Live in Toronto / KIng Crimson
■レコード盤1枚に注いだ熱量は70年代前半のあの頃が一番大きかったと思う。当時の聞き方にはある一定の儀式があった。それはまず買ったばかりのLPをしげしげと眺め、ライナーノート、歌詞カードに一通り目を通し、1曲ごとの作詞作曲者の名を確かめ、それが終わると、やおら部屋のあかりを消し、おもむろにレコードをターンテーブルにのせ、ボリュームを9時の方向に合わせ、そっと針を落とす。■そんな儀式を経て、あの頃夢中になったのはいわゆるプログレッシブ・ロック。とりわけ「宮殿」と「危機」と「狂気」に代表される御三家のアルバムたちだった。その中でもクリムゾンの音楽は最も硬派で、メロディアスな部分よりも破壊的なサウンドが勝り、心地よさよりも刺激的である部分が他のバンドとの相違点だった。■特に73年に出た「太陽と戦慄」はたしかその年の暑い夏の盛りに初めて聞いたと記憶しているが、針を落としてしばらくしてもなかなか音量が上がらず、少しボリュームを上げてみたら5分後にひどい目にあったという思い出がある。だからあの長く尾を引く爆音がこのバンドの印象となっていまだに焼き付いている感じがする。■そんな40年以上前の音楽がいまだ現役で鳴り続いているという奇跡みたいなライブを収録したのがこのアルバム。さすがに当時のメンバーが勢ぞろいでというわけにはいかないが、ロバート・フリップがいる限りクリムゾンという名前のバンドは継続できる権利を持つ。■彼自身による開演前のアナウンスでこのアルバムは始まる。いわく(写真なんて撮ってないで、スマホなんていじってないで)これから流れる我々の音楽に耳を澄ませ、全神経を集中しろ。そして始まった例の小音量のパーカッションで私はまたボリュームを少し上げ、40年前と同じ失敗をすることになる。■クリムゾン史上最もそのサウンドに相応しいボーカリストは誰かという質問は難問だが、このバンドのボーカルもオリジナルの歌い手(この言葉ほど似合わないバンドはないだろ)の印象を損なうことなく無難にこなしているように思う。(個人的には「アイランド」のボズ・バレルに一票)■結局CD2枚通して最後まで聞き終えてしまったのは演奏される曲目の並びの良さと、今なお耳に残るあのウィーンとうなる残響みたいな歪んだ音の心地よさ(いや、悪さかもしれない)と、まるでその会場にいるような気分にさせる録音の良さだと思う。この年になって改めて「エピタフ」の歌い出しとか「イージー・マネー」の笑い袋とか、「スターレス」のサックス・パートなどを聞きながら、なんだ結局私はちっとも成長してないんだと思う気持ちとかね■いつの間にか、この部屋もあの頃にタイムスリップして、真っ暗になっていて、そこでは大音量で21世紀の精神異常者が鳴っている。そういえばもう新しい世紀になってずいぶん経ったし、もうそのタイトルも使えない。そしてロバート・フリップは今年70歳になる。やはり変わっていないのは私だけだった。Robert Fripp (g,key)Jakko Jakszyk (g,vo)Mel Collins (sax,fl)Tony Levin (b,sticks,backing vo)Gavin Harrison (dr,el-per)Bill Rieflin (dr,el-per,key)Pat Mastelotto (dr,el-per)Disc11.Threshold Soundscape (4:00)/2.Larks Tongues In Aspic Part I (10:29)/3.Pictures Of A City (8:32) /4.VROOOM (5:18) /5.Radical Action To Unseat The Hold Of Monkey Mind (3:20)/6.Meltdown (4:51) /7.Hell Hounds Of Krim (3:31) /8.The ConstruKction Of Light (6:44) /9.Red (6:47)/10.Epitaph (9:02)Disc21.Banshee Legs Bell Hassle (1:43) /2.Easy Money (8:33)/3.Level Five (7:04)/4.The Letters (5:38) /5.Sailors Tale (6:56) /6.Starless (15:18) /7.The Court Of The Crimson King (7:17) /8.21st Century Schizoid Man (11:41)