ピーター・J・マクミラン「英語で読む百人一首」3
「ほととぎす鳴きつる方をながむればただ有明の月ぞのこれる」 藤原実定I look out wherethe little cockoo called,but all that is left to seeis the pale moonin the sky of dawn.日本文も単に情景を描写しているだけだ。しかし、何とも言えず味わい深い。ほととぎすが鳴いている方を見やるのはごく普通の動作だ。だが、見えたのは夜明けの淡い月のみ。そこに、無常感が漂うのだろう。一方、英文も十分意を尽くしている。「ただ」も「but all that is」で表せている。問題は、その長さにあるのだろうか。簡潔な方が含みが出るというのはあるだろう。「有明の月」と「the pale moon」とでは、長さはそんなに変わらない。ここでは「有明」の婉曲表現が利いているのかもしれない。