命運つきる
3月30日午前1時25分、母が亡くなった。92歳9ヶ月だった。 時の流れは早い。あれからもう3日が過ぎた。 28日早朝の突然の体調変化。主治医の手当でもちなおし、翌29日にはいつもどおりの看護スケジュールになった。 午前7時40分 検温36.9℃、血圧・脈拍(一回目)124-67/82、(二回目)124-69/78、(三回目)122-68/83 午前8時20分 経管栄養注入;処方箋栄養液100ml+水100ml 午前10時25分 経管薬剤注入;薬+水60ml 午前11時40分 主治医来宅;検温37.1℃、血圧・脈拍112-76/95、ST酸素99%(3.5l/h)、吸引後ST酸素100% 午後0時 IVH(中心静脈カテテール;首静脈からの栄養剤点滴)輸液交換 午後2時10分 経管栄養注入;処方箋栄養液100ml+水100ml(1時間かけて注入後、管洗浄水30ml注入) 午後8時 痰を吸引 午後8時30分 経管栄養注入;処方箋栄養液100ml+水100ml 午後9時45分 経管薬剤注入;薬+水60ml 午後10時40分 右の親指が痙攣する。即座に主治医に電話。その後、痰を吸引。 体温35.8℃、血圧・脈拍(一回目)124-63/91、(二回目)128-79/88、(三回目)139-72/87 午後11時16分 主治医到着。 体温36.1℃、血圧・脈拍146-73/92, ST酸素99% 午後11時45分 吸引するが、口腔や食道・気管が乾燥したように分泌液が非常に少ない。小便量も少ない。 ST酸素100%、脈拍99/m 利尿薬、痙攣止めを側注(IVHチューブの側口より注射)。 午前0時10分 一日の小便量600ml(全水分量1,719ml)、廃液量75ml(鼻から経管排出している) 午前0時15分 医師の指示によりスポーツドリンクを150ml注入。 こうして3月29日の看護スケジュールを終了した。上記の看護記録を点検しながら、いつもどおりに、母のベッドのかたわらの床に、私自身の仮眠の準備をはじめた。そして母の寝顔を見やると、呼吸をしていないようだ。急いで聴診器で肺音を聴く。音がしない。心音をたしかめる。音がしない。心臓をマッサージするが、心臓は停止したまま。急いで主治医に電話。就寝していたらしい医師に、「心臓が止まりました。電話切ります』と言いおいて、再び心臓マッサージをつづけた。 やがて医師が到着。医師が代わってマッサージをする。私は弟たちに連絡、また、母が娘のようにしていた姪(私にすれば従姉)にも電話した。次男にはなぜか電話がつながらない。 午前1時25分、母、老衰により死亡。 医師は看護師に連絡。それから医師は様々なチューブを取り外し、私は母の身体を拭う。 午前2時頃、看護師到着。男三人で、母に屍衣を着せる。 何を着せようかと、母の箪笥を次から次とあけて、ほとんど和服しか着なかった母の何十着もの畳紙を開き、驚く看護師や医師を尻目に、あれやこれやと迷ったあげくようやく一着をきめた。 ・・・黒や深緑や金茶の糸で複雑な竹籬を織り出した紬。それに銀糸を織り込んだ春の朝ぼらけに一筋の金の筋雲をはいたような丸帯、羽織は黒の紗綾形綸子、肩や腰のあたりに陰から金糸で竹笹が縫い込まれていて、わずかな加減でそれが風に揺れるように浮き上がるのだった。それに、白足袋。 午前2時30分、母はすっかり旅立ちの姿に変った。医師は死亡証明書を書くために帰り、看護師も2,3のアドヴァイスを残して帰った。 私はすぐに葬儀社にドライアイスを持って来てくれるよう電話した。 午前3時半ころ末弟家族がやって来た。つづいて葬儀社がドライアイスを持って来た。葬儀日程の簡単な打ち合わせをする。 午前5時、末弟一家が帰る。 私はひとりになって、仕事場からスケッチ・ブックをもってきて5分ほどで母の死に顔を素描した。 きょう、レンタルの医療機器が運び出され、ガランとした部屋で片付けをしていた。母のベッドの近くに、寝込むようになるまで母が読んだ本がうずたかく積んであり、それも片付けた。本を数えてみると、1年半から2年ほどの間に読んだもので、57タイトル69冊あった。87,8歳の老人としてはなかなかたいした読書量ではないか、と感心した。 次はそのリストである。1 宮尾登美子「伽羅の香」2 宮尾登美子「一弦の琴」3 宮尾登美子「鬼龍院花子の生涯」4 宮尾登美子「きのね」上下巻5 宮尾登美子「菊亭八百善の人びと」6 宮尾登美子「天涯の花」7 宮尾登美子「朱夏」上下巻8 宮尾登美子「松風の家」上下巻9 宮尾登美子「春燈」10宮尾登美子「仁淀川」11宮尾登美子「東福院和子の涙」12宮尾登美子「菊籬」13永井路子「北条政子」14永井路子「雪の炎」15永井路子「葛の葉抄」16永井路子「この世をば」上下巻17永井路子「山霧 毛利元就の妻」上下巻18杉本苑子「散華 紫式部の生涯」上下巻19杉本苑子「銀の猫」20杉本苑子「月宮の人」上下巻21杉本苑子「姿見ずの橋」22内館牧子「毛利元就」上中下巻23平岩弓枝「御宿かわせみ」上下巻24平岩弓枝「王子稲荷の女 はやぶさ新八御用帳」25平岩弓枝「幽霊屋敷の女 はたぶさ新八御用帳」26宇江佐真理「幻の声 髪結い伊三次捕物余話」27宇江佐真理「黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話」28宇江佐真理「河岸の夕映え 神田堀八つ下がり」29宇江佐真理「無事、これ名馬」30杉本晴子「穴」31杉本章子「お狂言師 歌吉うきよ暦」32有吉佐和子「真砂屋お峰」33童門冬二「小説 上杉鷹山」上下巻34竹田真砂子「白春」35南原幹雄「江戸吉凶帳」36北原亞以子「雪の夜のあと」37北原亞以子「傷 慶次郎縁側日記」38新田次郎「芙蓉の人」39高橋治「春朧」上下巻40高橋治「秘伝」41灰谷健次郎「風の耳朶」42乙川優三郎「五年の梅」43乙川優三郎「霧の橋」44連城三紀彦「萩の雨」45池波正太郎「梅安影法師」46池波正太郎「梅安冬時雨」47田中澄江「夫の始末」48横山秀夫「半落ち」49折原一「模倣密室」50折原一「被告A」51折原一「黒い森」52松本清張「彩霧」53松本清張「黒い空」54松本清張「鬼火の町」55泡坂妻夫「迷蝶の島」56伊集院静「眠る鯉」57伊集院静「冬のはなびら」