つれてにげてよ。おしまい→ついておいでよ。
ジルの足を洗ってやりながら俺はぼんやり考えていた。明希はお母さんから離れようとしているんだろうか。母親ひとりで息子を高校に進学させれたのは・・きっと選択した職業のおかげだろう・・。見たことはないけれど、明希に似ているなら・・美人だと思う。靴も小さかった。足が小さいなら背も低いかもしれない。いつまでも無理をさせたくないな・・と俺が息子でも思う・・・・。ジルが水をいやがってべろべろべろと腕をなめてきた。手のかかる子だ。ふと思ったこの感覚、明希は・・お母さんのために早く大人になりたいんだ。背丈じゃなくて。「・・・・あき!!」俺は走った、暗闇の町を自転車で走った。灯りをつけたから、漕ぐたびに 摩擦の音なのか・ぎゅんぎゅんとうるさい。ペダルも重い、でも俺は踏ん張る。明希の住む家は坂の上のマンション。空腹のせいで力がいまいち、そんなときは立ち漕ぎだ!汗が流れるのがわかった、くそっ余計に腹が減る!わうわうううんと声がした・・「ジルなのか?おまえもきちゃったのか!」アスファルトを勢いよくしゃかしゃかと走る足音。へっへっと荒い呼吸。なによりもジルの匂いがする!そしてむかつくことに俺より足が早い・・。「明希のとこに行けジル!明希を呼んで!」勢いで叫んでいた。わううううん。ジルは<俺に任せろ。>と言った気がした。でも・・。案の定管理人に止められていた。「すみません、ここに住む友人に会いにきたんです。」汗を流して頭を下げたら、じきに・管理人さんが俺を思い出してくれた。その間も近所迷惑にぼうぼうと鳴くジルの声を聞いて。明希が降りてきてくれた・・。「・・やっぱりジルだ!・・興もどうしたの?」「どうしたのじゃないよ!言いたいことをいわせてもらうよ!じゃなきゃ、今日俺寝れないもん!」勢いよく叫んだ。ジルも俺の味方だ、吠えてくれた!「言いたいこと?」おいおいおい・・お前はひとを悩ませておいてそれか!「沖縄まで行くことはない!!近くでじゅうぶんだ!お母さんを安心させたいなら近くに住め!それでもどうしても沖縄に行くって言うんなら、俺もジルも連れて行け!」「・・・どうして興まで。」「明希がいままで寂しい思いしながらこんなに大きくなったのを俺は知ってるんだぞ!ひとりで遠くに行って・・まだ大きくなりたいのか!これ以上差を広げるな・・と言うか・・寂しい思いする道を選ばなくても生きていけるはずだ!」明希が呆然と突っ立っている・・。管理人もあっけにとられている・・。ジルが へっへっと舌を出している。「・・・俺は寂しくなかったよ。興がいたから。」明希がぽつっと口を開いた・・。「昔から母さんと御飯を食べたことがなかったけど・・興がいたから俺は頑張れた。」マンションの蛍光灯が明希の髪を輝かせたように見える。「だから興にいちばんに話したんだ・・。本当は寂しいよ、でも・。」「近くに住んでお母さんを安心させるか、沖縄で俺とジルの面倒を見るか、どちらかしか許さない!」・・・言い切った。途端に明希が笑い出した。管理人もたまらないように笑った。ジルが明希の足元に飛びこんで行った。<連れて行けよ!>そう聞こえた。「鞄にいれるしかなさそうだな。」明希が涙を流して笑った。 おしまいです。ありがとうございました!!いつも感謝です・・☆