壬生忠見 恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか
小倉百人一首 四十一壬生忠見(みぶのただみ)恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか拾遺しゅうい和歌集 621恋わずらいをしているという私の噂がもう立ってしまったのだなあ。人知れず密かに思いはじめたばかりだったのに。註恋すてふ:「恋すといふ」が約つづまったもの。恋をしているという~。現在では「コイスチョー」と読むが、当時は「コフィステフ」または「コピステプ」のように発音した(当時のハ行は、f音またはp音だったと推定されている)。またサ行は、奈良時代にはts音(ツァ、ツィ、ツ、ツェ、ツォ)だったが、平安期の発音は不詳。まだき:「早くも、もう、夙つとに、まだその時期ではないのに」などの意味の副詞。形容詞「まだし(未だし)」(まだその時期ではない、機が熟さない)と語源的関係があることは明らかだが、やや複雑なニュアンスを帯びた語。立ちにけり:動詞「立つ」の連用形「立ち」に、完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」と詠嘆の助動詞「けり」が付いたもの。人知れず:おそらくこの歌などの影響で現代語に残ったと思われる言い回し。動詞「知る」の未然形「知れ」に打消しの助動詞「ず」が付いたもの。人が知ることがない。人に知られない。(人知れず)こそ(思ひそめ)しか:係助詞「こそ」と、過去の助動詞「き」の已然形「しか」が係り結びで、強調とともに逆接の「思い初(そ)めたばかりだというのに~」の意味となる。