ハイデッガー「ニーチェ Ⅰ」26
ニーチェは言う。「回帰の教えは、初めのうちは、情熱もなく、たいした内的要求もない賤しい連中の歓心を買うであろう。もっとも卑しい生の衝動が、まっさきに同意を与えるであろう。偉大な真理はいよいよ最後にならなければ、最高の人間を味方につけない。これが誠実な人の苦悩である」と。なんという笑うべき傲慢さ。これで私の、「回帰思想は発狂寸前のニーチェが思いついた途方もないたわ言ではないのか」という疑念が深まった。それは、イエスの「右頬を打たれたら左頬も差し出せ」のような、サイコパスの餌食になるしかない無力な思想や、ブッダの一見壮大だが結局何も言ってないに等しい「空の思想」をも連想する。哲学や思想は自惚れ屋の誇大妄想、あるいは、弱者の諦念でしかないのか。それなら、芸術の慰め、もしくは、鼓舞、そして、実証科学の確かさの方が遥かに良い。