益川敏英著『科学者は戦争で何をしたか』(集英社新書)を読む
益川敏英著『科学者は戦争で何をしたか』を読む益川敏英氏はノーベル物理学賞を受賞された方ですが。こんな題名の本を書いています。1940年生まれで、すでに去年・2021年7月に亡くなられたんだそうですが。戦後生まれの私などは、戦前の日中・太平洋戦争へと、どうして日本国民は流されていったのか? バカな戦争にどうして反対しなかったのか?ずっと疑問を持っていたんですが。歳を重ねてみると、少し見方が変わってきました。結局あれは、声なき声が政治的な力となることができなかったことじゃないかと。政治家たちの戦争へ、戦争への流れの合唱の高まりの中で、国民は逆らうことが出なくされていたこと。さからへば、国賊非国民とせめたてられ、はては犯罪として取り締まられるじたいに。そうしたことが見えてきました。それと同時に、戦後、二度と戦争への道をすすんではならないとする、大人たちの声なき声を、確かな心も感じるようになりました。忌まわしいことは子どもたちには見せたくなかったのかもしれません。同時に、明確な意志表示も見えてきました。先般紹介した松本清張『昭和史発掘』しかりですが、歴史学者や哲学者たちが、それぞれの道で「戦争への道は反対」と明確な意志表示をしていることもわかってきました。だけど他方では、今の政権政治家やそれにすりよる政治家たちですが、戦争への合唱方向が声高に、歴史も顧みずに、戦前の様に顕著になっています。まったく対象的な二つの道なんですが。そうした中で、今回の益川敏英氏の『科学者は戦争で何をしたか』(集英社新書 2015年8月17日刊行)ですが。これは、日本の科学者としての心からの発信ですね。これまで自分は旗振り役などはむかず、お手伝いをするくらいでやってきたが、「しかし、21世紀に入った頃から、どうも日本の様子がおかしくなってきた。縁の下で力を貸しましょうという立場では、改憲派に押し切られてしまいそうな危惧を覚えて、もっと具体的な非戦のアピールが必要だと思うようになったのです」(128)これは、益川氏だけの受けとめではないと思います。この本は、そうした益川氏が、世界の科学者たちの体験を、日本の戦後の科学者たちが平和への精神をどの様に守ろうとしてきたのか、その努力の歴史をまとめてくれています。私などは、たまたま偶然に、手にした本でしたが、大事な一書だということを感じさせられています。