仲正昌樹「現代哲学の最前線」” 所与の神話 "
分析哲学の創始者の一人ラッセルは経験の根拠に「感覚与件」という概念を導入した。これを疑う人はあまりいないだろう。しかし、Look,appear ,see,seem等の動詞を含む文をいくら分析してもその実態は明らかにならない。これは、ヴィトゲンシュタインの規則に関する考察に通じる気がする。セラーズによると、自分と他者が同じ「感覚与件」を経験しているとする考えを「所与の神話」と看做したそうだ。これは全く正しい。同じ物事に接しても人々の解釈はしばしば食い違う。そもそも、各個人が持つ感覚器官(センサー)の精度・性質・傾向等が違うのだろう。