タバコと発がんと寿命との関係
今、国立がんセンター津金昌一郎さんが書いた「なぜがんになるのかその予防学教えます」という本を読んでいる。その中にタバコについて私の認識を改めるべき記述があったので紹介したい。私は約10年前、研究費を頂いて肺がんの予防と治療について研究した。肺がん74人とコントロール群200人についてアンケート用紙を郵送してその生活習慣を調べた。その結果、肺がんと有意(統計学的に有意差が出た)な相関があったのは、野菜の摂取項目だけで、野菜を多く食べる人は肺がんにかかりづらく、その逆は肺がんにかかり易かった。煙草も関係あるだろうと集計したが有意差は得られなかった。論文を書く段階で内外の多くの論文を調べたがタバコとがんの関係をきちんと示している論文は少なく、多くはタバコは有害とする先入観で、古い論文を引用したりしていて自分できちんと研究した論文ではなかった。私の研究は症例数は少ないが、その結果はそれで価値あるものと思っていた。近年タバコ有害論が天下を風靡し、あらゆる所で喫煙が迫害されてきたが、はたしてどれだけ本当のことが分かってそのようなことを行っているのだろうか?との気持があった。本書の48ページでは、がんセンターのコホート研究で、40~69歳の男女9万人に喫煙習慣を尋ねて8年間追跡して、肺がんの発生率を比較した。その結果タバコを吸わない人たちに比べ喫煙者は4~5倍高い確率で肺がんにかかることが分かったとのことである。おそらく4~5倍なら確実に有意差があると思う。また45ページには英国の医師集団34,000人を50年間追跡して、タバコと寿命との関係を調べた結果が2004(平成16年)年に発表され、喫煙者は非喫煙者に比べ、寿命が10年短かったとのことである。また30歳で禁煙すると10年、40歳だと9年、50歳だと6年、60歳時禁煙だと3年寿命がのびるとのことだった。この研究の著者であるドール博士は91歳とのことだが、きちんと統計学的検討も行っていると推定され、信頼できると思われた。先のがんセンターのデーターも検査人数や追跡機関、統計処理ができる能力などを考えて信頼できると思った。私の研究は少数例ではあったが、きちんとした研究で、その結果は正しいと認識していた私は、今日、タバコの害をあまりに大げさに宣伝している風潮に、もう少し冷静に物事を見た方がいいのではないかとの気持があった。しかし今回、このデータを読み、自分の過去の小さな研究にこだわらず、自分の認識を改めて、人々の生活習慣と健康の関連について、虚心坦懐に積極的に勉強していかなくてはいけないと思った。