在原業平 世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
在原業平(ありわらのなりひら)世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし古今和歌集 53世の中にまったく桜がなかったら(今日は咲いたか、はたまた散ってしまったかとやきもきすることもなく)春の心はのどかだろうなあ。註たえて:(否定語を従えて)「全く、全然、すっかり」の意味。語源は動詞「絶ゆ」だが、独立した別語の副詞と見なす。せば・・・まし:「せば」は過去の助動詞「き」の未然形「せ」に接続助詞「ば」がついたもので、「~でなかったとすれば」の仮定条件となる。同様の文脈は、現代語でも(英文法でいえば)過去形になる。反実仮想の助動詞「まし」と合わせて、上記のような構文となる。のどけからまし:文法的には、形容詞「のどけし」(のどかだ)の未然形の一つ「のどけから」に、「まし」が接続したもの。語源的には「のどけく・あら・まし」の約まったものである。