ヘンデル 『涙を流させてください』 (映画「ファリネッリ」(邦題「カストラート」)から)
まだこの映画をご記憶の方は多いと思う。 この映画が流行ったのは、10年くらい前。 懐かしの90年代である。 僕はこの映画に、単なる流行りもの以上の感銘を受けたのだが・・・ このうえない美しい映像の中で、決してきれいごとでは済まされない兄弟の愛憎の描かれ方が、鮮烈だった。 疲れた夜は、ときどきこのCDを引っ張り出して、むかし見た映画の世界に思いを馳せつつ、この人工的な美の世界(このCD、この映画の「カストラート」(虚勢された男のソプラノ)の声は、「合成」によって「つくられた」声である)に浸りたいものだ。 通常女性的なイメージがつよいヘンデルだが、映画では、彼はすでに歴史に名を刻むことが約束された傑物であって、政治臭をムンムンさせた迫力ある存在として描かれている。 このCDの6曲目、ヘンデル作曲の「涙を流させてください」をファリネッリ(この映画の主人公)が彼の前で歌ったとき、その歌声を聴いた作曲家自身でさえその歌声のあまりの美しさに首を掻き毟って狂いそうになる。 映画の最終場面で、たくさんの白馬が一斉に解き放たれて走り出すシーンはなにかの象徴のようで、とても印象深い。 今夜は、「偉大なジュピターよ」と「涙を流させてください」に、 昼間の現場の喧騒にちょっと疲れたブラームス係長は、ちょっとだけ癒されました。