●蘇ったゾンビ先生●
去年の話になるんだけど、Tiffanyがプエルトリコの西側にある、La Pargueraという所の、私達のトレーラーハウスでシャワーを浴びている時に、ふざけていて滑って転倒をしてしまい、後頭部を切る怪我をしました。慌ててPonceにある救急病院で頭を縫ってもらったと言う事件がありました。その後何日か経って、Tiffanyの抜糸の為に、学校が終わって帰って来てご飯を食べて一息ついてから 私達がたまに行く、内科医のDr.Dの下へと連れて行きました。 このDr.Dは、一応子供から大人まで診てくれる Internal medicine(内科)のお医者さんなんだけど、 何故か注射などの予防接種はしない先生なの。 場所的に家から物凄く近くて便利なんだけど、(ほんの1,2分の距離よ!)予防接種をしないから検診も出来ないんだよね。。それから理由は後で書くけど、Dr.Dの所へ行くと、待ち時間も診察時間も、異常に長い!待ち合い室に居る人2人位でも、待ち時間1~2時間は当たり前なの。前にMichaelがお腹が痛い時に、緊急でこの先生の所へ連れて行った時に、直ぐ診てくれると言ったのに、待合室には私達ともう一人だけが居たのに、1時間経っても全然呼ばれなくて、後からも何人か来たけど、私達が、もう1時間以上待っているし、全然前に進まない。と言ったら、具合悪くて青い顔をした子供を連れて、引き返して行った人も居たんです。その後Michaelは、痛みが治まらないのと、一向に呼ばれない事に苛立って泣き出す始末。だからこの先生はもう、懲り懲り!と思ってたんです。そういう訳で、私が風邪を引いたりして具合が悪い時だけ、処方箋を貰いたいので、その先生の所へ通っていたんです。 小児科の先生は、学校帰りに迎えに行ってそのまま連れて行ける。という事で、ちょっと家から離れているけど、学校から目と鼻の先の、ベテランの小児科の先生が掛かり付けになっていたんです。。唯、この学校へ行くのが大変で、渋滞が無ければほんの10分少々の場所なんだけど、夕方のラッシュ時なんて、1時間以上かかっちゃう。って言うのが難点だったんです。 それでは何故今回、TiffanyをDr.Dへ連れて行ったのかというと。“たかが抜糸” という簡単な理由から。抜糸如に、わざわざ一時間以上も、渋滞の中を運転して行くのは厄介だったから。 幾らあの先生でも、抜糸位,直ぐにちゃっちゃっとやってくれるでしょう~。。 と,高を括っていたら大間違いでした。 夕方抜糸に連れて行った時に、 私:「先生、Tiffanyの後頭部の抜糸をして欲しいんですけど。」って言って、Tiffanyの後頭部を見せた時の、Dr.Dの“困惑の顔”を、私は見逃さなかったのよね。。。 そして彼の言った言葉が、 「あららら。。。さっき居た子も抜糸で来てたんですよ~。。。。でもねぇ~、、、、今日はもう消毒済みの道具が無いから、出来ないんですよね。。。。」 と、まぁ~何とも頼りない返事。 私:「はぁ~。。。そうなんですか。。。」 Dr.D:「明後日だったら出来るから、木曜日に連れて来て下さい。 唯その前に、幹部を消毒液で何度も、柔らかいコットンなどで拭いて、かさぶたをはがす様に心がけておいて下さい。その方が抜糸の時に、皮膚がつれる事が無く済みますから。」 と言いました。 抜糸の時に、こんなに構えちゃう先生も珍しいなぁ。。。とその時ちょっと不安になった事は確か。 今まで抜糸を何回か経験しているけど、皆簡単にパッパッって終わらせちゃってたから “この先生大丈夫かいな?” って考え始めちゃった。 何か自信無さ気で、これじゃ~患者が不安になるよね。 おまけにこの先生の話し方が、まるで結婚式の、クソ長いスピーチを聞いている時のように 睡魔を誘う話し方なの。(=o=)(=。=)(=w=)~~zzZZ 「あんた寝起き?」 って聞きたくなる位に、ぼ~~~っとしてて、動作もゆっくりで、 話の合間に 「Uh~~~~(あ~~~)。。。。 Uh~~~(あ~~)」 が、やたらと入る! それだけでなく、同じような内容の話を、この“催眠モード”で何度も繰り返すんだな。 故 大平前総理が、「あ~~~う~~~~」で有名になったけど、正にあんな感じ。 これって聞いている方にとっては、じれったくって苦痛で仕方が無い。 せっかちの私にとって、イラつく事この上ないの。 とまぁ、話がちょっと横道に外れちゃったんだけど、 何となく不安なまま、診察室を後にしました。 そして2日後の夕方、 “どうか、Dr.Dが上手く処置を施してくれますように!” と祈るような気持ちで行って来ました。 事前にTiffanyには、 「今日は、抜糸に行かなくちゃ行けないんだよ。この間エマージェンシー・ルームで縫った時の様に、注射をしたり痛い思いはしないから安心してね。」 と、その日の朝から何度も言い聞かせ、 お気に入りのぬいぐるみを持たせて行きました。 診察が終わる30分前が良いと、先生が言うので、その通りに終わる寸前に行くと、私達が最後の患者の様でした。 待合室では、Dr.Dが患部を何度も消毒液で拭く事に気を使っていたのでコットンと消毒液を持って行き、待合室でも患部に当てていました。 ところが初めは警戒して、それすらも嫌がって抵抗するTiffany。 私:「それじゃー先に、Tiffanyがマミーの頭をこのコットンで拭いて頂戴。」 と言ったら、あっさりOK(笑)得意顔で一生懸命に、消毒液で湿らせたコットンで私の後頭部を拭いています。 私:「はい。今度はTiffanyの番~♪」 T:「OK~♪」自分の頭(患部)にコットンを当てて喜んでいます。 “よしよし。。。リラックスしたみたいだからこれなら上手く行きそうだわ。” と内心安心していました。 Dr.Dが自らドアを開けて姿を現し、今一力ない声で 「T~~iffany~~~」o( _ _ )o...zzzzzZZ と呼んだので、Tiffanyに、 私:「直ぐに終わるから頑張ろうね。」と言って診察室へ入って行きました。 ところが、ゴム手袋をはめた、Dr.Dの仰仰しい姿を見たTiffanyは、半分パニックになり、一気に態度を硬直させて私にしがみついた。 「大丈夫。糸を抜くだけなのよ。マミーを信じて、リラックスしようね。」 そう言っても、もう殆ど聞く耳持たず状態。 ここからはTiffanyの性格がそのまま出るよう、あえて原文で載せました(笑) T:「No!I don't want it! Stop it!」(やめて! ヤダヤダ!)そう叫びながら、足をバタつかせて大抵抗。 私:「Tiffany,no matter how much you cry the doctor still has to take out your stitches.」(Tiffany、どんなに泣いたって抜糸はしないといけないのよ) T:「NEVER! I hate you!」(絶対に嫌よ! マミーなんか大嫌い!」“NEVER!”は、当時のTiffanyのお得意の言葉。 困惑顔でDr.D:「But Tiffany, I'm only trying to help you.You don't want the stitches to stay in your head forever do you?」(Tiffany,先生は何も痛い目に遭わせるつもりは無いんだよ。糸をずっと頭に残しておくのは嫌だろう?) すると、“糸をずっと頭に残しておくのは嫌だろう?”の言葉に反応したのか、急に脱力して言うなりになった。意を決したような目で、私の顔を見上げている。どうやら開き直ったようだ。先生はハサミを、いつものゆっくりとした動作で手に取り、Tiffanyはコアラのように、私にしっかりとしがみついている。先生もそれなりに気合を入れて、私に、「絶対にそのまま動かないように」、と指示をする。私ははっきり言って、Tiffany以上に緊張していた。ゆっくりとハサミを、後頭部に近付けて行く。私は息を殺して、食い入るようにハサミの行方を目で追った。微妙に震えるハサミが、更に私の緊張を高める。プチ、プチ、プチ、と簡単に抜糸が出来た。「ほら!もう終わったよ!」よほど嬉しかったのか、興奮気味に早い口調で話す先生。そして、晴れ晴れとした笑顔。ゾ、ゾンビが生き返った!( ̄▽ ̄;)!!私は初めてこの先生が、生きているんだと悟った。私の緊張の糸も、Tiffanyの抜糸と共に解れた。先生も、私も、Tiffanyも、そして、心配そうに見守っていた受付のおばちゃんまでもが、皆、頬をバラ色に染めて笑っていた。今までの鈍く重かった部屋中の空気が、急に軽く新鮮になって、私の身体に取り込まれて来た気がした。先生は私達が帰る時も、生き生きとした笑顔で手を振りながら、いつまでも見送ってくれていた。頬が熱く紅潮したまま、笑顔で帰った私達だったが、その後、この先生の顔を見る事は、二度と無かったのであった。 【完】