資料:「ファーバー判例」とアメリカ合衆国の「児童ポルノ規制」
<資料:アメリカ合衆国における性表現とミラー・テストについて>6月3日付け日記の続きです。◆EMBASSY OD THE UNITED STATES JAPAN アメリカ早分かりhttp://aboutusa.japan.usembassy.gov/というHPに掲載されている<CRS Report for Congress「猥褻」、「児童ポルノ」、および「下品な表現」をめぐる論議: 最近の展開と懸案事項> 2008年5月20日更新 米国議会調査局 ヘンリー・コーエン↓http://aboutusa.japan.usembassy.gov/pdfs/wwwf-crsreport-childpornography.pdf(PDFファイルの直リンクはサーバーに負担をかけることになるそうなのでご紹介のみです) 前の記事では、上記PDFファイルの論文より、アメリカでは「通常のポルノグラフィー」までその「表現の自由」を保障している、「憲法修正第1条」があり、けれどもその保護から除外されている2つの例外として「猥褻(obscenity)」と「児童ポルノ(child pornography)」があること、そして、そのうちと「猥褻(obscenity)」とその判定に用いられるミラー・テストについての部分をご紹介しましたが、今回は同じPDFファイルの論文から、「児童ポルノ(child pornography)」についての記述をご紹介し、コメントしていきたいと思っています。まず、憲法修正第1条で保護されない「児童ポルノ」の定義について、青字で引用します。文中の…による省略は引用元原文のママ、太字強調はよたよたあひるによるものです。脚注のナンバーは引用元原文のママですが、表記はわかりやすくするために(註☆)としました。-------------- 児童ポルノとは、「一定の年齢に満たない児童による性的行為を視覚的に(visually)描写した」情報・素材である。児童ポルノは、猥褻でない場合でも修正第1条の保護を受けない(すなわち、児童ポルノについては、ミラー・テストの要件をみたさなくても、禁止できる)。(註9) 児童ポルノが保護の対象外である理由は、それが「本質的に児童の性的虐待に関連しているからである。…児童ポルノ写真や映画の製作者のみを追求するだけでは、児童の性的搾取をやめさせることは不可能ではないにしても困難であると州議会が考えた場合でも、それが条理に反していたとする本格的な主張はみられない」(註10) 連邦法は、児童ポルノの州間取引(コンピュータによるものを含む)を禁じている。(18.U.S.C. § § 2252,2252A) また「児童ポルノ」については、未成年者を関与させる「性的にあからさまな行為」の「視覚的な描写」であると定義し、さらに「性的にあからさまな行為」とは、さまざまな性的行為だけでなく、「人の生殖器あるいは恥部の猥褻な展示」を含むと定義している(18U.S.C § 2256)。(註 9)これは、児童ポルノが好色的な興味に訴えていない場合、明らかに不快でない場合、または文学的、芸術的、政治的もしくは科学的価値を欠いていない場合でも、禁止することができることを意味する。Ferber,supra note 8,458 U.S.,at764参照。(註10)Ferber,supra note 8,458 U.S.,at 759-760-------------- 引用した部分のあとに、「児童ポルノをめぐる論議:最近の展開」という節があり、1996年に「児童ポルノ禁止法(CCPA)」を制定、児童ポルノの定義を広げ、成人の俳優・女優が未成年者を演じた表現物やモデルを使わずに作成されたCG、描画、絵も禁止の対象としたことと、さらにその後、2002年のアシュクロフト判決によりそのCCPAが「制作手段(児童の性的搾取、虐待)」ではなく「内容」を対象としていることは問題であるという指摘をしており、その判例を受けて、現在の「PROTECT2003」(←今回のマンガ・コレクターのアメリカ人男性が有罪確定した法律)ができた経緯までふれているので、この先が面白いんですが、長くなるので、まずはアメリカの「児童ポルノ規制」の基本であるこの文章までについて、検討します。 この文章中で「」内に引用されているのは、脚註の(註9)と(註10)によれば、1982年の連邦最高裁のファーバー判決です。 で、ファーバー判決というものがどのような事件のどのような判決であるのかも調べてみました…やっぱり英語の壁があるので、日本語で読めるものを探したので、概要しかわからないのですが、◆近畿大学大学院のサイト 「第18法律研究所」に掲載されている↓<1999年度・修士論文『インターネットにおけるわいせつ規制と表現の自由』 水野恒夫>http://dai18ken.at.infoseek.co.jp/kenpou/99-01/index.htmlという論文を見つけました。この論文の中から、『第一章 表現の自由とわいせつ規制の伝統的な枠組み』の「第二節 わいせつ規制の根拠 2 アメリカの判例 (10)New York v.Ferber,458 U.S.747(1982)」を以下に緑の文字で引用します。太字強調はよたよたあひるによるものです。また、この事例の紹介の後には、日本人研究者によるファーバー判決についての評価が引用、紹介されています。 興味のある方はぜひ上のリンクでご紹介しているURLから論文の全文をごらんください。10年前の論文ですが、なかなか面白いです。インターネットと児童ポルノ規制をめぐる論点、適用上の問題となっている事柄は10年経過した現在とほとんど変わっていないように見えます。-----------(10)New York v. Ferber, 458 U. S. 747 (1982) 最後に、児童ポルノに関する判例として、ファーバー判決を挙げることができる。ポルノ専門の書店経営者ファーバーが、客を装った警察官に自慰する児童を描写したフィルムや本を売り渡し、ニューヨーク州刑法263.10条(註48)の児童によるわいせつな性●為を助長する罪及び同法263.15条(註49)の児童による性●為を助長する罪で起訴された。陪審裁判では、前者につき無罪、後者につき有罪が言い渡されたが、上訴裁判所(Court of Appeals) は、263.15条が選別が恣意的である(underinclusive)であること、及び、医学書、教育書、文芸書など社会的価値のある作品をも規制対象とする点で過度に広汎である(overbroad)ことを理由に、同条を違憲とし、原判決を破棄した(註50)。 これに対し、連邦最高裁は、ニューヨーク州刑法の当該規定は、児童ポルノの意義を十分明確に規定しており、それが第一修正の保護の範囲外の言論である以上、規制対象の選別が恣意的かどうかの問題を生じない(註51)として、破棄差戻しした(ファーバー判決)。 ………………(註48) ニューヨーク州刑法263.10条「それについての性質及び内容を知りながら、16歳未満の児童による性●為を含むわいせつなパフォーマンスをプロデュースし、指示しあるいは促進した場合、人は児童によるわいせつな性的パフォーマンスを促進したかどで、クラスDの重罪となる。」 (註49) 同263.15条「それについての性質及び内容を知りながら、16歳未満の児童による性●為を含むパフォーマンスをプロデュースし、指示しあるいは促進した場合、人は児童による性的パフォーマンスを促進したかどで、クラスDの重罪となる。」 (註50) 52 N.Y. 2d 674, 422 N.E. 2d 523 (1981) (註51) New York v. Ferber, 458 U.S. 747, 765 (1982) --------- 引用文中の「性●為」の●には「行」という文字が入ります。 楽天の禁止ワード基準はあいかわらずよくわかりません(苦笑)・・・ ということで、ファーバー訴訟というのは、ポルノショップの経営者がおとり捜査の警察官に児童の性的行為を描写した表現物を販売したことにより、ニューヨーク州刑法の「児童によるわいせつな性●為を助長する罪」と「児童による性●為を助長する罪」でで起訴され、ニューヨーク州の陪審裁判では一部有罪、上訴裁判所ではそのニューヨーク州刑法の条文が「過度に広汎」なため違憲となり、最高裁判所で審議された結果、有罪が確定したという事例ですね。 子どもの性的虐待、性的搾取の問題が深刻化したために、その防止をするために、「児童ポルノ」の規制は通常のポルノよりもより厳しくなっているというわけです。 青字で引用したヘンリー・コーエン氏の論文中に引用されている文面そのものは、水野氏の論文には引用されていないのですが、太字強調した部分がファーバー判決の別の部分であることが(註51)でわかります。ファーバー判決で、問題とされているのは、あくまでも、実在の子どもの性虐待、性的搾取にあたるというわけで、(註48)(註49)に書かれている、ニューヨーク州刑法の規定は、その規制されるべき「児童ポルノ」の定義をきちんと踏まえているから、ファーバー判決は「実在の児童を使った児童ポルノに関して」有罪である、ということになるんですね。 この部分だけを取り出すと、今回のコミック・コレクターの男性が有罪になるというのは??となるのですが、その理由はまた別にありますので、この「資料」シリーズはもうちょっと続きます。 しかし、アメリカの法律(連邦法、州法の両方とも)と司法の関係はなかなか面白いです。 荒い議論ではダメなんですよね。にほんブログ村にほんブログ村