オペラ「火の鳥」ヤマト編
暑さといそがしさでふーふーばたばたしていた8月も終わり、賑やかだったセミの鳴き声もめっきり減り、夜ともなれば虫の声が盛んです。木々の緑にもわずかな黄色っぽさを感じるようになりました。コンサート通いもほぼ一月ご無沙汰しているうちに、ブログは1ヶ月未更新!秋のシーズンのはじまりとともに、またぼちぼちと書いていこうと思います。僕の秋のシーズンの聴き初めは、東京室内歌劇場によるオペラ「火の鳥」ヤマト編でした。あの手塚治虫の火の鳥です。これがオペラになっているとは、まったく知りませんでした。青島広志氏の作曲で、25年前に同じ東京室内歌劇場で初演されているそうです。これが作曲者の指揮で再演されるわけです。東京室内歌劇場 第127回定期公演オペラ「火の鳥」ヤマト編原作:手塚治虫台本:加藤直作曲&指揮:青島広志演出:恵川智美9月11日、東京芸術劇場中ホール。(ダブルキャスト公演の第1日。)ところでオペラをみに行くとき、怠惰なワタクシは、いつもはほとんど予習せず、直前にウイキペディアなどであらすじをちょろっと見るくらいです。しかし今回は気合をいれ、真面目にしっかりと予習しました。(つまり、原作の漫画を読みました。)手塚治虫の火の鳥は、10数年ほどまえに、朝日ソノラマからB5判の大きな本で復刻されたときにシリーズ全巻を買って、読みました。時空をまたぐ壮大なスケールの物語を夢中で読みました。今回ヤマト編を読み直してみると、主人公が笛の調べを火の鳥に毎夜毎夜聴かせる場面や、王の墓に殉死として生き埋めにされた民衆による地底からの合唱の場面など、音楽が重要そうな場面が多々あり、どんなオペラになっているのか楽しみでした。オケ編成は、一管編成というのでしょうか、Fl,Ob,Cl,Fg,Hrn,Trp,Trbがひとりずつ、銅鑼・木琴そのほかのいろいろな打楽器、ピアノ、あと弦5部(5-4-3-3-2)の総勢26人が、オケピットにはいっています。指揮者青島氏が、黒い奇妙なTシャツ姿で登場し、独特の笑顔であいさつをし、きりっとベレー帽をかぶって演奏を始めました。ベレー帽は手塚治虫へのオマージュでしょうか?しかし暑さのせいか、いつのまにかベレー帽をさっさと脱いで指揮していた青島氏でした。曲は2幕構成で、第1幕は主人公ヤマト・オグナがクマソに侵入し火の鳥と出会うまで、約80分。冒頭のけらい二人と民衆の歌の場面は音楽的な緊張感があり聴き応えがありました。それ以後は、ストーリーの展開は原作の漫画にかなり忠実で、漫画にあるギャグネタも登場し、さらに台本でのギャグネタも加わって、面白いことは面白いです。けれど、音楽がなくて台詞だけの部分が長くて冗長で、オペラをみているのか演劇をみているのかわからなくなる感がありました。また肝心の音楽も、冒頭の合唱以外にはあまり印象に残るものがなく、ちょっと退屈に感じてしまいました。しかし第2幕約65分は、オグナと火の鳥の場面をはじめとして、音楽が美しく、とても充実してきました。そして物語の最後に、第一幕冒頭と同じ、けらいふたりと民衆の歌がもう一度出てくるという仕掛けは見事でした!この歌とともに、愛し合うオグナとカジカが息絶えていく場面はかなり印象的でした。歌手陣が、総じて今ひとつの歌唱だったのが残念でした。特に火の鳥は、人智を超えた圧倒的な存在感が欲しい役だけに、落差が大きく感じました。そんな中でカジカ役のソプラノは頑張っていて、特に第2幕での熱唱を称えたいです。演出・照明は地味でおとなしい路線でした。もうちょっと派手な路線でも良いかと思いました。演出が一番派手目になった場面は、クマソの長老が火の鳥の記憶を語る場面で、なぜか金色の紙吹雪が降り注ぎ、盛り上がりを見せていました。こういう感じの場面を他にもいくつか散りばめれば、さらにおもしろく見れるのでは、と思いました。青島氏は、「火の鳥」の黎明編もオペラにしているそうです。火の鳥全11編、いずれもオペラにしがいがある題材ですから、他の作曲家の方々も、オペラ化を目指してほしいものです。吉松さんあたりが、未来的な音楽をどかんと書いてくれないかな。