『なんだかんだで苦難とは簡単に始まる』 (まきますか? まきませんか?) その1
その1 ~帰ったらビール…。いや、やっぱり眠りたい…。~ポケットから部屋の鍵をまさぐる。昨日、キーホルダーを付け替えたばかりなので馴染みのない感触だ。「もっとでっかい方が良かったか…?」どうしてもいつもの感触を求めてしまう自分に苦笑してしまう。なんとなく気分転換のつもりで替えてみたのだが、こんな形で失敗に気づくとは思えなかった。もうすでに疲れがピークを通り過ぎてる。「とっとと寝ちまいたいのに…。くそっ。」ドアを開けると、いつものように部屋の中は闇と薄明かりの混沌に閉ざされている。窓越しに街の明かりが冷たく差し込む、見慣れた光景…。 ドサッ !意識があるうちにベッドに倒れこむ事にした。(このまま…、寝よう…。明日休みだし、そのまま昼まで眠れ…る…。)このまま何も考えなければ、数時間は平和な時を過ごせられるのに…。そうわかっていても静寂が時を支配するまで待てない。疲れ果てた自分の隣で真面目で冷静な自分が話しかける。もちろん頭の中でだ。( とりあえずエアコンをいれなきゃ…。暑いよな…。) ( 服だって着替えなきゃ…。このままだと明日が大変だ…。) ( 喉、渇いたよな…。冷蔵庫にビール残ってたっけ…!? ) ( 遠くでサイレンが聞こえる…。なんか起きたかなぁ…。 ) (そうだ帰ったらすぐにシャワー浴びたいって、思ってたのに…。)静寂どころか頭の中であれもこれも大騒ぎになってくる。「 うるさい !! 」 つい誰にでもなく自分自身に言い放った。( はーっ、俺って奴はどうしていつもこうなんだ !? )電気を点けると時計は2時を回ってるのが見えた。「もうこうなったらやけくそでも何でも来いってんだ。」別に何も来ないのだが、さすがにこんな時間のなると思考も表現もおかしくなる。とりあえずやるべきことはやってしまってから寝ることにした。毎日、同じことの繰り返し。単調で変化に乏しい生活のリズム。朝、眠い目をこすり、会社で仕事…。残業で疲れて、家に帰るとバタンと倒れ、のろのろと起き出しては深夜のテレビを見てる。今日もまた同じことの繰り返し。違うのは今日の夜食ぐらい。「ああそうだ、メールチェックしとかないと…。」シャワー上がりに、冷蔵庫に立ち寄り、ビール片手にパソコンに灯を入れる。モニターがホワーっと明るくなる瞬間、どうしても暖炉に灯がつく感覚になる。もちろん部屋に暖炉なんてあるわけでもなく、知識も昔テレビで見たぐらいなのだが…。それにパソコンはテレビのようにいきなり番組が始まったりしないで、立ち上がるまでに待たされるのが、かえってアナログ的に感じてしまうのだ。それで灯を入れる気分にさせられる。自分だけの表現…。「えーっと、奴からのメールは…。」着信18件。そのうちスパムが11件(苦笑)。 最近、特に多い。セキュリティソフトが無駄な報告をしている。こんなことなら携帯を早めに修理出しておくんだったと後悔しても後の祭り。不幸にも入水自殺された俺の携帯は来週末にならないと帰ってこない。買い換えも検討したが、愛用機を手放すのはどうも気が進まないからだ。幸運にもアドレス帳などはバックアップを取っていたのでセーフだった。ただ、それに頼らざるを得ない自分がひたすら悲しい。気をとりなおし、週末にみんなで遊ぶ予定が入ったメールを探して、確認する。「なぁーんだ。結局、中止かよ…。だから最初から無理な計画だって言ってたのに。」ポカンと週末が開いたことに少なからず空しさを感じて、そのままダラダラと残りのメルマガを読むことにした。「あれ !?」 間違いメールか…? いやスパム…でもなさそうだ。見慣れない差出人…。「なんとか ど・りー・い・む …?」 …to be continue.