要件事実編 第6章 動産引渡請求
第6章 動産引渡請求訴訟の要件事実あなたは,草薙氏からAパソコンを買ったところ,どういうわけか清水君がAパソコンを持っていました。さて,あなたはどうやってAパソコンを取り戻せるでしょうか。まず,請求の趣旨は以下の通りです。請求の趣旨「被告は,原告に対し,Aパソコンを引き渡せ」(訴訟物は,「所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権」です。)訴訟物を見ていただければ分かるとおり,所有権に基づく返還請求権としての土地引渡請求権と構造は同じですから,主張すべきことは,原告所有・被告占有です。つまり,原告(=あなた)はAパソコンを所有している。被告(=清水君)はAパソコンを占有している。ということを主張できればいいのですが,本件では,清水君はあくまでAパソコンは自分のものであり,草薙氏のことも知らないと主張していたとしましょう。ここで,草薙氏の所有権を清水君が認めてくれれば,草薙氏の所有権について自白が成立し,あなたは所有権について立証する必要がありません。しかし,今回はそうはいかないようです。そうすると,あなたは,草薙氏がAパソコンの所有権をもっていたことを立証しなければならないのですが,どうやら,草薙氏は所有権者でなかったらしいということが分かったとします。さて,あなたはどうしますか?素直にAパソコンを返すというのもあるかも知れませんが,既にAパソコンをずっと使用していて返したくない場合もありますし,そもそもあなたは何も悪くありません。何とか,返さなくていい方法ないでしょうか。動産については,即時取得と言って,無権利者から買った場合でも,保護される場合があります。そこで,即時取得の条文を見ましょう。(即時取得) 第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。この条文から見ると1取引行為2 1に基づく引渡(「占有」)3平穏・公然・善意4無過失が要件事実の候補になりそうです。しかし,3は186条によって推定されます。 (占有の態様等に関する推定) 第百八十六条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。 (以下省略)さらに,4は188条で推定されます。(占有物について行使する権利の適法の推定) 第百八十八条 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。 従って,原告所有の立証のためには,1と2だけを主張立証すれば足ります。被告占有は,そのままです。ということで,請求の原因として書くべきことは「1 草薙は,原告に対し,○年○月○日,Aパソコンを代金20万円で売った。 2 草薙は,同日,1に基づき,Aパソコンを引き渡した。 3 被告は,Aパソコンを占有している。」ちなみに,清水君が4の推定を覆すためには,あなたが悪意又は過失であることを立証する必要があります。悪意とは,「知っていて」ということであり,過失とは「うっかりと」です。もう少し過失を詳しく説明すると,調査義務の存在と調査確認義務の懈怠(さぼること)です。要件事実編は以上です。お疲れ様でした。応援していただける方は、下記のバナーをクリックしてください。【参考本】ゼミナール要件事実(2)