鈴木真奈美著 『日本はなぜ原発を輸出するのか』
原発本続けます。鈴木真奈美著 『日本はなぜ原発を輸出するのか』平凡社新書 745発行 2014年8月14日著者の鈴木さんはフリーのジャーナリストで、これまでにも原発関連の本をいくつか出されているということです。この本は、普通の新書なら2冊分くらいの内容がぎっしりと詰まった労作で、読むのにちょっと骨が折れましたが、アイゼンハワー大統領の「アトムズ・フォア・ピース」宣言以来の、世界の原発輸出入の狙いと、実際の量的推移などの歴史的展望をしっかりふまえ、アメリカをはじめとする核保有国の目論見、日本政府の目論見などをわかりやすく示し、今の日本の原発輸出の狙うところとその問題点を、明確に示した良書です。非常に詳細・綿密に書かれています。僕なりに非常に大雑把にまとめてみると、以下の感じでしょうか。----------------------------------かつて日本は、米ソの冷戦構造の中で、アメリカとの思惑が一致し、アメリカから原発を輸入して、沢山の原発を作ってきた。その裏には、日本政府の核保有願望もあった。世界でも原発が増えていった。しかしスリーマイル島、チェルノブイリと大事故が起こり、原発先進諸国では新規原発の建設は著しく減少した。その後アメリカでは「ニュークリア・ルネッサンス」の掛け声で原発を復興させようとしたが、もはや原発の危険性、高コストで経済的に割があわないことが露呈し、それはまったく滞っている。そこに福島事故が起こった。もうアメリカでも日本でも新規の原発需要は見込みが乏しい。なんとか日米共同で海外輸出に需要を切り拓かないと、原発技術が途絶えてしまう。一方で、世界の原発は老朽化を迎えて2030年ごろまでに多くが廃炉を迎える。それまでに原発を輸出して原発技術を保っておけば、2030年ごろからの原発リプレースに対応できるだろう、と原発を維持したい人々は考えている。すなわち原発輸出は、世界的・長期的には今後先細りになっていく原子力発電を、ともかく延命させるということが目的化している。日本政府は、福島原発事故があっても、まったく反省ないどころかますます強く、原発輸出を推し進めている。そのためにいろいろな形で税金が投入されることになる。しかし原発建設には長期的な時間がかかり、相手国の政権交代による方針変更や市民運動ほか、いろいろな大きなリスクがある。(これまでに日本の原発輸出の試みが中途で失敗した事例が、本の中でいくつか紹介されています。)----------------------------------細かなところは違っているかもしれませんが、大体上のようなことが詳しく書かれています。著者は最後に指摘しています。「核エネルギー利用を維持したい勢力が狙っているような“第二の原発建設ブーム”が現実に興るかどうかは、依然として未知数だ。日本政府はそうしたブームが興る(より正確には、興すことができる)ことを前提に、原子力輸出に公的資金を注ぎ入れている。本文でもたびたび言及しているように、それは現世代と将来世代に莫大な借金をしながら、原子力産業の海外進出に投資しているに他ならない。」国内の放射性廃棄物だけでも将来世代に対して大変な負担を押し付けているのに、それ以上の負担が上乗せされるということですね。かつてアメリカから原発を輸入し、原発列島になった日本。福島事故で大規模放射能汚染を引き起こし、収束できない日本。その日本が、今度は原発を輸出して、発展途上国を原発ラッシュにする。原子力産業を維持するという目的のために。そんなことしていいのでしょうか。