2011年、印象に残ったコンサート:器楽編
新年を迎えました。皆様に、良い年になりますように。今年も、書いたり、休んだり、相変わらずのゆるゆるペースで、細々とながらもブログを続けていきたいと思います。今年はじめは、マーラー、ブルックナー以外で印象に残った2011年のコンサート、器楽編を書きます。2月 9日 大植,大フィル/ブラームス 交響曲第4番ほか (シンフォニーホール)5月21日 カシュカシアン/無伴奏ヴィオラリサイタル (武蔵野市民文化会館小ホール)7 月 6日 大植,東フィル/ブラームス 交響曲第1番ほか (東京オペラシティ)7月30日 イザベル・ファウスト/バッハ 無伴奏ヴァイオリンソナタ、パルティータ全曲 (王子ホール)8月26日 大植,大フィル/チャイコフスキー 交響曲第5番ほか (シンフォニーホール)10月31日 チッコリーニ/リサイタル (すみだトリフォニー)11月 1日 ブリテン バレー「パゴダの王子」(新国立劇場)11月 2日 大植,大フィル/チャイコフスキー 交響曲第6番ほか (シンフォニーホール)11月12日 ウォン・ウィンツァン/ピアノコンサート (浜離宮朝日ホール)12月17日 吉野直子,今井信子,ジャック・ズーン/武満,ドビュッシー,ラヴェルほか (フィリアホール)2011年は、大植さんをできるだけ聴きました。マーラー以外に、大フィルとのブラ4、チャイコ5、チャイコ6、東フィルとのブラ1。それぞれに、感動しました。特にチャイコは良かったです。大植さんに向いていると思います。チャイコ5番は、大事故もありましたが、ぼくとはして充分感動しました。チャイコの6番は、1階最前列、中央ブロックの席(ここしか空いていませんでした)。もっと端っこかと思っていたら、行って見たら、センターの指揮台に結構近い(汗)。大植さんの燕尾服の袖のカフスボタンが、指揮台の後ろの支え棒にたまにちょっとあたってカシッと音がするのもリアルに伝わってくる、かぶりつきでした。プログラム前半のロココ風の主題による変奏曲のチェリストは、本当に美音でした。6番は、中央に陣取ったヴィオラが、冒頭の部分をはじめとして、強烈に印象的な音をだしていました。第一楽章はテンポの動かし方がぎくしゃくとして不自然でしたが、第三、第四楽章は、没入できました。事前の解説では、終楽章を速く演奏する、ということで、恐れていましたが、思ったほど速くなくて、良かったです。もっとゆっくり、じっくりやってくれればさらに良かったのでしょうが、大植さんの歌を味わえたという点では満足でした。終わったあと、大植さんが最初に舞台裏に引っ込むときに、ヴィオラの人と握手していました。東フィルとのブラ1も、堂々たる演奏でした。このときのプログラムの前半には、小曽根さんとの共演でモーツァルトの協奏曲をやってくれて、これがまた最高でした。カデンツァの部分は、春の共演のときよりさらにパワーアップして、ジャジーなピアノに途中からソロヴィオラがからみ、さらにソロチェロがからみ、ジャムセッションが長く繰り広げられ、実にスリリングなモーツァルトでした。終わってからブーイングも出ましたから、保守的なモーツァルトファンにとっては許しがたいモーツァルトへの冒涜、と思えたのでしょう、それほど刺激的で、すばらしかったです(^^)。ブーイングをはるかにしのぐ盛大なブラボーが飛び交いました。年末のベートーヴェン第9も、聴きたかったです。5月には、なんとヴィオラのキム・カシュカシアンが来日して無伴奏リサイタルを開いてくれました!その昔、New ECMからリリースされたヒンデミットのソナタ集や、ヴィオラ作品集「エレジー」に収められたブリテンのラクリメ、ヴォーン・ウィリアムスのロマンスなどのみずみずしくしなやかな名演に心酔していました。1995年、カザルスホールでのヒンデミット・ヴィオラ・フェスティバルにカシュカシアンが来るというので勇んで出かけて聴きました。公開レッスンもやっていて、さかんに「有機的に、有機的に!(organic!)」とお話していたことが印象に残っています。サイン会でサインしていただいたばかりでなく、すごく幸運なことに、その後の打ち上げパーティにも出させてもらえて、写真をとらせていただいたりしたものです。ドイツに暮らしているというお話でした。あれからもう16年!久しぶりに聴くカシュカシアンのヴィオラの音色は深く優しく、バッハやクルターグが、心に響きました。プログラムの解説によると、長く暮らしたヨーロッパから、今はアメリカに戻り、ボストンで教鞭をとられているということでした。僕よりちょと年上のカシュカシアンさん、これからもお元気で、ヴィオラを弾き続けてください。7月のイザベル・ファウストの無伴奏ヴァイオリン・リサイタルはすごかったです。1日で、無伴奏のソナタとパルティータ全6曲を弾いてしまったんです。しかもその演奏の集中力、ハイテンションさは半端でなく、バッハの世界に深く踏み込んだすばらしい音楽で、圧倒されました。2011年もまた、チッコリーニが来てくれました。今回は協奏曲、リサイタルの両方とも聴けました。協奏曲は、モーツァルトプログラムで、チッコリーニのピアノは素敵でしたが、指揮者の反応が鈍くて、チッコリーニが前に進もうとしているのに、その足を引っ張ってしまう感じがあり、いささか残念でした。2010年の神がかり的なベートーヴェンの協奏曲は、指揮者の力も大きかったのだなぁとしみじみ思いました。リサイタルの方は、もう本当にすばらしかったです。アンコールには、愛の挨拶!きわめてゆっくりとした、瞑想するような愛の挨拶を奏でてくれました。プログラムにも特に何も書かれてはいませんでしたが、チッコリーニが2年連続でわざわざ遠い日本に、今来てくれた、そのお気持ちは聴衆の皆にしっかり届いていました。チッコリーニ、本当にありがとうございます。ますますお元気でお過ごしくださいますように。新国立劇場バレー団による、ブリテンのバレー音楽「パゴダの王子」という珍しい演目(全曲は日本初演)も、期待を裏切らない良い上演でした。昔買ってあまり聴いていなかったCDで予習をしっかりした効果もあり、音楽がかなり楽しめましたし、日本とイギリスをうまく組み合わせたビントレーさんという芸術監督の手腕も大きいと思います。素敵な舞台でした。ピアノといえば僕が欠かせないのは、ウォン・ウィンツァンさん。毎年恒例のコンサートを、今回も聴くことができました。いつもすばらしいですが、今回はとくに良かったです。今までのコンサートだと、即興はすばらしいのですが、即興でない曲がやや型にはまって多少窮屈な感じがしなくもありませんでした。でも今回は、即興でないと思われる曲にも、ちょっと即興のスパイスがかかったような、なんともいえない素敵な味わいがありました。またコンサート後半の長大な即興演奏も、いつもすばらしいですが、今回はいつも以上に深く、美しく、心に訴えかける感動的な演奏でした。ウォン・ウィンツァンさんは脱原発の意見を強く訴えていますし、被災地の支援活動も熱心に行っておられます。器楽編の最後は、吉野直子、今井信子、ジャック・ズーンによるフルート、ヴィオラ、ハープの三重奏の室内楽コンサートも、なかなか良かったです。フルートのジャック・ズーンさんは、元ボストン響の首席で、ルツェルン祝祭管でも活躍されています。日本でアバド、ルツェルン祝祭管がマーラー6番をやってくれたときも、ズーンさんが吹いていて、信じがたいような、もう最高のフルートでした。今回のプログラムは、ヘンデルなどの古典ドイツもの、続いてグバイドゥーリナや武満の現代もの、そして最後にドビュッシーでしたが、こうやって続けて聴くと、ドビュッシーなどのフランス近代の作曲家が、如何にハープの魅力を十全に生かす曲を書いていたことか、これに比べると現代ものの曲は、ハープの魅力を生かすという点ではいかにも歯がゆいなぁ、という感じを持ちました。アンコールはラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌで、これも素敵でした。ズーンさんはもしかして体調が万全でなかったかもしれませんが、アンコールでは本領発揮というか、すばらしい歌を奏でてくれました。フィリアホールは、なかなか行く機会がなくて今回初めて訪れましたが、とても良い小ホールです。会場の構造や、壁のデザインは、明らかにカザルスホールに似せていて、カザルスホールをなつかしく思い出しました。音の響きもとても良く、また聴衆の質もかなり高く、上質の音楽を安心して楽しめました。ホール脇のチケットセンターには、書籍販売のほか、音楽雑誌のバックナンバーが自由に閲覧できるコーナーもあって、素敵なスペースでした。