週刊 読書案内 椎名誠「遺言未満、」(集英社文庫)
椎名誠「遺言未満、」(集英社文庫) 本屋さんの新刊文庫の飾り棚でこの本の表紙を見て「あっ?!?」 と思いました。「遺言未満、」という書名の横に、夕日の逆光で影でしかない著者、椎名誠の写真です。 その、おバカぶりがうれし面白くて「本の雑誌」ともども、夢中になって読んでいた、あのガハハハの椎名誠が「影」になって写っている! のです。 80歳だそうです。 二十数年ぶりに、椎名誠を購入して読みました。椎名誠「遺言未満、」(集英社文庫)です。 夢中になった始まりは「さらば国分寺書店のオババ」(情報センター出版局)だったことははっきりしていて、続けて「わしらは怪しい探険隊」(角川文庫)、「もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵(本の雑誌社)「場外乱闘はこれからだ」(文藝春秋)、「インドでわしも考えた」(集英社文庫)、「赤目評論」(文春文庫)、まあ数え上げ始めるときりがありませんが、理由は簡単で、すぐ読めたからですね。で、ヒマつぶしに最適だったからです。 ご本人はSF 作家を自称していらっしゃるらしいのですが、SFは、多分、一冊も読んでいません。もっぱら活字中毒と怪しい探検隊に引きずられていました。何本か撮っていらっしゃるはずの映画も、見るには見た気がしますが忘れました。 で、90年代の半ば頃に、突如ブームが終わって、今回の購入は実に久しぶりです。 というわけで本書ですが、下の目次をご覧いただくと一目瞭然ですね。まあ、そういう編集、造本なわけですが、テーマは「死」です。 葬式とか遺書とかの話ばかりです。 著者の椎名誠は1944年生まれのようですから、この本が書かれた時は70代ですが、今年、2024年には80歳です。さすがに椎名誠でも、まあ、そういうテーマになるのでしょうね。 一人の人間がどのくらいの蚊に刺されたらどうなるか。具体的に調べた研究者グループのことが紹介されている。場所は北極圏。おびただしい蚊の雲に1分間とりまかれたあと急いで屋内に戻って被害を調べたら、一人につき約9000回刺されていた。一人の人間の体には5リットルほどの血液が流れている。蚊が一回に吸う血液の量は5マイクロリットル(100万分の5リットル)だからものの数に入らないようなものだが9000回となると話が違ってくる。 同書は続いて恐ろしい推算をしている。― 我慢強く、15分間そこに立ち続けていると、その人は血液の15パーセントを失い、30分たつと血液の30パーセントを失ってしまう。40分たつと2リットル。45分たつと刺され死にするというのだ。(P131)」(遺言状と死にそうになった話-無数の蚊に刺されつづけたら) やっぱり、椎名誠でしたね。。健在ですね。でも、やっぱり、そうはいっても80歳で、あのころから50年たっているのですね。「あの頃は面白いことをけっこうたくさんやったよなあ」「そうだったなあ」話は二分くらいしかできなかった。「いろいろ楽しかったよなあ」「そうだったなあ」そうしてしばらく互いに黙った。彼は最初すこし笑ったような気配があったがとても疲れてきているのがわかった。いくらか沈黙があった。やがてどちらからともなく言った。「じゃあな」「じゃあな」あっけなかったけれどおれたちの「さらば友よ」の挨拶はそれだけだった。(P269「さらば友よ」文庫版のためのあとがき) 文庫版のあとがきとして書かれた北上次郎、またの名を目黒孝二との別れのシーンの一節です。ちょっと笑えません。でも、まあ、このまじめさも椎名誠なわけです。【目次】「死」を知る生物念願のお骨佛をおがみに家のいのち遺骸と地獄好き四万十川での死孤立死はいやだ身のまわりの「死」のことなど多死社会を迎えうつ葬祭業界遺言状と死にそうになった話葬列の記憶鳥葬へのあこがれ東京のイスラム教モスクに行く墓のない国ハイテク納骨堂の周辺骨を喰らう。骨を撒く遺言未満八丈島の海へ~あとがきにかえて 結局、振り返ってのは、ボク自身の「老い」でしたね。遺言とか、遺書とか、考えたことのないテーマを、何となく刻み込まれた感じです。まあ、読むというのは、そういうことなわけで、しようがないですね。 追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)