遠い呼び声の彼方へ! ~武満徹の音楽~
武満の音楽は不思議だ。 まったく規則性のない音の動きが、まるで高いところから低いところへ水が流れるように、至極自然に音楽が流れていく。 まるで、音楽それ自体が意思を持った巨大な生物であるかのように、蠢く。 その動きはまったく自然の法則に従っていながら、ある種の…それとは相容れないエゴのようなものを感じる。 そう感じるのは、私が彼と同じ日本人であるからなのだろうか。 この録音は、作曲家自身が監修した貴重なもの。 収録内容は、 1 弦楽のためのレクイエム 2 ノヴェンバー・ステップス 3 遠い呼び声の彼方へ! 4 ヴィジョンズ となっている。 このCDの中には入っていないが、僕は、彼の作品の中ではとりわけ ノスタルジア が好きだ。 気持ちがくさくさしたときに聴くと、 言いようのないカタルシスを感じる。 ああ、日本人でよかった、と感じる瞬間がそこにある。 話を元に戻すと、 このCDには、楽曲に対する作曲者自身の解説が付いている。 いくつか引用すると、 はじまりもおわりも定かではない。人間とこの世界を貫いている音の河の流れの或る部分を、偶然に取り出したものだといったら、この作品の性格を端的にあかしたことになります。(弦楽のためのレクイエム) まず、聴くという素朴な行為に徹すること。やがて、音自身がのぞむところを理解することができるだろう。(ノヴェンバー・ステップス) 曲は、ある低回を経てから、…夜の風景の中を、ハ調の海を目指して進む。(遠い呼び声の彼方へ!) 武満徹の音楽は、日本人ならば絶対に聴いておくべき音楽だ。 なぜならタケミツの音楽は、日本人の心の奥底にある霊魂(集合無意識と言ってもいいだろう)を、グっと鷲掴みにして呼び覚ます力を持っているのだ。 そこから得られる音楽体験は、他の音楽では決して代替できない…かけがえのないなものだとしか、言い様がない。 好きとか嫌いとか言う以前のものである。 現代音楽というよりも、これは私たちの音楽、というべきではないだろうか? ちなみに今日は、僕のブログを開設してから1年目に当たる日でした。 僕のつまらない駄文にお付き合いいただいている皆様のご厚情に、改めて感謝申し上げます。