[読書]の記事一覧 | nightfly

モンテーニュ「エセー」” 邪気のなさ ”

モンテーニュは自分に特に徳はないと述べる。だが、「邪気のなさ」は認める。そして、弱い情念を克服するのにそれほど苦労もしないらしい。更に、闘争と葛藤を心の内に養えなかった。私も全くそうだ。心の綺麗な人が好きで（ほとんどいないが）攻撃的な根性の歪んだ人間は大嫌いだ。でも、特に戦おうとも思わない。そんなのは人生の無駄だ。（軽い反撃くらいならするが）ともあれ、何百年も読み継がれる名著を書いたモンテーニュと私では社会的価値に途方もない差がある。しかし、意外な共通点を見つけた。

2022/02/25

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キケロー「老年について」" 友情 "

「友情は善き人々の間以外にありえない」至言だ。相手を利用するだけの関係を友情とは呼ばない。一定の敬意と相手にも与える心構えが必須だ。だが、そんな関係はおそらく稀だろう。

2022/02/08

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古今和歌集 " 貴族社会の不安 "

古今和歌集の後書きで、「常に滅びを意識した時の流れ」に触れた後「都市貴族や宮廷社会の日常から自ずと生まれる享楽性と、身分の浮沈に絶えず脅かされる貴族社会特有の存在の不安」を読み取っていた。これはそのまま現代社会にも当てはまる。だから、享楽に溺れず浮沈に怯えない者が真の強者と言えるだろう。

2022/02/07

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モンテーニュ「エセー」” あらゆる死は各人の生に一致する ”

” あらゆる死は各人の生に一致する ”その通りだろう。以前、淀川キリスト教病院で終末医療に携わっていたお医者さんも似たようなことを仰っていた。「人は生きて来たように亡くなる」というような表現だった。なので、最近、母親を亡くした男に呼びつけられ射殺されたお医者さんも生前そうだったように神のようなまま亡くなったのだ。そして、射殺した男は狂人としてこの世を去るのだろう。

2022/02/05

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モンテーニュ「エセー」” 徳の道 ”

モンテーニュは「悪事を行うことは、あまりにも容易な、また、あまりにも卑劣なことだ。危険のない所で善事を行うことは普通だが、危険を冒しても善事を行うことは立派な人に相応しい務めだ」と述べた後、「徳は嶮しい茨の道を求める」と結ぶ。全くその通りだ。例えば、地球温暖化に歯止めを掛けようと訴えたグレタさんがどれほど叩かれたことか。確かに、現実問題としてやり方には様々な困難があるだろう。しかし、訴えること自体非難されるべきことではない。ましてや、匿名による誹謗中傷など卑劣の極みだ。

2022/01/24

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キケロー「老年について」" 友人の死 "

キケローは友人の死に際し自分が悲痛な思いに苦しまないことについてこう述べる。「スキピオーには何の不幸も生じなかった。（略）何かが生じたとすれば、それは私に生じたのだ。しかるに、自分に生じた不都合で苦しむのは、友を愛する者のすることではなく、己を愛する者のすることだ」と。ここにはなにかしら深い真実が含まれているように感じる。友が死んで悲しいのは当然だ。しかし、あまりに嘆き悲しむのは感傷的にすぎるとは言えるだろう。

2022/01/19

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開高健「ベスト・エッセイ」" 時代の完結 "

開高健は元禄時代についてこう論じる。「光琳、近松、芭蕉と、それぞれの異才は自身を成就させると同時に知らず知らず同時代の幕をおろしてしまう」と。これは、５、６０年代のロックやジャズにも言える。ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソンという怪物たちがロック界から去りロックの荒々しい熱気は去った。その後、産業ロックが生まれた。それは、ジャズのチャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンにも言える。今は、超絶技巧だがなんの魅力もない優等生のウィントン・マルサリスが活躍する時代だ。

2022/01/14

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開高健「ベスト・エッセイ」" 西鶴 "

開高健は西鶴を「才覚」の人だと論じた。そもそも、大阪人は東京と違い権力の影で暮らすことができなかった為才覚に生きるしかなかった。それは反骨心も醸成した。そして、京都や東京と違い大阪人に気位は皆無だ。それどころか、猥雑ですらある。後、坂田三吉が初手で角頭の歩をつく暴挙に出て負けるような破滅的なところもある。この辺りは私自身思い当たる節がある。そつのない優等生が苦手で、どこか危うい異端に魅力を感じる。私も根っから大阪人なのだろうか。

2022/01/07

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開高健「ベスト・エッセイ」" ハイマートロス "

また知らない言葉が出てきた。「ハイマートロス」だ。なにやら、ドイツ語で「故郷喪失」や「放浪」の意味で使われるらしい。開高健は「家なき子」の意味で使っていた。開高健は戦争中父親を亡くした。学校に弁当を持ってゆけず水を飲んで空腹を凌いだ。大人になってから映画を見ていると間に挟まれるニュースで、ベトナムかどこかの子供が空腹を凌ぐ為、ベルトをぎゅっと締めている映像を見て感極まりトイレで嗚咽したことがあった。ともあれ、「戦後の一時期焼野原になった大阪市内では地平線に夕日が沈む光景が見えた。」そこには、「すさまじいまでの清浄な大自然があった。」だが、「やがて、あちらこちらのターミナルに闇市があり、焚火がたかれ、人びとはそこでコサックの野営地のように飲み、食べ、なぐりあい、刺しあった。」この辺りの饒舌かつリズミカルな文体はさすがだ。そして、「この焼け跡もいつのまにやらトントンぶきのマッチ箱みたいな家でおおわれて消えてしまう。（中略）地平線も夕陽も見えなくなった。そして、やがてふたたび、あるいは、三たび、四たびの大変貌が起こる。ハイウェーが空とビルのあいだをつらぬき、高層ビルがギッシリたち、郊外では団地アパート、海岸ではコンビナートとなるのである。スモッグがたちこめて海岸の松は枯れてしまい、海はドブとなってしまうのである。」その後、東京へ移り住んだ開高はある時思い立ち１０日以上みっちり掛け大阪市内、郊外、和歌山、奈良、京都、神戸をシラミつぶしに少年時代の思い出の場所を探した。だが、それらはものの見事に消えていた。

2022/01/05

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開高健「ベスト・エッセイ」" 遁辞 "

さすが開高健、早速知らない言葉が出て来た。「遁辞」である。なにやら逃げ口上のことをいうらしい。ともあれ、このエッセイを書いていた頃、既に東京に住んでいた。普段東京弁を使っていたが、困った時は大阪弁が顔を出した。編集者に締め切りを伸ばしてほしいと頼む時「ああ、もう、そんな、殺生なこといわんといとくなはれ！」とかますと、敵もさるもの「いや、もう、こっちこそホンマに頼りにしてまんのや。〆切日は二十五日。ギリギリだっせ。よろしおまんな。へ、さようなら」と、森繁の映画辺りで仕込んだ大阪弁で返しさっさと帰って行ったそうな。開高健も形無しである。

2022/01/04

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ドナルド・キーン「百代の過客」続 ” 男尊女卑 "

米欧回覧実記を書いた久米邦武は欧米人が女性に恭しく接しているのも見てこう述べる。「東洋ノ教ヘ、婦人ハ内ヲ治メ外ヲ務メズ。男女ノ弁別ハ、自ラ条理アリ。」と。そして、ドイツ人も欧米人の様を嘲笑ったようだ。ひょっとして、日本とドイツが同盟を結んだ要因にこれもあったのだろうか？イタリアはどうか知らないが。ともあれ、ファシズムの本質に保守的な権威主義があるのは間違いないだろう。それはイスラム圏にも通ずるようだ。そして、その風潮は現在の日本にも息づいている。オリパラ組織委員会森元会長の「女性がたくさん入っている会議は時間かかる」の発言にもその匂いがプンプンする。

2021/12/26

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キケロー「老年について」" 善き生 "

「短い人生の時も、善く生き、立派に生きるには十分に長いのだから」至言だ。ドストエフスキーの「人が幸福を味わい尽くすには一日あれば足りる」にも通じる。実際、２０歳だったガロアは決闘で倒れる前日群論の重要な論文を書き残した。６０年代に活躍したロックミュージシャンの何人かは２７歳でこの世を去った。グダグダな人生を長く生きるより充実した短い人生を送る方が遥かにマシだ。

2021/12/19

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モンテーニュ「エセー」” 時間の無駄 ”

モンテーニュはこう書く。「私は本を読みながら困難にぶつかっても、いつまでも考えてはいない。一突き、二突き当たってみて、あとはそのままほっておく。そこに立ちつくしてみても、ぼんやりと時間を失うだけである。私は早呑み込みのほうだからだ。一ぺん攻めてみてわからないことは、固執すればするほどわからなくなる」と。共感する。これは特に数学や哲学書の時に言える。また、次の日に読むと案外すんなりわかったりするものだ。たぶん、前の時は頭が飽和状態だったのだろう。

2021/12/15

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キケロー「老年について」" 精神力・理性・思慮 "

キケローは「精神力や理性や思慮は老人の中にあるのであって、その老人が存在していなければ、国家というものはまったく存在していなかったであろう」と言う。これにはある程度説得力を感じる。確かに血気盛んな若者だけだったら争いは絶えないだろう。苦い経験を重ねたからこそ生まれる分別もあるだろう。一方、時代遅れの考えに凝り固まった老人による、所謂、老害というものもある。その辺りの匙加減は時代によっても変わるのだろう。

2021/12/10

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キケロー「老年について」" 老人の威信 "

キケローは要職を全うし徳を積んだ老人が身に着けた威信をひとしきり賛美した後こう付け加える。「威信が得る、こうした報酬と比べられうる、どんな肉体の快楽があるというのだろう。この報酬を立派に善用した人は、いわば鍛錬の足らない役者のように最後の場面で躓いてしまわず、人生という舞台を最後まで演じきった名優のように私には思われる」と。なるほど。ローマの高官には遥か遠く及ばないごくごくささやかな人生を送る私もせめて最後まで躓きたくはないものだ。

2021/12/05

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タクシードライバーぐるぐる日記

１５年間お客を延べ４万人以上乗せた日々の後、遂にタクシードライバーを引退する日が来た。それは突然来た。運転中、急に視界が暗くなったのだ。なにやら、突発性黒内障というらしい。それはタクシードライバーにとって命取りだ。そういえば、私もなんということのない場所でコケ、飲食サーヴィスの仕事を辞める決意をしたことがある。ともあれ、嫌な客の話では、「返事は？」と言ってから、返事が小さかったと「大きな声で返事しろよ！」と遥か年配の運転手に怒鳴った六本木ヒルズ族も大概だった。しかし、「〇〇まで３０００円で」と言った客に「メーター通りでお願いします」と言ったにも関わらず、７０００円の地点で「オレは承諾した覚えはない」と言い張り、果ては「裁判するか？」とまで言った客にも驚いた。ともあれ、著者の文章には一貫して凛とした印象があった。小さな会社とはいえさすが社長だった人は違うと感じていた。だが、亡くなった母親に「貧乏しても誇りは持って」と言われた話を読み更に納得した。その母親が知人に「息子とドライブするのが楽しみ」と言っていたことを亡くなった後に知った話が哀切だった。著者は１日１６時間ハンドルを握り「休みにはハンドルを見るのも嫌だ」と漏らしていたのだ。母親はそれから２度とドライブをねだらなかった。

2021/11/16

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キケロー「老年について」" 共に生きること "

キケローは老人が最早さして快楽を必要としないことを述べた後、宴会を「共に生きること」と形容した。これはなかなか気の利いた言い回しだ。確かに、あの楽しさには「共に生きていることを言祝ぐ」側面がある。但し、それは価値観を共有し気の置けない善良な人々に限る。そういえば、長い間ネットでやり取りしているネット仲間にもそれは言える。

2021/11/10

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アイザック・ウォルトン「釣魚大全」" 瞑想と行動 "

なにやら、ウォルトンの頃、「人間の幸福は瞑想にあるのか？はたまた行動にあるのか？」という問いが古代から続く難問だったらしい。しかし、これは愚問ではないのか？そもそも、瞑想の幸福と行動のそれは質が異なる。両方を味わえば良いのだ。どちらか一方に決めようとすることが土台間違っている。まるで、好みの違う者同士がお互いの好みの優劣をつけようとするように無意味だ。

2021/11/09

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ドナルド・キーン「百代の過客」（続）" トルコの陋風 "

渋沢栄一はヨーロッパからの帰りトルコに寄る。すると、ヨーロッパでは「帝王より庶人に至る迄一夫人のみにて妾なし」であったのが、トルコのサルタンには四百八十人余の妾があった。そこでこう記す。「此の地欧州の最寄りに在りといえども、其の陋風を改めざるは、因襲の久しき開花に後れたりといふべし」と。なるほど。トルコは現在も年間何百人という妻が夫から殴り殺されているらしい。そして、妻への暴力を禁ずる法案も最近廃案になったそうだ。そもそも、中東は女性の車の運転やサッカー観戦を禁ずるなど女性の人権軽視が甚だしい。まるで、未だに中世のようだ。日本の女性蔑視も明らかだが中東よりはまだマシか。

2021/11/04

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キケロー「老年について」" 耄碌 "

「生意気さや性欲は、老年というより青年の特徴だが、すべての青年の、というわけではなく、不品行な青年のそれであるように、耄碌と呼ばれる習いの老年の愚かさも、すべての老人の特徴というのではなく、軽佻浮薄な老人の特徴なのである」さすがキケロー、言い得て妙である。私もどちらかというと軽い方だ。しかし、せめて浮薄にはならないように気をつけよう。

2021/11/03

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キケロー「老年について」" 若者の体力 "

「私は今でも若者の体力が欲しいとは思わない。それは若い頃に牡牛や象のような力が欲しいと思ったことがないのと同じである」これは正しく真理だ。その時の体力に応じた活動をするだけだ。それで満足出来ない者は生涯満足を知らないだろう。

2021/10/31

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「タクシードライバーぐるぐる日記」" 六本木ヒルズ族 "

２００８年頃、六本木ヒルズ族が大手をふっていたらしい。２０、３０代と思われる彼らは、ずっと年長のタクシードライバーに対しても手下のような態度で接した。中には、「銀座まで行って」と言われ、走り出すと「返事は？」と言われ、返事したつもりだったので、「さきほど『はい』と言いましたが」と言うと、「聞こえねぇよ。大きな声で言えよ」と怒鳴られた。いやはや。以前からそう思っていたが現在の日本もまだまだ階級社会なのだ。民主主義が健全に機能しないのも当然なのだ。

2021/10/27

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モンテーニュ「エセー」” 断腸の思い”

モンリュック元帥はマデール島の戦いで立派な武人だった息子を失った。その時、それまでずっと父親らしい威厳を保つ為、渋面を作り、彼に抱いていた愛情と彼の徳性についての正当な評価を口に出す幸運を失った。それは取り返しのつかない断腸の思いだった。私もまた子供に厳しく接した、初めて私に見せた絵もあれこれ批評し、二度と見せなくなった。しかし、長い間仲違いした後、見せてくれた絵は褒めた。今も反りは悪いがそれだけは救いだ。

2021/09/27

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開高健「オーパ、オーパ！！」” ゴールデンティップス ”

スリランカの茶畑では芽だけを摘み取り（普通は後２枚の葉がつく）、手で揉み、温風ではなく日光で乾かす「ゴールデンティップス」という紅茶があるらしい。とても少なく、回春効果もあるのでアラブの石油王とかに買い占められる。現地では手に入らず、日本に帰ってから開高健の老朋友坂根進氏に相談するとどこからか手に入れてくれた。ポットを熱湯でカンカンに熱くしておき、ひとつまみ茶葉を入れ、沸かした名水を入れ、６、７分待つ。すると、清楚だが物足りない味だった。しかし、後日飲んだダージリンと較べると、渋味や酸味がない。では、何の味があったのだろうか？それを開高健は書いていない。だが、それを「自身の美しさにまったく気づいていない童女のような淡々しさ」と表現した。さすがである。しかし、いつだったか、ロマネコンティの１９３５年物を飲んだのはサントリーの佐治敬三氏とだった。今回は開高健がコピーを書いていた寿屋（現サントリー）の同僚板根進氏だった。持つべきものはつくづく良い友達である。

2021/09/15

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開高健「オーパ、オーパ！！」” 知性のけだるいよろこび ”

ルイス・ボルヘスは「横道に逸れた無益な知識は知性のけだるいよろこびをもたらしてくれる」と書いたそうだ。なるほど。分かる気がする。所謂、道草の楽しみというやつだろうか。そうこなくっちゃ。思えば私の人生などほとんど道草のようなものだった。しかし、何が無駄で何が無駄でないか誰にも分からない。実際、どんな経験も無駄ではなかった。それはすべて人生の肥やしなのだ。

2021/09/08

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ドナルド・キーン「百代の過客」（続）” 木村摂津守喜毅 "

木村摂津守喜毅は村垣淡路守と違いアメリカ滞在を楽しんだようだ。村垣にとってアメリカの社交ダンスは退屈で上品さに欠けおぞましい騒音だった。しかし、木村は楽しんだ。同じ武士でも性格の違いだろう。威臨丸修復に要したサンフランシスコ滞在五十日間をこう総括する。「此地の滞船五十余日及びしかども、此国の人と毫も不快の事起こらず無事平穏なりしハ我国の威霊と諸士の謹直なるによるものにして予の大幸とする処也」と。そして、いよいよ出帆の時、友人になったアメリカ人の妻が白いハンカチを振りながら踊った様が描かれる。彼は余程アメリカ人に好印象を与えたのだろう。調べてみると、なるほど、凛々しい好男子だった。

2021/08/28

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開高健「オーパ、オーパ！！」” トワイライト・ゾーンでの釣り ”

１９６８年、開高健はメコンデルタの支流のひとつで釣りをした。バナナを食べながらのライギョ釣りだった。そこは川中島で政府側とヴェトコン側が毎夜激戦を繰り広げる熾烈な競合地だった。「トワイライト・ゾーン」とも呼ばれた。ともあれ、住民には大歓迎された。村長や村民がバナナを持って来てくれたり穴場を教えてくれた。開高健はその親切が身に沁み忘れられなかった。そういえば、アイザック・ウォルトンが「釣魚大全」を書いた当時の世情も不穏だったらしい。戦争する者、のんびり釣りをする者、どちらも極めて人間らしい営為だ。当然、私は釣りをする者でありたい。

2021/08/25

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マルクス・アウレーリウス「自省録」" 健全な目・健全な精神 "

マルクス・アウレーリウスは言う。「健全な目はなんでも見える物をみるべきである。（中略）さらにまた健全な精神はあらゆる出来事にたいして用意がなければならない」と。これは全く正しい。だが、これはよく言われる「清濁併せ飲む」とは似て非なるものだ。というか、決定的に異なる。なにも、わざわざ濁ったものを飲むことはない。世の中には濁った水もあると知っておくだけで十分だ。ともあれ、自分に都合の悪いことを見ない振りすることが最悪だ。

2021/07/16

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ドナルド・キーン「百代の過客」（続）” 歓迎晩餐会 "

村垣はサンフランシスコ市長から晩餐会へ招待された。それは楽器が賑やかに演奏され、シャンパンが砲声のごとき音を立て何本も抜かれ、いつ終わるともないスピーチが延々と続くものだった。出来の良いスピーチは拍手で迎えられ、イマイチのは食盤が叩かれた。好い加減うんざりした村垣が辞意を伝えると市長が盤を叩き会の終結が宣言された。船に帰り、同行の者たちと語り合い、日記にこう書いた。「凡（およそ）懇親を表したる礼と見れば、真実と見へけれど、又そしりて見れば、江戸の市店などに鳶人足などいへるものゝ酒もりせるは、かくもあるべし」と。なかなか笑わせる。当時のサンフランシスコはゴールドラッシュからさほど経っていない田舎だったようだ。まだ、日本の武士の方が洗練されていたのだ。いや。現在でもトランプのごとき下劣な人物が大統領になれるのだから、事情は大して変わっていないのかもしれない。

2021/07/06

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モンテーニュ「エセー」” 不幸に堪える人 ”

「逆境にあって死を軽んずるのはやさしい。だが、不幸に堪えて生きる人はもっと勇ましい」モンテーニュは酒好きの所とか好戦的な所とかは合わない。しかし、時々、共感することがある。上記もそうだ。逆境にあって死を軽んずるのがやさしいのかどうか分からない。しかし、不幸に堪える人は立派だと思う。才能と環境に恵まれた人が成功することはさほど不思議ではない。しかし、長い不幸に堪え抜いた人にも成功者に匹敵する価値があるのではないだろうか。

2021/07/04

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ドナルド・キーン「百代の過客」（続）” 村垣淡路守 "

村垣淡路守は安政六年（１８５９）、アメリカ合衆国との条約批准の為、ワシントンを訪れる使節団の副使に任ぜられる。どえらい船酔いに苦しめられた後、ホノルルに着く、王宮への招待を受けるがこう記す「国王とはいへど島の酋長も同じことなれば旅衣のまゝにて行こととす」完全にナメてる。王宮も「塀など破れてさびしき山寺の如く」と記す。カメハメハ四世に会っても格別の感銘を受けない。だが、女王エンマは相当気に入ったようだ。「年頃二十四五、容顔色は黒しといへど、品格おのづからあり。両肩あらはし、薄ものを纏ひ、乳のほとりをかくし、腰の方より末は美敷（うつくしき）錦の袴よふのものをまとひ、首には連たる玉の飾ありて、生けるあみだ仏かとうたがふばかり」まるでクレオパトラに会ったかのようだ。そして、「御亭主はたすき掛なりおくさんは大はだぬぎて珍客に逢ふ」とざれ歌を詠む。

2021/06/30

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モンテーニュ「エセー」” 千人に一人の強者 ”

「この世のもっともしっかりした精神でさえ、足を踏ん張って立ち、自分の弱さから地上に倒れないように注意するだけでも、力に余ることなのである。一生のうちに、一瞬でも公正で平静でいられるような人は、千人に一人もいない。また、その生まれつきの状態からいって、人間の精神が果たしてそうなれるのかも疑わしい」これは現代においても全く正しい。虚勢を張る者はわんさかいるが真の強者は滅多にいない。

2021/06/24

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ドナルド・キーン「百代の過客」読了

凄まじい読み応えだった。特に最後の川路聖謨の日記が圧巻だった。彼は幕末にロシア人と謂わば外交官とした対峙した。最初は警戒したが徐々に彼らも同じ人情を持つことを知り親近感を持つようになった。それは、魯戎（ろじゅう）と侮蔑的に書いていたのが魯人と書くようになったことにも表れていた。醜男の自分が日本男児の代表と思われてはいけないと集合写真を断った話も笑える。そんな彼も江戸城が官軍によって開かれたと知り自害して果てる。他の名も知らなかった女性たちの日記も頗る面白かった。今と変わらない人情や繊細な知性を感じた。ともあれ、ドナルド・キーンの突出した知性に驚いた。今まで、日本文学に詳しい知識人くらいの認識だった。いやいや。超一級の学者が持つ迫力を感じた。（例えば、白川静や牧野富太郎）あれなら、最後、日本人になるのも、むしろ当然だった。

2021/06/15

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モンテーニュ「エセー」” 変更出来ない考えは悪い考えだ ”

モンテーニュは法王ボニファチウス８世が狐のようにその職につき、獅子のように振る舞い、犬のように死んだことに触れた後、ネロがある男の死刑の判決文に署名する時、「ああ、字を書くこを知らなければよかった」と心を痛めながら、その後、残忍の権化と化したことにも触れ、人間存在がかくも不安定であることを指摘した。これは実に正しい。そして、喜劇作家プブリウスの言葉を引く。「変更出来ない考えは悪い考えだ」これまた、紛れもない真理だ。普遍的真理など滅多にあるものではない。私もまた、死ぬまで考えを変更し続けよう。

2021/05/20

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モンテーニュ「エセー」” 年齢について ”

モンテーニュは老衰で死ぬ人間は少ないのでそれを期待するなと言う。現代においても８％程度なので正しい。そして、多くの立派な業績は３０歳までに挙げられていると言う。これも、北斎などの偉大な芸術家を除けばほぼ正しいだろう。若い内に大した結果を残せなかった人間は、どんな死に方をするかなどという曖昧なものを気にせず、まぁのんびりやれやという所か。

2021/05/15

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西行全歌集「花の言葉」

「白川の春の梢の鶯は花の言葉を聞く心地する」鶯の鳴き声が桜の声を代弁しているとの見立てだろう。いつだったか、同じような気持ちになったことがあったように思う。人間もよく自分の気持ちを何かに投影する。それが自然の場合、すべてが繋がっているような感覚の襲われることがある。ともあれ、ジル・ドゥルーズの言う「生成変化」はこういう感覚だろうか。

2021/04/28

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開高健「オーパ、オーパ！！」” カリブー・ハンティング ”

カリブー・ハンティングにおいても開高健の饒舌文は快調だ。何日か射撃練習をしたとはいえ、堅いテーブルに肘をついてだった。本番は荒野のキツイ坂道や藪こぎの連続でヘロヘロなり立ったままの射撃で当たるハズもない。獲物が見えても到底当たる気がしないので辞退するとガイドに怒りのこもった軽蔑の視線を浴びせられた。そして、２日目の描写がこう来る。「晴朗で冷澄な空をゆっくり飛びつつ昨日とおなじことをやった。獣をさがし、山頂におり、一歩一歩山腹を下り、谷川をわたり、汗みどろになってあえぎあえぎ山腹を上り、やっとのことで狙いをつけ、そして逃げられるということの繰り返しである。のべつ自分のこわれかけのフイゴのような息と心臓の音を聞きつつ、忍の一字の追跡である。そのうちしばしば追っているのか追われているのかわからなくなる瞬間に襲われて、たじたじとなる。何を追っているのか、また、何に追われているのか、ふとわからなくなる。自分がしがみついてたよりきっている切実な何かが音をたてて剥落していきそうになり、慄然とする。恐怖すらおぼえさせられる。いそいで前方を眺め、従容とした姿態でモスを食べている獣の壮麗な角を注視して、それだ、これだ、これなんだと、いい聞かせる。そしてむりやり自身に鎧を着せて剥落を蔽う。酸っぱくなった肉や軋む筋をせきたてせきたてしてはこんでいく」なにより、「そのうちしばしば追っているのか追われているのかわからなくなる瞬間に襲われて」の描写はさすがだ。射撃はヘロヘロだが文章は超一流である。

2021/04/24

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モンテーニュ「エセー」” 二種類の紳士 ”

「素朴な百姓たちは紳士である。哲学者も、あるいは当節、期待しうる限りの、有用な学問の広い教養を豊かに身に着けた逞しく明晰な資質の人々も紳士である。この中間にある人々、すなわち、前者の無学文盲を軽蔑し、さりとて後者に追いつくことも出来なかった人々は、危険で、無能で、厄介である。この連中が世の中をかき回すのだ」激しく共感する。私も民法テレビやゴシップ週刊誌で活躍する多くの連中がとてつもなく嫌いだ。大した教養もない私が人々の無学を笑うなどありえない。ひたすら、本物の知識人を称賛するだけだ。

2021/04/07

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メルヴィン・ブラッグ「英語の冒険」” 新しい言葉・新しい考え "

ヘンリー２世の妃だったエレオノールはイギリスに騎士道精神をもたらした。それは、courtesy,honour,damsel,tournament 等の言葉と共に輸入された。新しい考えは新しい言葉と共にあるのだ。なるほど。戦後日本には夥しい英語が流入した。今では、普通の日本語で十分間に合うのに、わざわざカタカナにされる。ともあれ、同時に入った考え方はなんだろう？民主主義か？いや。まだ全然根付いてない。これから根付くのか？しかし、本家アメリカの民主主義もはなはだ怪しい。ともあれ、「騎士道精神」同様、この世から消え去らないことを願う。

2021/04/03

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モンテーニュ「エセー」” 雄弁 ”

「雄弁がローマで最も栄えたのは、ローマの政情が最も酷く乱れ、内乱の嵐に揺すぶられている時であった」「民衆は愚昧と軽信の虜になって、雄弁の調子のよい甘い声音に自由自在に引き廻されやすく、物事の真実を、理性の力で計ろうとも認識しようともしなくなる」これはヒトラーが席巻した頃のドイツやトランプがアメリカ大統領だったつい最近と同じだ。げに人間の学習能力は乏しい。

2021/03/20

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モンテーニュ「エセー」” 嘲笑と憐憫 ”

「デモクリトスは人間性を空虚で笑うべきものと考え、人前に出る時、皮肉な微笑を浮かべ、ヘラクレイトスは憐憫と同情を感じ、悲しげな顔をした」なるほど。どちらも分かる気がする。だが、私は嘲笑も憐憫もしない。ただ、現実を直視する。そして、ただひたすら、尊敬に値する人を探す。

2021/03/16

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「歎異抄」” 如来 "

「本願とは、生死の不安と愛憎の悩みとにある衆生（生あるものみな）を、その不安と苦悩とのない処にあらしめたいとのことである」これは現代においては精神科医や哲学者の役目でもあるだろうか。本願は大悲の願とも呼ばれる。その悲願を人間にかけるものを「如来」と呼ばれ、「弥陀」とも呼ばれる。そして、人智を超越した真理は「真如」と呼ばれる。これは、カントの「物自体」を連想させる。命・理・知識に限界がある人間には決して知られない外界だ。そこから来る真理を「如来」と呼ぶのは誠に相応しい。これには、キリスト教における「福音」の匂いもする。

2021/03/12

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開高健「オーパ、オーパ！！」” 哲学的箴言 ”

さすが開高健、哲学的箴言二連発だった。「存在は説明を拒む」と「HOWは説明できてもWHYはわからない」だ。至言だろう。どこか、ヴィトゲンシュタインが言う「論理の根源を掘ってゆくと、そこで鋤が撥ね返される岩盤に突き当たる」に似ている。「世界の意義は世界の外にあらねばならない」も連想する。そこに、多くの「WHY」を問うことが愚問になる理由があるのだろう。別に「不可知論」を強調する訳ではない。単に現在わかっていないだけなのだ。もし、わかっているように語れば、それは独善的たわ言にならざるを得ない。

2021/03/05

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開高健「オーパ、オーパ！！」” ナース・ログ ”

開高健の釣りドキュメンタリー映画「河は眠らない」と同様のフレーズが出てきた。アラスカでは風倒木のことをナース・ログと呼ぶらしい。それは、森に湿りと栄養を与え、空洞で虫や小動物を飼い、解体しつつ苔と土に栄養をしみこませ、森そのものを看護する。では、人の心にとってのナース・ログとはなんであるか？私にとっては、家族・友人・芸術であり、時には哲学であるだろう。

2021/02/16

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ドナルド・キーン「百代の過客」” 帰家日記 "

「帰家日記」を書いた通女は紫式部、清少納言に比すべき才能の持ち主だったらしい。長く使えた主人が亡くなった後、江戸を去り讃岐丸亀へ帰ろうとしてもしつこく引き留められた。そして、漸く帰る道すがら炎天下辛い田仕事に従事する人々を見てこう記す。「草ぎる者の笠のみ見ゆ。田歌いとをかしく歌ふ。げになりはひのたやすからぬ営みも、見るごとには一しほに思ひ知られて、素餐（いたずらに禄を食んで何の功もないこと）のとがおそろし」と。見上げた心映えだ。現代でも額に汗かかず才覚だけで大金を手にする者がいる。それどころか、全く役立たない仕事（ブルシットジョブ）で高給を得る者をいるらしい。

2021/02/13

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樋口一葉「大つごもり」読了

途中、世話になった伯父夫婦が困窮していて奉公先の金に手をつけるやばい展開になり心配した。しかし、うまく回収された。最初から辛辣なユーモアを感じたが、ちょっと高尚な落語のようだった。しょっちゅう挟まれる気の利いた表現はさすがだった。チェーホフの上品な情感には及ばないかもしれないがゴーゴリ辺りとは十分勝負になる感じだった。他の作品も楽しみだ。

2021/01/06

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ドナルド・キーン「百代の過客」” 月見の旅 "

芭蕉は貞享五年（１６８８）八月半ば、更科への旅を思い立つ。古今集以来月で名高い地で仲秋の名月を見ようという魂胆である。それを、ドナルド・キーンはこう述懐する。「月を見るだけの目的で、ある特定の土地へ出かけて行ったヨーロッパの詩人を、ただの一人も思い出すことが出来ない」と。笑った。日本人である私にはよく分かる。それこそ、風流というものだろう。あるいは、風狂と言っていいかもしれない。というか、そこにこそ人生の味わいがあるように感じる。

2021/01/04

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ドナルド・キーン「百代の過客」” 笈の小文 "

なにやら、” 笈の小文 " の俳句は芭蕉の中ではややクオリティが落ちるらしい。しかし、これなどはなかなかのものだった。有名らしいが全く知らなかった。「蛸壺やはかなき夢を夏の月」明石で平家物語を想起したらしい。そういえば、「奥の細道」に「夏草や兵どもが夢の跡」というのがあった。ひょっとして、松尾家が平家の末流だった為武士への思い入れが強かったのだろうか。いずれにせよ、滅んだ者への共感は常にあったようだ。

2021/01/02

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樋口一葉「大つごもり」

何の因果か大晦日に樋口一葉の「大つごもり」を読むことになった。えらい古い文体で相当読み辛い。あの時代にしてはというか、おそらく、現代でも相当な知識人だろう。さすがお札に載っただけのことはある。しかし、難しいながらもそこはとない辛辣なユーモアも伝わって来る。そして、聞いたことがない表現がいくつか出て来た。なにやら、主人に隠れて商いをし小遣い稼ぎをすることを「ほまち」と言ったらしい。後、「世をうぐひすの貧乏町ぞかし」とあったが、どうやら「宮中でうぐひすは鳴かない」というエピソードから来る貧乏の枕詞らしい。但し、ネットで調べても確定的な記述は見付からなかった。

2020/12/31

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開高健「オーパ、オーパ！！」” 砂漠の清潔 ”

なにやら、開高健は砂漠が好きらしい。それをこう書く。「それに私は砂漠が好きなのだ。あの徹底的な淨白、壮大と静寂と虚無のさなかにある、あの清潔が好きなのである」と。そして、かつて砂漠にある湖でブラックバスを狙い散々な結果に終わったことを踏まえこう語る。「酷烈な日光に焼かれて脳の水まで煮えたつか、蒸発するか、ひどい打撃に出会うこととなるが、何度叩かれてもしばらくたつと帰っていきたくなる」と述べ「無化は爽快なのだ」と締める。やがて記憶は少年時代焼け跡をおびえながらさ迷った過去に及び、「ヒトは幼年時代からいかに変わらないか、または、変われないか、日頃は”現在”に溺れていてわからないけれど、ときどき気がついて思わず立ち上がりたくなるくらい愕かされる」と表現する。下世話に言ってしまえば「三つ子の魂百まで」のようなことだ。しかし、達意の小説家にかかるとこんな味のある文になる。特に、「ときどき気がついて思わず立ち上がりたくなるくらい愕かされる」のくだりに強く共感する。

2020/12/25

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