やさしいJAZZ入門 第6回『映画音楽のJAZZ』
Miles Davis (Wikimedia)めざせ Blue Note 東京やさしいJAZZ入門 第6回もうJAZZなんて怖くない!!『映画音楽のJAZZ』■一ヶ月に渡り特集して来ましたJAZZ入門講座、いかがでしたか?最終回にマイルスも名残惜しいのか、幾分表情が悲しそうですね・・・そんな訳ないですよね さて最終回は当レビューに相応しく映画音楽に使われたJAZZ をご紹介します。 音楽は映画にとって何かと関わりのある重要な要素でした。世界最初の物語のある映画として公開された作品は1902年に公開されたSF映画『月世界旅行』でした。この時代の映画はまだ「音」が付いていなかった事から「サイレント映画」「活動写真」と呼ばれセリフは場面と場面の間に挿入される「字幕画面」で対応しておりました。サイレント映画には音が無いので、その代わりとして映画館専属ピアニストが独特のペーソスを感じるメロディーと軽妙なリズムで奏でる「ラグタイム」と呼ばれるダンス音楽を演奏して「効果音」をカバーするというスタイルで当時は映画を上映しておりました。日本では英語字幕対策として「活弁士」と呼ばれる人物が映画館に常駐し「活弁士」がその場で字幕の解説をしたり俳優の代わりにセリフを語りながら「無声」をカバーするという独自の文化が発展して行きますがこの「サイレント映画」時代の音楽演奏は映画の背景に流れるBGM(バック・グランド・ミュージック)「劇伴」と呼ばれる様になり、映画音楽の代表格として定着して行きます。1920年代後期、フィルムに直接音声が移植された「サウンドトラック方式」が開発されると映画興行としての活動写真の時代は終わりを告げ、発声映画「トーキー」に取って代わる事となります。それまで演奏主体だった音楽も唄を加えた演奏が登場する様になりそうして演奏された唄は映画の主題歌として人気を博していきます。人気の高い主題歌は映画公開後も様々なミュージシャンによって演奏され、やがてJAZZの「スタンダード・ナンバー」として定着して行く様になります。こうして長い年月を掛けて愛聴されてきた「スタンダード・ナンバー」は後日、再び映画主題歌として使用されながら「活動写真」時代に誕生した映画音楽は歴史の中で一巡して、姿を変え回帰して行くのでした。 しかし「JAZZ」と「映画」は黒人、白人それぞれが作り上げた文化的芸術である事から、相反する立場を取り続け、トーキーの時代に入るまで互いの歩み寄りは無かったという歴史があります。一方、JAZZと映画の相性に気付いたヨーロッパではJAZZをいち早く映画のBGMとして導入し、そうして作られた作品がやがて日本に渡ると、今度は反米という立場から日本でJAZZが受け入れられ戦後、JAZZだけでは生計が立てられない日本の事情からJAZZミュージシャン達は食べる為に映画、ドラマのBGM制作に参加するという歴史がありました。差別や戦争を通してそれぞれの歴史を歩んできたJAZZと映画は、大衆の中から生まれた文化という点では共通していますが、JAZZが米国と欧州 アジアで、独自の映画音楽としての発展があった事には、音楽の数奇な歴史を感じずにはいられません。というわけで、今回も一緒に勉強していきましょう♪△▼ △▼ △▼Bill Evans - Waltz For Debby (1961)ビル・エヴァンス - ワルツ・フォー・デビーWritten by Evans映画 『大停電の夜に』収録アルバム『Waltz For Debby』Bill Evans (Wikimedia)アメリカのジャズピアニスト。ドビッシー、ラヴェルなど現代音楽の影響を受けスタンダード・ナンバーに独自の優美なスタイルを取り入れた印象派として、様々なミュージシャンに影響を与えたジャズの巨匠。スウィングやバップとも違う、エヴァンスが演奏する独特の『浮遊感』が、当時モードを提唱していたマイルスの目指す所と一致し、『カインド・オブ・ブルー』という大傑作を生み出す事に貢献した人物でもあります。特に、東洋人が苦手とするR&Bベースなスウィングやバップなどの特有のリズム感で占められた 黒人の音楽であるJAZZを、日本人でも演奏出来るようなポピュラーなものにしたのは東洋の音楽に影響されたドビッシーやラヴェルら欧州の現代音楽家の作品に影響を受けたエヴァンスの、欧州的クラシック・ベースの美意識が東洋人の理解を得たと捉える事が出来、米国で誕生したJAZZがエヴァンスによって欧州から東洋へと一巡したと、言えるものがあります。一方で、頭を下にもたげる、ナイーブで静かな演奏スタイルとは裏腹な内省的な美意識に根ざした音楽を追求する上での身を切る様な多大なストレスに晒される中で、ドラッグに依存しながらの音楽活動を続けた破滅的側面を持った演奏家としても知られ、エヴァンスの指から奏でられるこの上ない美しさで占められた音楽からはその対極にある様な、荒廃した私生活の中にあってまるで代償としての対価を払い続ける様なエヴァンスの静かな表情からは見えてこない壮絶な音楽人生が浮かび上がって来る思いがします。△▼ △▼ △▼Benny Goodman - Sing, Sing, Sing (1966)ベニー・グッドマン - シング・シング・シングWritten by Louis Prima映画 『ベニイ・グッドマン物語』 『スウィングガールズ』収録アルバム『レッツ・スイング! -ザ・ベスト・オブ・ベニー・グッドマン-』Benny Goodman (Wikimedia)『スウィングの王様』の称号を持つアメリカのクラリネット奏者。地元の音楽教室で年の離れた兄達に対して、末っ子で身体の小さいベニーに与えられた楽器が残り物を押し付けられた様なクラリネットだった事と、年の離れた兄弟にも臆せぬ気骨ある精神によってスウィングのリードには向かないとされるクラリネットを執念で激しい音楽と同居させるまでに昇華させた事で『スウィングの王様』と呼ばれるまでになります。1932年、23歳の時に自身の楽団を結成し、29歳の1938年には当時の72回転レコード片面全部を使う前代未聞の音楽的事件となった楽曲の力強いドラムから始まり、スウィング特有の強弱溢れる華やかなテーマに延々続くドラムソロを挟むベニー・グッドマンの代表曲となる『シング・シング・シング』を発表している新進気鋭の天才演奏家としても知られた人物です。ラグタイムやデキシーランドジャズが全盛の時代にクラリネットの様な力強くない楽器を激しい音楽の中でも埋もれずに奏でる様にする発想は、クラシックに精通し自身もクラシックの作品を発表しているアカデミックな教育に裏付けられた伝統主義的な音楽性に一つの要因があったと思われますがその様な保守的な姿勢とは裏腹に人種差別が激しかった当時の世相の中、黒人演奏家を積極的に起用したり、1950年代に発生した反共産主義に基づく社会運動「マッカーシズム」別名「赤狩り」にも反対したリベラル派としても知られる、非常に気骨のある人物でもあった事が、音楽性にも反映され伝統的なクラシックの楽器を、激しい音楽の中に投入する程の伝統を重んじながら熱い激情を秘めた人間的魅力に、一番の要因がある様に思われます。伝統的で生前とした欧州の音楽と、混沌として激しい黒人音楽を同居させ自らのリベラルな思想を投影した様な白人と黒人が手を取り合う、差別無き新しい時代を迎えるに相応しいクラシックとJAZZが一体となった一つの理想形としての演奏に本曲が時代を超えて色褪せない魅力を放つ理由があるのだと思います。△▼ △▼ △▼Nat king Cole - Mona Lisa (1950)ナット・キング・コール - モナリサWritten by Ray Evans/Jay Livingston 映画 『別働隊』(1950) アカデミー歌曲賞受賞収録アルバム『ベスト・オブ・ナット・キング・コール L-O-V-E』Nat King Cole (Wikimedia)スウィング・ジャズ時代の末期に、ドラムレスのトリオ編成で一世を風靡した『コール』の愛称を持つジャズ・ピアニスト兼 歌手。「箱バン」と呼ばれる大編成のビッグバンドが主流だった頃ギーター、ベース、ピアノのみのトリオ編成は、画期的と評価されその後、トリオ編成によるJAZZの流れを生む立役者でもありました。ピアニストとしてのデビューは1930年代、オルガン奏者だった母親仕込の腕前により10代で頭角を表し、JAZZピアニストとしての功績を残すまでになり1939年 20歳の頃 ドラムレスの「ナット・キング・コール・トリオ」を結成します。同時に華のある歌声を買われて歌手としても活動する様になるのですが、そもそもトリオとなるきっかけを作ったのが当初、セッション予定だった筈のドラマーが来なかった事でドラム抜きで演奏した所、上手く行った所にありました。元々「ナット・キング・コール・クインテット」として予定していた演奏が「ナット・キング・コール・トリオ」となったのは偶発的な出来事だった訳です。加えて、ドラマーが来なくなりトリオで始めた演奏が好評になった時の事、ある日客に後の代表的ナンバーとなる「Sweet Lorraine」を唄えと絡まれ始めは断った所、店主からの命令で渋々唄った事が歌手としてのスタートとなります。因みに、ナット・キング・コールのミドルネームとなる「キング」は本名では無くL.Aでの興行の時、酔った客に被せられた折り紙の冠が「KING」と呼ばれるきっかけを作ったとかなんとか・・・w元々ピアノ演奏だけではレストランなどでは飽きられるとの対処から店主の命令をきっかけに歌い始めた歌手活動でしたがやがてピアノ以上の評価を受けるまでになり、1950年代に入りますとJAZZからポップスへと移行しソロ歌手として活動し「モナリサ」「スターダスト」「ルート66」などの大ヒット曲を次々と飛ばしスターとしての名声を確立するまでになります。しかし一気にスターダムにのし上がった事への不安からか、50年代後半からはポップスからストレートなジャズの演奏に原点回帰をしていく様になります。コールの音楽人生とは、ピンチをチャンスに変えて来た所に骨頂がある訳ですが、牧師の両親から学んだ、世の中の道理をわきまえる姿勢と状況を冷静に判断する、持ち前の生真面目さがチャンスをモノにする原動力となった様な印象があります。しかし、真面目さが裏目に出たのかピアノ以上に評価された歌声を維持するためと信じて続けた煙草は一日3箱以上にもなった事が大きな要因となったのか、1965年2月15日に肺ガンにより逝去します。本当に欲しかったものはシナトラの様な地位だったコールにとっての音楽は人としての理想を追い求める、純粋な想いが原動力になっていた所があり歌手としての絶頂期の45歳の若さで命を落とす事になるのは、残念ではあっても理想を追い求める高まりの中での悔いのない人生であったと、そう思いながらの安らかな死去だったと、JAZZファンの一人として、そう思いたいです。△▼ △▼ △▼Louis Armstrong - What a wonderful world(1967)ルイ・アームストロング - この素晴らしき世界Written by Bob Thiele/George David Weiss映画 『グッドモーニング, ベトナム』収録アルバム『ベスト・プライス~ルイ・アームストロング・ベスト』他Louis Armstrong (Wikimedia)『サッチモ』の愛称で知られるトランペット奏者であり歌手でもあるJAZZ界の大スターです。一度聴いたら忘れられない特徴のあるしゃがれた声が人間的な暖かさを感じさせる非常に高い演奏力と独創的なカリスマ性を併せ持った不世出の天才奏者でもあります。明朗な性格とエンタテインメントに長けた幅広い活躍をした事でも知られ、『ハロー・ドーリー』『5つの銅貨』『聖者が街にやってくる』等、国民的に受け入れられる音楽を作り続けた巨匠としても知られています。ニューオーリンズのアフリカ系アメリカ人が多く住む貧しい居住区で生まれ育ったルイは、その様な環境の中、タフな人格を身に付けるに至りますが犯罪行為で少年院に送られる複雑な過去を持った人物でもありました。その少年院の厚生の一環としてのブラスバンドとの出会いがコルネットを演奏するきっかけを作る事になります。1923年 サッチモ22歳の時 シカゴのキング・オリヴァーの楽団に加入した事がミュージシャンとしてのデビューとなります。1964年 サッチモ63歳の時に発表された『ハロー・ドーリー』は全米一位に輝いた楽曲でビートルズ・ブームの世の中にありながら、ビートルズの一位の座を引きずり下ろす快挙となり世界的なメガヒットとなった「この素晴らしき世界」は1967年 サッチモが66歳の時の作品でこれらサッチモの偉業は全米を驚愕させた事でも知られております。サッチモは根強い黒人差別がはびこる白人社会の中で評価される黒人演奏家として、黒人の社会的地位の向上に務めるべく息の長い音楽活動を精力的に続けますが、黒人社会では白人に迎合する「アンクル・トム」と蔑まれる様な裏腹な事態を招いてもいる様でした。加えて第二次大戦では慰問公演を行なった際、白人と同じホテルに宿泊出来ないなどの、白人社会からの差別を受けており、白人と黒人、共に深く根差した深刻な社会問題を打破する事は大スターとなっても叶うことはありませんでした。しかしサッチモが何よりも『偉大』であったのは、若い頃の過ちから学んだ、タフさに裏付けられたメンタルの強さによるそんな差別意識すら甘受する様なあの笑顔で、音楽には肌の色は無いと、伝え続けた事にこそにあるのだと思うのでした。△▼ △▼ △▼と言った所で全ての講義は終了です。お疲れ様でした。本日の成果として、ルイ・アームストロングの事は『サッチモ』と言ってみましょう。これでもう 『ジャズをカジッタ』 と 胸を張って言う事が出来ます。ではごきげんよう☆■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■【Blu-ray】大停電の夜に スペシャル・エディション価格:3344円(税込、送料無料) (2021/10/25時点)【CD】ワルツ・フォー・デビイ +4 [ ビル・エヴァンス ]価格:1650円(税込、送料無料) (2021/10/25時点)【DVD】ベニイ・グッドマン物語 [ スティーヴ・アレン ]価格:1100円(税込、送料無料) (2021/10/25時点)【Blu-ray】スウィングガールズ [ 上野樹里 ]価格:4181円(税込、送料無料) (2021/10/25時点)【CD】ベスト・オブ・ベニー・グッドマン価格:1980円(税込、送料無料) (2021/10/25時点)【DVD】別働隊価格:4627円(税込、送料別) (2021/10/25時点)【CD】ベスト・オブ・ナット・キング・コール L-O-V-E価格:2409円(税込、送料無料) (2021/10/25時点)【DVD】グッドモーニング、ベトナム価格:1572円(税込、送料無料) (2021/10/25時点)【CD】この素晴らしき世界/ハロー・ドーリー ルイ・アームストロング・ベスト [ ルイ・アームストロング ]価格:1046円(税込、送料無料) (2021/10/25時点)