『わが指のオーケストラ』 山本おさむ作
大人買いをした『ちはやふる』の流れで、そのあとも漫画を読んでいます。ただし作品のジャンルは違って、『わが指のオーケストラ』という聾者の教育史を描いた漫画です。 市の手話講座に通うと、手話と並行して聾者の文化についても教わるのが普通だと思います。私も通ったので教わりました。教わる聾者の文化とは、聾の病理学的な知識と、聾唖学校での教育方法についてが多くを占めていました。 で、その聾唖学校での教育方法というのが、実に問題あったのです。 どう問題あったのか? それを丁寧に、また読みやすく感動的な物語に組み立てて描いてあるのがこの漫画です。全4巻。作者は山本おさむ氏。 『はだしのゲン』と同じぐらい古い漫画かなと勝手に思い込んでいましたが、初版平成5年とそう古くはありません。それでも20年近く前です。そして昨今ようやく、この作品が描く聾者の社会におけるエポックメーキングな出来事といえる手話言語法制定がニュースとなっています。 「昨今ようやく」などと物知り顔に書くのは憚られるかと思いつつ、やはり「ようやく」は省けないと思い直しましたのは、少なくとも一読者として、その想いを抱くことこそちゃんと読みましたという証にほかならないと感じたからです。 あとがきにみる「六十余年前に、父が訴え続けたことが、今、やっと開花しかけてきたのでしょうか。それにしても、あまりにも遅い開花でありました。」が、この二十年弱に対しても「あまりにも、あまりにも」と重なります。正直いって私には過去の他人事なんですが、他人事を他人事にさせておかない訴えに本作は満ちています。 読み終えて知りたくなったのは、西川はま子さんの発声がどういうものだったか。 もしかしたらYOUTUBEで聴けるかもと検索してみましたがありませんでした。聾教育の歴史では陰の人になってしまいましたが、その修得した能力の素晴らしさと功績は、ヘレンケラーに継ぐ奇跡の人として、もっと歴史上に刻まれて多くを大切に遺されてあってほしいところです。しかし、それが口話教育を支持することとイコールになるのだとしたらデリケートな問題です。 排斥したいのではなく護りたい。 愛するからこそ道を拓きたい。 強い愛ゆえに生まれる解けない対立。 愛情の正が自身を正当化してしまう。 聾教育史の一面を通じて普遍的な問題がたくさん描かれてありました。 感動の作品でした。