「敗者たちのツール・ド・フランス ~ランタン・ルージュ~」 マックス・レオナルド
訳:安達 眞弓2015年07月 辰巳出版(株)より2011年に初めてツール・ド・フランスの放映を見てから、毎年ダイジェスト版のテレビ観戦をしています。で、この本を見つけたので読んでみました。ツール・ド・フランスの非公式の賞であるランタン・ルージュ。これは総合最下位になった選手に与えられる賞のこと。名前の由来は諸説あるそうですが、かつてヨーロッパを走る列車の最後尾にここが最後尾ですよ、という目印に赤いランタンを吊していたから、というのが有力らしい。なるほど、大勢で道路に長く伸びながら長距離走る人々の最後尾とイメージが重なります。最初はツールの歴史の紹介。初回は1903年。フランスのスポーツ紙[ロト]の経営危機にあたり、同紙の記者アンリ・デグランジュが宣伝企画として、6回のステージでフランスを1周する過酷なロードレースを思い付いたのが始まりだそう。最初は列車に乗ったのがばれて失格になった選手がいたり、初代ランタン・ルージュ獲得のアルセーヌ・ミロショーはトップから65時間遅れであるとか、伝説がものすごい。完全な個人戦で、マシントラブルは全部自分で解決。自転車は重く、道路事情は悪い。そりゃ時間もかかるよね。という具合に色々な年代のランタン・ルージュ獲得者に、作者がインタビューしたり考察したことが章ごとに書かれているんですが、正直なところあまり面白くなかったです。原因はいろいろあると思いますが、最大の原因は私がツールに詳しくないこと。見始めてまだ5年(つまり5回)だもん。昔の選手のこととか全然わからないよ。かろうじて名前がわかったのってアームストロングくらい。あと、ツールの文化的背景が理解できないこと。ツール自体、独特のルール(明確なルールはもちろん、不文律とか、ルール違反ではないがやったら他の選手から非難される行為とか)がたくさんあって複雑ですよね。逃げている選手同士で談合して協力するのはOKだけど、トップ選手がマシントラブルに遭った時に上位選手がアタック仕掛けるのは卑怯だとか。実際に2015年の大会で、フルームがパンクした直後にニバリがアタックして、フルームが激怒していました。そうか、これはやっちゃいけない卑怯な行為なのかと、初めて知るルールが多い。それに加えてフランスの国民性。フランスって長距離の耐久レース好きですよね。レースによって得られる名誉とか、国民を奮い立たせる勇気とかに大層な価値があるみたいなんですが。それにしてもツール主催者が選手に要求する『死ぬほど走れ。少しもだらけるな。必死に走らないヤツは失格だ』的な感じが、日本人の私からすると度が過ぎてるように思えてしまうんですよね。フランス人ってわからない・・・・。文化の違いだからしょうがないと思うけど、なかなかに共感するのは難しいです。もう1つ、作者の私見・感情が入りすぎていて付いていけない。この作者もアマチュアですが、ロードレースをやる人みたいなんですよ。自分が完走できなかった体験を投影されていて、そこも共感しにくい。ランタン・ルージュは、過酷なツール・ド・フランスの世界の中で、少なくとも完走できた選手しか得られない賞であるから、どうしてもそうなるのかもしれないですが、ちょっと鬱陶しかったです。そして読んでもよくわからなかったけど、ランタン・ルージュはクライマーよりも、山を登るにはハンデがありすぎるスプリンターが多く取る賞という印象でした。平地で競って競って競って、それでもステージ優勝できるのは1人。山岳を重い身体で苦労して登って、体調悪い時もあるし、落車で怪我してたりタイムを落としてたり、それでも足切りで失格にならないために必死で走る敢闘賞的な。もう1つ、チームリーダー(エース?)を勝たせるためにアシストに徹して、自分のペース配分は関係なし、最後に飛び出して行くリーダーを見送って自分は集団から脱落、それでも失格にならないために最後まで走りきる、というパターン。名アシストはどこのチームでもチームメイトに愛され、「いつでも一緒走りたい選手」と名のある選手達に言わしめる。こっちは理解しやすく感動的に思えました。ちょっと期待外れな内容で残念でした。敗者たちのツール・ド・フランス [ マックス・レオナルド ]価格:1,944円(税込、送料込)