映画『ロックアウト』
『ロックアウト』を観てきた。 この映画をみて、ある言葉がどういうものか、はっきり分かった。全編にわたりその言葉のお手本だったといってよい。その言葉とは何か? 「減らず口」である。 こういう鼻で笑うジョークはハリウッド映画的である。しかし、本作はフランス映画だ。監督ではないけど製作でリュック・ベッソンがかかわっているから、フランス映画とはいえ、ハリウッド基調なのだろう。 日本で「減らず口」は、日常歓迎されない。しかし、あちらでは、粋なのだろうか。『あぁ、自分もああいう風に、すかさずポンポン言い返せるようになりたい』と野郎どもはみな内心そう願っているのだろうか。 近未来、政府は刑務所を大気圏外に置いた。そこで囚人を眠らせてしまう。MS-1と名付けられた宇宙要塞の刑務所が舞台である。 ―― ここまではグっと惹かれる。 しかし、そこまで。……残念ながら。 刑務所という入りたくはないけど覗いてみたい場所。私も、北海道を一周したとき、網走刑務所を見た。半世紀も先の刑務所はどんなのか、好奇心そそられる。でも、映されるのは、スクリーンの中ではありふれたただの宇宙ステーションにすぎなかった。ハニカム形状の廊下で、シャッターが上やら左右にサッと開く。そういうところで追走劇が繰り広げられるだけ。通気ダクトがあって、大きなファンが回っている。そこに向かって落ちるが、全身を一瞬で砕くようなファンが鼻先かすめる寸前で、重力反転装置が働いて助かるとか。 『あったな、これ。なんだっけ、MIゴースト・プロトコル?』 日本をあちこち歩いていると、この石は弘法大師が腰かけたとか、一夜で何かを作り上げたとか、何かを救ったとか、そんな話によく遭遇する。「ゲーテはすべてのことを言った」のシリーズで、「弘法大師はすべてのことをした」というのも言えるなと思っていたが、それにもうひとつ加えよう。「トム・クルーズはすべての危機を切り抜けた」 しかし、この刑務所。長期睡眠の痴呆症状がどうこういうよりも、もっと根本的な問題が明らかだ。刑期の間ずっと眠らせてしまえば、更生して社会復帰なんぞ望むべくもない。証拠、というのも可笑しいが、みよ、目覚めた囚人の非道ぶり。こんなイカれた施設は、フッとばして正解だ。強力爆弾で木っ端微塵になって、そこだけは納得のハッピーエンドだ。(そういえば、多数の囚人が巻き込まれているけど、荒っぽいなぁ) 「減らず口」を和英で引けば、"a needless retort"。retortは、動詞で「言い返す」、名詞で「しっぺ返し, 口答え, 反駁」。本作のタイトルは『ロックアウト』ではなく、この『Needless Retort』の方がよいのではと思う。