晒すのは恥しかない -中学卒業文集-
夜10時頃、心にしみる寒さに震えながら家に帰る途中、変なメールが舞い込んだ。「ど~でも良いんですが、中学校の卒業文集の自分が嫌いな奴や瀬戸先生の文章を鉛筆で添削して、厳しいツッコミ書き込むのを止めて貰えませんか?公亮君、卒業文集に書き込みとかしないようにね」。メールはゆうすけ(双子の)からで、地元の友達で作っているメーリング・リストに流れた。MLは遊びの日程合わせに使われる他、時々こういう類のメールが飛ぶこともある。瀬戸先生というのは、体育の先生でサッカー部の顧問でもあった。こうすけが文集にいたずら書きしていたのを、ゆうすけが家で発見したのであろう。家に帰って、中学校の卒業文集を読み返してみた。15歳の時に書かれた自分の文章はさすがに恥ずかしいが、何だか微笑ましくもある。ここに写す。それは、明らかにBeatlesの歌からとられた「Hello, Goodbye」というタイトルである。「Hello, Goodbye」 1組7番 後藤拓也一.良書との出会い:以前、「華氏451」という映画を観た。思想統制のためか読書が禁じられている未来世界で、それでも少数の人々が、本を後生に伝えようと一冊ずつ暗記しているのだった。現代の日本は、幸運なことに読書することが禁じられていない。しかし残念ながら現代の中学生では、読書家と呼べる人があまりに少ない。人の意見に流されることなく、しっかり地に足をつけた人生を送るためにも、良書との出会いは最重要である。一.名画との出会い:受験が終わった後、狂ったように映画を見続け、Q・タランティーノ監督の「ジャッキー・ブラウン」で、ようやく自分の観た映画が330本を記録した。その一本一本を振り返ってみるだけで、当時の感動や興奮を思い出し、何か胸が熱くなってくる。僕の中学生活を、最も豊かにしてくれたものが映画であるな、と思う。一.人との出会い:中学校の3年間では、実にユニークで魅力的な人々と多く遊んだ。そんな中で、椎名誠の「怪しい探検隊」という本に感化され、「東日本野糞研究会」なるキャンプ集団を作った。結局、二度のキャンプ生活を行っただけで解散になるが、とても愉快な思い出だ。一.名言との出会い:花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ(井伏鱒二訳「歓酒」より)いやはや、実に若い!中学生の時の私は、ひねくれた(天の邪鬼の)理想家(正義漢)という感じだったと記憶している。あの頃は、とにかく何に対しても真っ直ぐだった。今になってみれば恥ずかしさで読めない文章も多いのだが、自分が書いたものを後になって振り返ってみることで、勇気づけられ鼓舞されることもある。自分史は、今の“私”というものが、決してそれ以上でもなくそれ以下の存在でもないということをよく教えてくれる。自分の過去の存在を否定できないように、現在の自分の存在も否定できないものなのである。ところで、ゆうすけの文章を読んだら改めて爆笑してしまった。「僕の夢」僕は、将来医者になりたいと思っています。医者になろうと思った理由は、小学校6年生の時に僕の友達が大きな病気にかかってしまったことです。その子は重い心臓の病気で、手術しなければ直らないというものでした。しかし、その子の家は、両親が離婚していて母親が一人で生活費をかせぐのが精一杯という状況でした。母親は手術をするためにたくさんの借金をしました。手術は成功しましたが、進学を希望していたその子は、就職をして、借金を返しています。僕は、そのときに「もし手術にたくさんのお金がかからなかったら、その子は希望通りに進学できたんじゃないかなぁ」ということを思いました。そこで僕は、ほとんどお金をとらない医者になりたいと思いました。そのためには、いい大学に進学して、いい会社に入り、たくさんのお金をかせいで、大きな病院を作りたいです。しかし、現実的にはお金をとらないというのは、かなり難しく、たいへんだと思うけれど、たとえ、橋の下で暮らしてでも、困っている人を助けたいと思います。これが、全て作り話なのだから、全くひどいものである。病気の友達など存在しないし、ゆうすけは医者になりたいなどと思っていないのだ。この男は、高校の卒業文集でも同じ手を使い、いつも遅刻してみんなに迷惑をかけたのは、貧しい子どもを支援するために新聞配達のバイトをしていたからだ、ともっともらしく(そして、感動的に)書いた。そして、卒業式では、何人かのクラスメートから、「今まで君のこと誤解していた。ごめん」と言われたという。ここ数日、冴えない日が続いた。日曜のティーチイン沖縄は、拘束時間が11時間に及びさすがに辟易した。おまけに主だった収穫といえば、新城郁夫さんに再会したことぐらいだった。教えるというバイトは、なかなかハードだ。数学なんて、私が習いたいものなのに。昨日の夜、バイト帰りのあつろーに近所でたまたま会った。最近みなみ野にできたパン屋で働いている。理由は、パン屋は女の子が多そうだから。あつろーは、先週の松本での夜酔いにまかせて、合コンなどで知り合った4人の女の子にメールを送り、4人全員とデートの約束をこぎつけた(ちなみに、一人目とのデートは失敗に終わり、その後パチンコでリベンジすると言って、見事に二万すられた)。何でも来週が本命との横浜デートらしく、「俺、もう保守らねぇよ」とのこと。観覧車に乗る、そして手をつなぐという2つのノルマを自ら課している。「おまえ、チャレンジャーだな」と言ってはみたものの。あつろー、晒すのは恥しかないよ、と思う。しかし、恥を晒すこと、結構である。水に流せる過去なんてないが、酒で誤魔化すことならできるかも知れぬ。この男の恋の成就を願っている。