世田谷区リサイクル条例違憲判決
憲法学としては、大変勉強になる判決が出ました。世田谷区の清掃・リサイクル条例が違憲とされる判決が出たのです。ただ、簡裁なので、上訴審でひっくり返る可能性がありますが、憲法学上は面白い事件です。↓http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070326i115.htmhttp://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007032601000309.htmlちなみに、問題となった条文はこれだと思います。世田谷区清掃・リサイクル条例(収集又は運搬の禁止等)第31条の2 第35条第1項に規定する一般廃棄物処理計画で定める所定の場所に置かれた廃棄物のうち、古紙、ガラスびん、缶等再利用の対象となる物として区長が指定するものについては、区長及び区長が指定する者以外の者は、これらを収集し、又は運搬してはならない。2 区長は、区長が指定する者以外の者が前項の規定に違反して、収集し、又は運搬したときは、その者に対し、これらの行為を行わないよう命ずることができる。第79条 次の各号の一に該当する者は、200,000円以下の罰金に処する。(1) 第31条の2第2項の規定による命令に違反した者※以下略結局、このリサイクル条例と言うのは、「一般廃棄物処理計画で定める所定の場所(=ゴミ集積所)においてあるゴミ(=廃棄物)を持って行ってはならない。もし、持って行ったら区長は中止命令を出し、中止命令に従わなかったら罰するよ」と言っています。この条例が、内容があいまい不明確又は、条例制定権違反で違憲とされたわけです。では、あいまい不明確な条例はなぜ違憲なのでしょうか。それは、刑罰法規があいまいだと、人々は安心して暮らせないからです。例えば、極端な話「悪いことをしてはならない。悪いことをした者は、1年以下の懲役に処する」という刑罰法規があったらどうでしょうか。何が処罰されるかさっぱり分かりません。自分ではよかれと思ってしたことが、結果的に相手に損害を与えてしまうということは良くあることであり、こんなことまで処罰されたら、人々は何も出来なくなってしまいます。このように、あいまいな刑罰法規では人々が行動を制限されてしまうので、あいまいな刑罰放棄は、憲法31条違反とされています。憲法第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。 本件では、どこがゴミ集積場なのか、あいまい不明確なので違憲だとされたのでしょう。ゴミの少ない地域にお住まいの方は「どこが集積場だか分からないなんてことがあるのか?」と疑問にお思いでしょう。ですが、ゴミが多いと集積場を大幅にはみ出してゴミが散乱していることがあり、どこがゴミ集積場なのか良く分からないということがありえるのです。さらに、この事件で面白いのは、中止命令があるのにあいまい不明確だと認定された点です。普通、中止命令があると、あいまい不明確だとは言えなくなる事が多いですし、中止命令というのは、あいまい不明確さを消す立法のテクニックとして使われることが多いと聞きます。中止命令自体は明確であることが多いからです。例えば、先の「悪いことをしてはならない」とい条文があったとしても、その条文が「区長は中止命令をすることが出来る。中止命令に違反した者は1年以下の懲役に処する」とあれば、中止命令がこない限りは処罰されないということなので、人々は自由に行動できますし、中止命令が来た段階で「ああ、この行為はまずかったんだ」とわかりますので、何をしてはいけないかは明確です。しかし、本件では恐らく、中止命令自体もあいまいだったのでしょう。多分「ゴミ集積所のゴミを持って行くのを中止せよ」という文言で、結局どこからどこまでがゴミ集積所かははっきりさせなかったのだと思います。それで、中止命令がありながら、違憲とされてしまったのでしょう。次に、条例制定権違反というのは何でしょうか。条例というのは、法律の範囲内でしか定められません。憲法第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。 ですが、法律には、「ゴミを持って行ってはならない」という条文はありません。そして、法律が「ゴミを持って行ってはならない」と定めないのは、ゴミについては地方が自由に定めてよいという趣旨ではなく、ゴミは誰の物でもないことを前提にしているからです。(個人的には疑問がありますが、少なくとも今回の事件の判事さんは、そう考えているようです)なので、ゴミを持って行ってはならないと定める事自体が違憲だとされたのでしょう。このように、本件は「あいまい不明確ゆえに無効の法理」「条例制定権の範囲」という憲法の大論点の2つが問題になるという面白い事件でした。憲法を学ばれた方は、是非一度ニュース記事だけでもお読みになってはいかがでしょうか。ところで、本件は世田谷区の条例が問題となっているので、世田谷区民以外の方には無関係の事件です。ですから、捕まって憲法訴訟をしたいという方で無い限り、ゴミ集積所から勝手にゴミを持ち出さないようにしてください。また、世田谷区民であっても、この事件は確定していませんので、勝手にゴミ集積所からゴミを持ち出すのは止めた方が良いでしょう。仮に、確定しても、恐らくすぐに条例が改正されますので、改正後の条例を注意深くお読みになってから行動してください。これからも応援してくださる方は、下記のリンクをクリックしてください。人気blogランキング