じゃない時(平時)でも、自国が将来戦争に巻き込まれるような条約(同盟条約)を結んだり、他の国に土地を軍事基地として貸しちゃ駄目なんだ。まぁ日本は無理ですな。 (2)やめられない…普通の国家の中立は「一国の外交上の決定」だから、止めようと思えば勝手に止めちゃえる。でも永世中立国は「国家間に設定された国際法上の権利義務関係を伴う地位」で、地位離脱の際は全ての国の同意が要るんですな。ゆえに、前者が「一方的中立」、後者を「条約上の中立」とも呼ぶみたい。 スイスの場合、1815年に英・仏・墺・露・西・プロイセン・ポルトガルが議定書に署名して永世中立国になりました。 (3)スイス型とオーストリア型…実はオーストリアも永世中立国です。オーストリアの永世中立になくてスイスのにある特徴が、「保障の約定」で、スイスを侵略する国が現れた時は署名国がスイスの為に戦ってくれるってもの。オーストリアについてはコラムで詳しく紹介したいですね。 かなり砕いて書いたから、厳密な意味が違うものも多々あると思うから、詳しく知りたい人は参考文献を元のままお読み下さいまし。 【参考】 『読売新聞』2004年1月24日付、『imidas2004』、『世界史アトラス』、『時事ニュースワード国際編2000』、『国際関係法辞典』、『国際法辞典』(有斐閣、1999年)