新!私的熱帯魚図鑑 vol.009
カージナル・テトラ ネオン・テトラの紹介が済めば、当然次はカージナルって事になるでしょう。それ位、この2種は良く似た外見をしていますし、熱帯魚の定番中の定番商品でもあります。カージナル・テトラ Paracheirodon axelrodi (Schultz,1956)は、南米のネグロ川やオリノコ河流域の細流に生息する、全長4cm程度の小型カラシンです。とくにかくその美しさは、淡水性観賞魚の中でもトップクラスでしょう。近縁種のネオン・テトラは体側部中央を走るメタリックブルーのラインの下部前方がシルバー、後方がピュアレッドに染まるのに対して、カージナルでは、メタリックブルーのラインの下は全部真っ赤に染まりますから、その点に注意してみれば両者を間違える事はないでしょう。 ネオンテトラ同様非常に温和で飼育しやすい魚です。本来の生息域では、かなり酸性の度合いの強い軟水に生息しているのですが、我が国の水道水を塩素中和した水で問題なく飼育できます。また、ネオンよりはやや高めの温度にも耐えるため、夏場はネオンよりもうまく乗り切れるのではないでしょうか。餌も人工餌を良く食べてくれますので、わざわざ生餌を用意する必要はありません。販売されている時はまだ若魚である事がほとんどですが、飼い込むとネオンよりも一回り大きくなり見栄えがします。また、寿命もネオンよりは長いように感じます。 カージナルにはいくつかのバリエーションが知られています。今日の画像の個体は、実は「ショートライン・カージナル」と呼ばれるタイプで、ノーマルのタイプではメタリックブルーのラインが、脂ビレ(カラシン特有のヒレで、背部の尾ビレ前方付近にちょこんと乗っかっています)の真下辺りまで到達するのに対して、ショートラインではその前方でラインが終わっています。まぁ、別に観賞価値の点からはまったく問題にならないレベルの話なので無視して構いませんが、カラシンマニアは結構こだわったりしてます。 また、本来黒褐色であるはずの背部が金色もしくは銀色に鈍く光る「ゴールデン」「プラチナ」タイプも存在します。これは、ネオンの時とは違い、改良品種ではなく野生種です。体内にある種のバクテリアが寄生する事によって、キラキラした光沢が出てくるもので、ゴールデン・テトラをはじめ、南米産のカラシンには時々見かけられる現象です。ちなみに「発光」する訳ではありませんのであしからず。こちらのタイプも観賞という観点からはノーマル個体より劣化している気もしますが、希少価値という点でマニアの間では珍重されております。また、アルビノタイプも存在します。こちらは正真正銘の改良品種ですが、やはり個人的には原種の方が数段美しい気がします。 飼育は容易なカージナル・テトラですが繁殖の方はかなり難易度が高い種類と言えるでしょう。飼育の際には問題にならなかった水質ですが、繁殖の際には酸性の軟水を用意してやることが最低条件となります。ピートやマジックリーフなどで腐食酸の豊富な水を作ってやるのが一番です。水質が合っていれば産卵までこぎつける事は可能ですが、孵化した稚魚はネオン同様非常に小さく、初期餌料として孵化したてのブラインシュリンプを使うことが出来ません。さらに、水質が酸性に傾いている為、ロカバクテリアの繁殖が抑制されており、「残餌ですぐに水質が悪化=稚魚全滅」と言うパターンに陥りがちです。カージナルの繁殖が出来るようならば、小型カラシンの繁殖テクニックは上級レベルといって過言ではないと思います。 あっそうそう、カージナルテトラの学名、正確には属名が以前のCheirodon属から、ネオンと同じParacheirodon属に移されたようです。・・・って、凄く当たり前の気がします。素人目に見ても、カージナルとネオンの属が別って言うのは明らかにおかしいかと思います。・・・実は、もう一種近縁種がいるんですが、そいつなんか以前はHemigrammus属と言う、ぜんぜん異なる属に区分されてましたからね~。確かに、学問的に分類となると外見なんかよりも骨格構造や鰭式、アイソザイムとかそっちが重要なんですけどね。それにしても、この3種はどう考えても、同一属だろうって言うのは、数十年前からアクアリスト達はみんな思ってたはずです。