青山学院大学3連覇と原晋監督の指導力を思う
箱根駅伝2日目復路。 きのう往路優勝した青山学院大学は快調に出走。ところが、7区で思いがけないことが起った。田村健人選手に異変が生じたのだ。苦しそうに顔をゆがめ、左右の腿を気にする身振り、ふらりとよろめきさへする。脱水症状か? 追走の早稲田大学が距離をちぢめて来る。 監督車の原晋監督がなにやら審判と交渉していた。給水を懇請しているようだ。しかし、ルールによれば、給水ポイント以外での給水は、選手が走るのを止めなければ許可されないらしい(私は初めて知った)。 あるいはここで早稲田との逆転劇が-----と思ったが、田村選手はよく耐えた。平塚中継所で8区の走者下田裕太選手に襷をつないだ。下田選手は快走、快走。1時間4分23秒の区間賞。以後、9、10区ともに安定した走り、結果、11時間4分10秒で総合優勝。3連覇である。 2位、東洋大学/11時間11分31秒。3位、早稲田大学/11時間12分26秒。4位、順天堂大学/11時間12分42秒。5位、神奈川大学/11時間14分59秒。 青山学院大学はアクシデントにもかかわらず2位との差7分以上だったのだから、本当に強い。しかも歴史的記録をつくっている。全日本大学駅伝を制し、出雲全日本大学選抜駅伝を制し、すなわち大学駅伝3冠を達成した。報道によれば、箱根駅伝3連覇は史上6校目、大学駅伝3冠は史上4校目、そして箱根駅伝3連覇と大学駅伝3冠を同時に達成したのは、今回、青山学院大学が初めてなのだという。 12年前、原晋監督が就任したときの同大は、失礼ながら箱根駅伝で知られる大学ではなかった。それから3年後に22位で登場し、翌年8位になった。総合初優勝した前年に5位となり、初めて広く世間は注目したのだったのではないか。 原晋監督の指導理念、指導力に、私は気にとめずにはいられない。なぜなら、駅伝はチーム競技であり、しかも数あるチーム競技の中で、たった一人のスター選手が存在してどうにかなる競技ではないからだ。もちろん山登りに強いとか、だらだらとつづく権田坂をこなせるとか、あるいは今回から少し距離が長くなった4区・7区に投入できるとか、いわば区間の特徴に向いたエースは必要だ。個人個人の努力は絶対条件ではあるが、それに加えて力ある選手層の厚さが一層求められるであろう。 箱根駅伝の場合、各大学がエントリーできる選手は20名である。私が原監督の指導に気を留めるのは、おそらく個性がばらばらな20人を、その個性を引き出しつつ(ことばを替えれば、個性を潰さないで)全体をレベルアップする方法とは如何なるものか、ということだ。相当難しいはずだ。 原監督流の指導方法は、駅伝だけに通用するものではないだろう。それぞれの個性を潰さず、全体のレベルアップするという指導理念は(原監督流がそうだとして)、小中学校や高等学校の教育にも言えることだからだ。いや、基礎的学校教育にこそそうあらなければならない、と私は思う。 大学の学問領域においては、学生全体のレベルアップなど教師は考えることはあるまい。たった一人の特別な才能を育てることができれば充分だ。そういう人物を輩出できなかったからと言って悩むこともない。ダメな学生は、ダメなのだから。 まあ、そんな憎まれ口は止めにして、事、箱根駅伝を観戦しながら、青山学院大学の選手層の厚さをめぐって原晋監督の指導方法に想いが向いたのだった。