零戦52型(A6M5) 格闘戦から一撃離脱への転換
久々にプラモです。 零戦52型(A6M5) は大戦中期から終戦まで海軍の主力を担った戦闘機です。特徴としては米軍戦闘機の高速化に対抗して零戦の速度向上を狙って、翼を32型と同様の11メートルに短縮し(ただし32型と同じ角形だと気流が発生して速度が向上しないため21型、22型と同じく円形に整形)、エンジン排気による空気の整流・推力増強を意図して排気管を分割して機首部の外形に沿って配置する推力式単排気管方式が採用されています。この結果速度は22型より時速24キロ弱向上した時速564キロにまで上昇しています。また機体強度が向上したため降下速度もアップ(52甲型で740キロ弱。22型より約110キロの降下速度向上)し、防弾装備のなかった零戦に初めて防弾装備が施されのもこの52型からです(52甲型では主翼の強化を、52乙型からは操縦席前面を防弾ガラス、座席後方に8ミリの防弾鋼板を設置。52丙型では座席後方の風防も防弾ガラスを追加)。武装も52型は22型以前と同じ機首に7.7ミリ機銃2丁、翼に20ミリ機銃2丁でしたが、52甲型では、20ミリ機銃の装弾数が1丁125発に増え、52乙型では7.7ミリ機銃一丁を13.2ミリ機銃一丁に換装するなど、武装面の強化も図られました(52丙型についてはまた別の機会に ^_^)。戦訓から、従来の格闘戦重視の思想から、一撃離脱への転換を見て取ることも出来ると思います。こうしてカタログデータ上では大幅に性能向上した本機ですが、燃料タンクが縮小したため航続距離が低下し、武装や装甲の強化、速度のなりふり構わぬ上昇策は(推力式単排気管によってエンジンの底上げがおこなわれたとはいえ、エンジン自体の馬力があがったわけではないですから・・・)機体の運動性を大きく低下させてしまい、機体レスポンスはかなり悪化したようです。そのためパイロットたちからは武装の強化は喜ばれたものの、扱いにくくなった操縦性はかなり不評だったと言われています。日本海軍戦闘機隊の戦術思想の大転換ともいえる一撃離脱方式ですが、惜しむらくは、零戦の速度向上よりも、米軍新型機のスピードの方が速かったため、一撃離脱戦術では米軍機にかなわず、操縦性低下による格闘戦性能の低下(とは言っても格闘戦では52型の方が、まだまだ米軍機より遙かに優位に戦えたようです)と相まって、零戦の長所を殺してしまった点もあり、本機の評価を難しいようにしているように思います。そのため零戦好きな人でも、「52型より21型が好き」という人も多く、一方でバリエーションに富んでいる52型の方が好きという人もいてなかなか十人十色です。 写真のプラモ零戦は有名な「零戦撃墜王」岩本徹三飛曹長(当時)のラバウル、昭和19(1944)年2月時の乗機です。大戦はじめは空母「瑞鶴」に搭乗し、昭和17年5月の珊瑚海海戦で直掩隊を指揮して奮戦し、瑞鶴を守りきったのに始まり(彼は真珠湾やインド洋作戦にも参加していますが、直掩任務のため、インド洋で英軍飛行艇を撃墜した他はほとんど空戦らしい空戦をしていません)、昭和18(1943)年11月にラバウルに進出後、連日の空戦でラバウル・トベラ地区での撃墜数142機を記録した闘将です(彼の撃墜数は202機といわれ日本一の撃墜数です。しかし撃墜記録の精査が進められる前に亡くなったため、日本側記録による仮定の数字となります。精査後の撃墜数は不明ですが撃墜数は80機ぐらいと言われています)。岩本氏の乗機と言うと有名なのは撃墜マークを60個つけた「253-102」号機ですが、同機が損傷激しく修理のため降りることになった際に新たにあてがわれた機がこの「253-104」号機となります(余談ですが、前線部隊では機体の部隊番号を諜報上の理由もあって消したり、省略することが多々あったようです。そのため「253-104」と記すところを「3-104」となっています)。岩本の得意な戦法(主のラバウル進出後の話ですが)は「一撃離脱」 です。「今の零戦では新型米軍機にはかなわない。格闘戦に持ち込もうとしても逃げられるし、追いかけても相手の優速に振り切られて返り討ちに遭うだけだ。零戦が取り得る戦い方は、奇襲あるのみ。相手に一撃を与え、体勢を整えられる前に戦場を離脱するしかない」という主旨の発言を残しています(上は彼の著作の記述を要約したものです)。格闘戦の権化とも言うべき零戦で一撃離脱を得意としたというのは驚く話ですが、彼の考えを聞くと、結果論やカタログデータばかりに目を向けがちな現代人には耳が痛い話です。プラモデルキット 「ハセガワ J7 1/48 三菱A6M5 零式艦上戦闘機52型」零戦五二型(A6M5) データ全幅 11.0m全長 9.121m全高 3.57m発動機 栄二一型(離昇1,130hp)最高速度 564.9km/h (高度6,000m)上昇力 6,000mまで7分1秒実用上昇限度 11,740m降下制限速度 666.7km/h航続距離 1,920km(正規)/全速30分+2,560km(増槽あり)武装 九九式二号20mm機銃2挺(翼内・携行弾数各100発)、九七式7.7mm機銃2挺(機首・携行弾数各700発) 爆装 30kg爆弾2発又は60kg爆弾2発 零戦五二甲型(A6M5a)データ全幅 11.0m全長 9.121m全高 3.57m発動機 栄二一型(離昇1,130hp)最高速度 559.3km/h(高度6,000m)降下制限速度 740.8km/h航続距離 1,920km(正規)/全速30分+2,560km(増槽あり)武装 九九式二号20mm機銃2挺(翼内・携行弾数各125発)、九七式7.7mm機銃2挺(機首・携行弾数各700発)爆装 30kg爆弾2発又は60kg爆弾2発 零戦五二乙型(A6M5b)データ全幅 11.0m全長 9.121m全高 3.57m発動機 栄二一型(離昇1,130hp)最高速度 554.7km/h(高度6,000m)降下制限速度 740.8km/h航続距離 1,920km(正規)/全速30分+2,560km(増槽あり)武装 九九式二号20mm機銃2挺(翼内・携行弾数各125発)、三式13.2mm機銃1挺(機首右舷・携行弾数240発)、九七式7.7mm機銃1挺(機首左舷・携行弾数700発)爆装 30kg爆弾2発又は60kg爆弾2発