龍馬伝 (43) 「船中八策」
■乗り物の中で本を読んだり、物を書いたりするのが苦手だ。修学旅行のバスの中でトランプをやっていて、吐きそうになったことがある。特に弱いのは船の中で、あの独特の匂いと揺れで陸地に辿り着くまでわたしはでくの坊となり、何を頼まれても満足に応えられたことはない。■そんな船の中で来たるべき未来の日本の姿を文章化しただけでも坂本龍馬はわたしから見ればとてつもなく偉大だ。その字が多少汚らしく読みにくいものであっても船の中だからしょうがないじゃないか。後藤象二郎という人はもっと素直に相手を褒めたり、労をねぎらったりした方が良いと思う。人から尊敬されるためには威厳を捨てることだって必要なんだと思う。■国の存亡を左右する会議に出席していたとしても、歯が痛くては議論にも加われない。当時のデンタルクリニックの普及率がどの程度だったか知らないが、土佐の殿様クラスであれば、日頃から虫歯の治療は滞りなく果たしておくべきだ。でもこの時、容堂公が元気だったら、薩摩側についたのだろうか、慶喜側についたのだろうか。■田中哲司演じる徳川慶喜、もしも彼にあの番組で持っているような予知能力があったら、もう少し早く300年の歴史に幕を下ろせたのではないか。その後、後藤象二郎から龍馬の船中八策を聞いた容堂は慶喜に大政奉還を進言することになる。結果、薩摩との会談で約束された武力によって幕府を倒すという密約を土佐藩は果たさずに済んだ。■新選組オールスターズの追撃を振り切った龍馬たちの逃亡先は相撲部屋。どっこい事件以来新選組の面々と力士たちとの相性はあんまり芳しくない。そこに逃げ込ませた中岡の判断はなかなか賢い。そして脚本的にはそこで幕府が無くなった後の日本の在り方をとくとくと説く龍馬に中岡のみならず、ひとりの力士が胸をうたれるという見せ方がとても巧いと思った。■大久保利通登場。篤姫の大久保はこのドラマでは新選組の近藤勇になったが、今回は及川光博。相棒は西郷に変わったが、その冷淡な視線はすごくS的で龍馬的おおらかさは気に食わぬ様子。彼もまた龍馬暗殺容疑者のひとりとして俄然浮上。そろそろ佐々木只三郎の配役をNHKは発表しても良いころじゃないか。まさか、弥太郎と語り手以外に三つ目の配役も彼にやらせるってことはないだろうな。