紫式部ダイアリー / 三谷幸喜
■とあるバーのカウンターで清少納言が紫式部を待っている。緑のドレスを着た清少納言に斉藤由貴、紫のドレスを着た紫式部に長澤まさみ。登場人物はこのふたりのみ。ポスターがあまりにかっこいいので貼ってみた。■三谷の二人芝居と言えば「笑の大学」(男性二人)「Good Night Sleep Tight」(男性・女性)を見たことがあるが、女性二人による芝居は初めて。とある文学賞の選考委員に選ばれたふたりが翌日の授賞式を前にホテルのバーで語り合うという設定。■彼女たちがお代わりする酒の種類が変わるたび、舞台上のスクリーンにRound1からRound5とボクシングのタイトルマッチさながらの文字が浮かび、観客は心の中でどちらの作家が優勢だったか判定することになる。■その切れ目切れ目で流れるのが向田邦子の名作「阿修羅のごとく」でも使われたトルコの軍隊の音楽。女性の業みたいなものを痛切に描いたあのドラマを思い出す時にこの音楽の響きがセットになってしまっている頭としてはこの芝居における女性二人のやりとりを補足する形でそれが使われていたという効果は否定できない。■実際、三谷が誰に対して嫉妬心を抱いているのかはわからないけれど、清少納言が紫式部に抱いた感情のように、自分より若く、見かけもよく、なおかつ才能もある他の誰かの存在を意識していることは事実であろう。ただその誰かの日記に彼の悪口が毎日書かれているということはないだろうけれど。■三島由紀夫と太宰治で同じ設定のドラマが見たい。少なくとも女性二人のやりとりよりも、もう少しリアルに、もう少しペーソスを含んだ共感できる物語になったのではないか。演じられる役者の候補もたくさんいるしね。でもそれでは「笑の大学」の焼き直しになってしまうかもね。