スーパーラブ・17 終わり
その夜、望は章人と離れるのを極端に嫌がった。互いが液を放っても、シーツを掴んで腰を捻り「お願い」と何度も求めた。ベッドの上で膝を立てて開脚し、上気した肌は汗を浮かべている。数を重ねる毎に望は艶を増し、章人が理性を失う程に喘ぎ、章人の耳元で「もっと……」と囁く。章人は息が苦しいが、望が指を噛む仕草を見ただけで欲情してしまい、望の両膝を掴んで、ぐいと胸に押し付け局部を露にした。「ぁあん」達磨返しにされた望が甘い声が章人を煽る。「あ、いい。奥を貫くみたい……」液で濡れた望の自身が章人の下腹部で擦られ、振動を受ける度に液を零す。互いの息が荒く、苦しいはずなのに「抜かないで」と望が潤んだ瞳で懇願した。「このまま抱き締めて」 汗と液で濡れた体を部屋の照明に妖しく輝かせ、貪欲な性を曝け出して章人を求める。「望、もう、足腰立たなくなるよ」この時だけ『望』と呼ばれる事が特別な意味を持つようで、望はそう呼ばれるだけで喘いでしまう。「やだ。……もっと、して。涙が出なくなるまで、突いて欲しい」 望が章人の肩をぎゅっと抱いた。体を重ねるのは今の望には何よりの安心感があった。 それでも望の頬に一滴、涙が流れていた。 いつも一緒にいたのにこれからは互いの働く姿を見る事は出来ない。言いようの無い寂しさがこみ上げて全てをを長引かせていた。「望、も、限界」 わざと章人はシーツに体を投げ出した。(これ以上は失神してしまう)何度も放出した疲労感が蓄積し、眠りを求めていた。しかし、望に構わずに寝る事も出来ない。章人はだるい体を起して望の頬に触れた。「俺は望を愛しているから」 望はその胸に縋り付いた。「ごめん。我侭を言った」「これでお別れでは無いから望に無茶をさせたくない。俺は望が大事なのだよ」「章人―」 望は章人の体温を感じながらゆっくりと瞼を閉じた。その柔らかで薄い皮膚に、章人がキスをして、重なり合いながら眠りについた。 お盆を過ぎ、店内全体が夏物売り尽くしのバーゲンで連日賑わう中で、望は異動した。辻本を始め、パートの女性や学生アルバイト達が別れを惜しむ中、望は笑顔で出て行った。「渋ると思ったが素直な子だな。それに芯が強い」 章人の上司、一宮さえも望を高評価した。去り際の潔さが心を打ったのだろう。「負けられないね、矢崎くん。勿論、追い抜かす気だろう?」「ええ、頑張ります」 自信を持って答えると「良い顔つきになってきたぞ」と一宮が誉めた。「ありがとうございます。では、自分の売り場に戻ります」背筋の伸びた後姿に「凛としてきた」と一宮は成長を認め、店長に報告した。 「独り立ちするのは早そうですね。色々な売り場を経験させて、若いうちに羽ばたかせたいものです」「矢張り、矢崎くんは並の新入社員では無いな。肝が据わっている」 店長は章人に期待した。「何れは売り場だけでなく、フロアー全体を任せてみたい」と言うので一宮は苦笑した。「私も抜かされますね」 店長の評価が流布したのか、章人の社内の評判は上がり、汚名返上となった。また、クチコミで紳士靴売り場に来店客が増え、毎日が充実している章人だが相変わらず弱点がある。 今日も忙しい合間の休憩時に携帯を見るとメールの着信があった。『行列の出来るシュークリームを買ったよ。だから絶対に迎えに来てね』章人は早番だ。売り上げを作り、適切な引継ぎを勤務時間内に行うのも当然だが、残業をせずに急いで帰宅し、夕食の準備を済ませて車を走らせなければならない。それは望を迎えに行く為だ。勿論、望に変な虫が付かないよう牽制の意味もあるが所詮は心配性。あるいは溺愛かもしれない。『店に着いたらメールをするよ。だから仕事、頑張れ! ノンちゃん』 送信してから窓の外を眺めると木の葉の色は黄色やオレンジ色に染まっている。次の季節が始まるのだ。(すぐに追いついて、抜かしてやる。だから一緒に見下ろそう) 野望に燃える章人は最近、笑顔を覚えた。容姿端麗で上品な着こなし、商品知識も豊富な章人に親しみやすさが加わり、これで鬼に金棒となった。年を越した春には、薄桃色の花弁を見下ろす強さを身につけているだろう。側で微笑む大事な望を抱き寄せながら。 終わりありがとうございました!●拍手をありがとうございます●いつも励まされています、ありがとうございます。●キマグレンいいなあ。二度目だけど● 好きな歌です―