初夢に始まった一年
2011年大晦日。憂い多い年であった。 振り返れば、1月2日の初夢で、私は太陽エネルギーについて誰にともなく一心に語っていた。そして次の句を詠んでいる。 初夢に大日力(ソーラーエナジィ)を弁ずなり 青穹 およそ2ヶ月後に、原子力発電所の大惨事が起ろうなどと想いもせず、まるで予知夢のように。 たぶんその初夢は、核エネルギーに代わるものとしての太陽エネルギーのことではなく、2年目に入った老母の在宅医療と看護に、一日の休養さえなく心身に疲労感が蓄積するばかりなのを、なんとかはねのけようと、太陽エネルギーを我が身によびこもうと夢想したというほうが、当たっているだろう。 しかし、自分の心身のことはともかく、現実に原子力発電所の事故は起った。廃炉までに40年、放射能の影響が完全に終熄してもとの大地に返るまで1,000年と推測される未曾有の惨事である。 惨事が起った場合の対処法については、まったくといってよいほど、研究されていなかった。方法論も機械器具もこれから研究開発し、製造しなければならない。 「大男、総身に智慧まわらず」という言葉がある。ぶくぶくと肥え太った原子力産業経営者は、関係官庁とともに、まさに智慧がまわらない巨人だったわけである。 きょうの新聞報道によれば、原発事故処理に使用した高汚染車輌が、住宅街の駐車場に放置されたり売却されて輸出されたりしているという。開いた口がふさがらないと言うより、この精神のたるみ具合は、もはや犯罪である。原発事故は「事故」としても、その後のさまざな愚かな行為による出来事は、「犯罪」として告発すべきだ。原発以外の放射性物質の取り扱い規制違反は、厳重に罰せられるはず。原発関連だけがその罰を免れる理由はなかろう。 というわけで、私の初夢は、私自身にその後の考えをつきつけるものとなったのだった。【原発関連報道】朝日新聞 「高濃度汚染車両、原発外に 東電、適切な管理怠る」2011年12月31日5時55分読売新聞 「第一原発老朽化、耐震性に影響せず…保安院報告」2011年12月29日16時11分毎日新聞 「福島原発事故:「日本は終わりかと考えた」陸自前司令官」12月31日 10時21分毎日新聞 「暮らしどうなる? チェルノブイリの経験から 内部被ばく減らす食事を」2011年12月30日 東京朝刊 さて、大日力を弁じた句を含み、ことしは全部で77句の俳句を詠んだ。ほかに年末になって英語俳句を14つくった。昨年は1,000句だったから、ずいぶん少ない。 その77句の中から25句を自選して、次に再掲載してみよう。 初夢に大日力(ソーラーエナジィ)を弁ずなり 日月の四十五億松の今日 寒椿散るや此の世の闇溜り 寒入るや湯船の底に脛光る 若人に光陰の矢は見えずして 中天に月冴えわたり影ひとつ ふりかざす鋏狂うや梅花御供 古き雛うすれ消えゆく禍福かな 被災地に積み出す物資に春の雨 朝日さす瓦礫の山の稚児桜 雨冷えて眉に散り降る茱萸の花 花屑や淋しきひとの褄の先 春深し心さわげる端居かな 影みどり鳴く不如帰ゆく山路 倒れ木に他木の葉叢立夏過ぎ 頬削げて髯の青さや皐月雨 蓮咲きて星は玄武に輝けり 風鈴の音も絶えたる夏籠り 隧道をいずれば蝉の鳴きて瀧 黒揚羽舞いて魄散る木下闇 猫のひげ震えてひかる雷雨かな 待宵や栗飯を炊く湯気あかり 月の友むかしを偲ぶ二三あり 普請場の音も絶えてる秋の雨 小夜しぐれ身の内外の隙間かな