真田丸 (50) 最終回
■実際、真田幸村があれだけ至近距離に徳川家康を追い詰め、なおかつあのように対峙して互いの胸の内を叫び合ったことが史実としてあったとは思えない。しかしこのドラマの最終回で彼と彼とが向かい合いそれぞれの思いをぶつけあうことは物語を締めくくるにあたってぜひとも必要なシーンだったはずだ。■思えば、最初にこの二人が顔を合わせたのは、まだまだ物語の序盤にあたる第4話くらいで、その時、信繁(源次郎)はその男のことをもっと(位が)下の人かと思ったと口に出しており、家康の方もこの男が将来自分の野望の盾になることなど予想だにしなかったはずだ。いやその野望自体当時はこんなに大きく膨らむものとは思ってもいなかったはずだ。■そう誰が誰について、誰が誰を裏切り、誰がそのトップとして君臨するか、それこそ風向きとか、猜疑心とか、嫉妬心とか、誤解とかでころころと変わっていってしまう戦国時代というものを垣間見られた一年間だった。織田がいて、北条がいて、上杉がいて、豊臣がいて、武田がいて、伊達がいて、毛利がいて、そして真田もいた。そして今、徳川がこの国を治めようとしているなんてことは物語の序盤では想像もできなかったことだ。■想像できないと言えば、物語の前半で常に源次郎の側に仕えていた矢沢三十郎がこの大坂夏の陣ではその主(あるじ)と刀を交えることになるとは。馬上で槍を軽くいなして、小者にかまうなと冷酷に立ち去ってしまう信繁に元家来に対する最大限の優しさを見る。ひれ伏しながら「源次郎様!」と彼の背中に叫ぶ三十郎の慟哭は格別の名シーンとなった。■私という人間が何かを為したという証を残せたかどうかという信繁の問いに対し、それは時が決めることだと高梨内記が答える。それは近藤勇に対し勝海舟が言った言葉と全く同じで、人はどのように死んだのかではなく、どのように生きたのかが問われるのだという哲学もまたこの脚本家の常套句でもある。■だからおおかた、この男の物語は前回までで完結している。上田から大阪そして九度山、再び大阪と、彼がしてきたことは十分堪能した。上杉景勝が言ったように彼こそ日の本一の兵だった。しかし、最終話でこの大河の主人公はどのような最期を遂げるのかということもまた我々の最大の関心事だったことは間違いない。史実はどうあれ、いつ、誰と、どこで、何を言って、何を想いながら、どうやって死んでいくのか見届けたいと思った50数分だった。■そしてそれはとある神社で、(55才の前身傷だらけの)佐助と、妻や子供たちのことを想いながら、少しだけ微笑んで果たされた。このような表情を作り出せるのはやはり微笑みで喜怒哀楽を表現できてしまう男、堺雅人をおいて他にいない。三谷的には近藤勇の「とし」、大谷刑部の「じぶ」、そして今回の藤本隆宏の「すえ」と同じように誰かの名前をつぶやいて果てるという細工があるかと思ったがそれはなかった。個人的には長澤まさみの献身に敬意を表して「きり」とつぶやいて欲しかったけれど、そうなったらそうなったで佐助の介錯のタイミングは信繁の切腹より早まってしまう危険性もあったのだ。■締めくくりは玉縄へ向かう大泉洋と近藤正臣。この田畑を歩むふたりの風情はどことなく七人の侍のエピローグの趣と重なる。黒澤明のあの映画では戦いの後、勝ったのは農民たちだと高梨内記にも似た志村喬がつぶやくのだが、この大坂の陣で勝利したのは牢人たちが集結した豊臣方ではなかった。では勝ったのは徳川側かといえばなんとなくそう見えないのは、いくら幸村たち五人衆が奮闘しても豊臣側には滅亡する必然があったからではないかと思う。因果応報、それだけのことを太閤秀吉はしてきたからではないだろうか。PS■主人公が主人公らしく見えてきたのは残り10話をきるあたりからという異色の描き方。それだけ彼の周りにいた人物が彼に大きな影響を与えたのだという大河ドラマだった。それゆえ誰もが主演俳優でも助演俳優でもあった。堺雅人、大泉洋、内野聖陽、草刈正雄、長澤まさみ、竹内結子はもはや主演と呼んでもいい。ではほんのちょい役も含め私的真田丸助演俳優ベストテンを発表。NO10 今井朋彦(大野治長)三谷作品のキーパーソン。今回もやってしまった大失敗。NO 9 高木渉(小山田茂誠)この大河の「陽」のイメージの代表。この表情に何度救われたことか。NO 8 松岡茉優(春) 脱かわいい。障子破ったり、鉈振り回したり、物騒さ満開。NO 7 村上新悟(直江兼続) 御屋形様の側から決して離れない。あの声は反則。NO 6 栗原英雄(真田信伊) 圧倒的な存在感。大人の事情が全部詰まっている顔。NO 5 新納慎也(豊臣秀次)殺生関白のイメージを上書き。笑顔が悲しい。NO 4 西村雅彦(室賀正武)前半、「黙れ小童!」だけでもっていってしまった。NO 3 長野里美(こう) 本来は途中で消えてしまうはずだったのに。彼女無しに信之パートは成立しなかった。NO 2 長谷川朝晴(伊達政宗)ずんだ餅だけでなく、殺陣のシーンも忘れないで。はまり役でした。NO 1 小日向文世(豊臣秀吉)この人も主演と呼んでいいかも。この秀吉あっての真田丸。 番外 清水ミチコ(旭) 大河史に残る顔芸。福笑いでもあんな顔できない。