眼科用剤
最近の動向緑内障治療薬として点眼回数が少なく強力な眼圧下降作用を有するものが増え、また配合剤が普及しつつある。緑内障国に対するROCK阻害薬が世界に先がけて発売された。硝子体内注射による網膜疾患治療が多様化し、また普及しつつある。薬剤投与方法眼科で使用される薬剤投与法には、点眼眼軟膏塗布結膜下注射テノン嚢内注射球後注射眼内注射などがあり、内服や点滴による投与もある。使用方法ドライアイ涙液の量的・質的異常に起因する角結膜上皮障害の総称人工涙液による補充としてヒアレインなどのほかヒアレインミニ点眼薬、ソフトサンティア(一般用医薬品)などを用いる。またタリビット点眼液で感染を予防することもある。防腐剤を含まないヒアレインミニなどの点眼液をできるだけ選択する。ムチンの産生を増加させるジクアスやムコスタが近年使用されている。点眼で治療効果が十分でない場合は涙点プラグが適応となる。涙液をオクラーサーフェスに貯留させ涙液中の成分を供給するとともに涙液層の安定に寄与する。睡眠中に漏れたガーゼマスクを両眼にあてるwet gauze eye mask療法や眼表面からの蒸発予防のためのドライアイ・モイスチャメガネなども用いられる。眼瞼痙攣ボツリヌス毒素(ボトックス)の約3ヵ月に1度の皮下注射によって眼瞼痙攣の治療が可能になってきた。結膜炎眼脂、瘙痒、流涙、異物感、眼痛などを主訴とし結膜の充血、浮腫などを伴う。アレルギー性、細菌性、クラミジア性、ウイルス性などを鑑別して治療する。アレルギー性結膜炎通常抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の点眼や内服を行う。効果不十分の場合は、ステロイドを点眼又は軟膏で用いる。急性期には1日4〜5回、慢性期には1日2〜3回点眼する。細菌感染の併発が疑われる時には抗菌薬の点眼を併用することもある。ステロイド点眼薬は長期に及ぶと、創傷治癒遅延、感染症、眼圧上昇などの合併症を起こすので注意する。抗アレルギー点眼薬はメディエータ遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体桔抗薬に大別され、また両作用を併せもつ薬剤も用いられる。春季カタルに対して免疫抑制薬のシクロスポリン(パピロックミニ)やタクロリムス(タリムス)も用いられる。角膜上皮障害、眼瞼炎などには点眼薬自体の副作用やベンザルコニウム塩化物など防腐剤の影響も念頭に置き、確認されれば投与を中止する。細菌性結膜炎、クラミジア結膜炎効果の持続と安定性の面からニューキノロン系薬、アミノグリコシド系薬が第一選択であるが、分泌物の培養、感受性などにより、その他の抗菌薬を使い分ける。淋菌性結膜炎、クラミジア感染症では必要に応じて内服治療も行う。ウイルス性結膜炎アデノウイルスス8、19、37型による流行性角結膜炎(EKC)、同3、4、7型による咽頭結膜熱(プール熱)、エンテロウイルス70型やコクサッキーA24による急性出血性結膜炎(AHC)などがある。伝染力が強いので手洗いの励行、手指消毒などが院内感染防止のために大切である。細菌による混合感染防止のためニューキノロン系抗菌薬点眼1日3回と抗炎症作用と角膜上皮下混濁防止のためにリンデロン点眼薬1日4〜5回を併用する。単純ヘルペスによる結膜炎は乳幼児の初感染時に発症し、ゾビラックス眼軟育などを用いる。角膜感染症細菌性角膜潰瘍、角膜真菌症、角膜アカントアメーバ感染症、角膜ヘルペスなどがある。細菌性角膜潰瘍の場合最も重要なことは感染局所における抗菌薬の濃度を極力上げることがある。そこで通常1日4〜6回の点眼処方に対して30分〜1時間に1回の頻回点限処方を行う(この点眼回数は適用外)。局所点眼のみならず、結膜下注射、内服、点滴静注などを用いる。病巣部の擦過物より緑膿菌、セラチア属、MRSA、MRSEなどの菌同定を行って適応する薬剤を使用する。上記の角膜感染症では潰瘍形成を助長するステロイドの点眼は発症初期には使用を控え、角膜上皮保護薬などを用いる。緑内障原発閉塞隅角緑内障(原発閉塞隅角症)の急性発作は代表的な眼科教急疾患である。急性発作の際には、診断後直ちに高張浸透圧薬(D-マンニトール又はグリセリン)を点滴する。20%D-マンニトールの場合は薬物1〜2g / kgを約60分で使用する。また、1〜2%ピロカルビン(サンピロ)を頻回点眼する。眼圧下降を確認後、外科的治療を考慮する。慢性緑内障のうち、ぶとう膜炎に続発する緑内障など原疾患の治療が可能なものはその治療を行う。原発開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、落屑緑内障などについては薬物を用いて適切な眼圧に保つことを管理開始の目的とする。日本緑内障学会の緑内障診療ガイドラインによれば1剤ずつ点眼を増やしていくことが基本である。使用する楽物は、眼圧下降効果、副作用、利便性などを考慮し決定する。禁忌があれば使用を避ける。実際に使用頻度の高いのは、プロスタグランジン(PG)関連薬、交感神経β遮断薬、点眼用炭酸脱水酵素阻害薬、交感神経α刺激薬、ROCK阻害薬である。これらの眼圧下降機序は様々であるが、併用により相加的な眼圧下降効果を有する。PG関連薬(ラタノプロスト、タフルプロスト、トラボプロストなど)は最も強力な眼圧下降作用と1日1回点眼という利点を持ち第一選択薬として使用されることが多い。虹彩色素沈着、睫毛伸長、上眼瞼溝深化などの特異な副作用を有するものの全身的な副作用は少ない。交感神経β遮断薬(チモロール、カルナテオロール他)は強力な眼圧下降作用と眼局所副作用の少ないことに特徴がある。持続製剤では1日1回点眼、水溶性製剤では1日2回点眼が基本である。慢性閉塞性呼吸器疾患、洞性徐脈の患者などでは禁忌である。点眼用炭酸脱水酵素阻害薬(ドルゾラミド、プリンゾラミド)は副作用の少なの製剤がある。1日2~3回点眼の製剤がある。交感神経α2刺激薬(ブリモニジン)は眼圧下降効果とともに神経保護効果の可能性が示唆されている。ROCK阻害薬(リパスジル)が世界に先がけて2014年に発売された。線維柱帯を介する房水流出促進作用を有する。配合剤は5種類の製剤(コソプト、アゾルガ、ザラカム、デュオトラバ、タプコム)が市販されており、患者の利便性向上とアドヒアランス改善に役立っている。内服用炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)は長期投与も可能であるが、現在では急速な眼圧下降を要する症例や手術までのつなぎとして使用されることが多い。知覚異常、消化器症状、腎尿路結石、電解質異常、血球減少などの多彩な全身症状の発現に注意する。白内障水晶体線維の細胞膜の変性防止のためピレノキシン(カタリン)、タチオン点眼薬、パロチン、チオプロニン(チオラ)などが用いられる。白内障が進行した場合は手術が必要になる。また、後発白内障に対するNd-ヤグレーザー後嚢切開後の眼圧上昇防止にアイオビジンを用いるとよい。白内障手術後の炎症や嚢胞様黄斑浮腫(CME)などの予防に、ジクロフェナク(ジクロード)、プロムフェナク(ブロナック)などのNSAIDs点眼薬を用いる。散瞳・調節麻痺眼底検査の散瞳にはトロピカミド(ミドリンP)を用い、2〜3回の点眼で約15分で散瞳が得られる。浅前房・狭隅角の眼には使用しない方がよい。アトロピンは作用が長く、1%液、1滴、1回の点眼で得られる散瞳は30〜40分以内に最大となり10〜12日間持続する。調節麻癖効果も20〜30分後に始まり、数時間後最大、ほぼ2週間持続する。この効果は強力であり前部ぶどう膜炎などによる虹彩後癒着の予防や届折検査などにも用いる。眼精疲労健常者では問題にならない程度の作業により生じる眼部の不快感などの訴えが中心となる。原因として調節性、筋性、症候性、不等像性、神経性そしてドライアイによるものがある。特に近年の事務機器のコンピュータ化によるVDT症候群は精神的ストレスも加わって眼精疲労がその主訴となる。視力の矯正やストレス対策に加えて調節痙攣にはミドリンM、調節衰弱にはシアノコバラミン(サンコバ)などが用いられる。症候性眼精疲労では結膜炎、副鼻腔炎、低血圧、更年期障害などが背景となるのでそれぞれの原因療法を行う。VDT症候群では室内照明や休憩時間の整備が大切である。ドライアイの場合はヒアレインやジクアホソル(ジクアス)、レバミピド(ムコスタ)を用いる。点眼で症状がとれない場合は涙液蒸発を防ぐモイスチャーメガネを用いて保湿に努める、本態性の場合は不定愁訴であることが多く、特に抗不安薬の併用が必要なこともある。加齢黄斑変性浸出型と萎縮型がある。中心暗点、変視症などの症状が徐々に進行し、非可逆的かつ高度な視力低下を来たす。光凝固療法、硝子体手術による脈絡膜新生血管(CNV:choroidal neovascularization)抜去、放射線療法などが行われてきた。特に中心窩にCNVが生じた場合は視力予後不良で、各種治療が試みられる。カ学療法(PDT:photodynamic therapy)用製剤のベルテボルフィン(ビスダイン静注用15mg)が用いられる。血管新生促進因子であるVEGFが加齢黄変性のCNVに関与することが明らかにされ、抗VEGF薬の硝子体内注射が主たる治療手段となっている。薬剤としてアフリベルセプト(アイリーア),.ラニビズマブ(ルセンティス)、ベガプタニブ(マクジェン)がある。服薬指導のポイント点眼液の汚染を防ぐため、点眼の先がまつげや皮膚に触れないよう指導する。点眼後はまばたきをせずに目を閉じてしばらくの間目頭を押えて点眼薬の全身的移行を防ぐよう指導する。温度と遮光に気をつけて保存する(冷蔵庫で保存することが望ましい)点眼瓶に記載された保存条件で保存されなかった点眼瓶は容器ごと捨てるように指導する。点眼薬を2種類以上使用する際には5分程度間をおいて点眼するように指導する引用:今日の治療薬2016(南江堂)今日の治療薬 解説と便覧 2020/浦部晶夫/島田和幸/川合眞一【合計3000円以上で送料無料】