退院可能な患者さんたち
毎年、退院促進支援事業の絡みで、自分の担当患者さんの病状、行き先さえあれば退院可能かどうか...というようなアンケートへの回答をしている。いわゆる社会的入院を減らして、精神科の病床数をいくつまで減らすのかという目標設定の基準になるので、アンケートへの回答は、原則「まだ退院できない」という回答をすることにしている。私の入院担当患者数は26~30名くらいの間で推移している。常勤は一人当たり30名担当を基準とするのだが、私の場合30に届いていることは珍しい。最初は30だったが、長期入院の人がよくなって何人か退院したので、「固定客」は23~24名に減ってしまった(「~しまった」というのもおかしな話だが...)。まず第一に、自分でとった入院は短期(数週間~3ヶ月)で退院してしまうのである。もうひとつは、再入院してくる患者さんが少ないのである。さらに入院目的で紹介されてきた初診患者さんの身体疾患を見つけてしまい、総合病院へ送ることも、多いのである。家族関係や、職場関係がうまくいっていないなどの理由....つまり入院治療で効果を出せる可能性がない入院は、原則とらないのである(よくならない、ということを説明した上で、それでもどうしても休養させてほしい、という人を1週間とか、2週間単位で引き受けることは、ある)。ところが、引きが強いせいなのか、主義の違いなのか、入院患者さんを沢山キープしている先生、というのはいる。私が病床を空けても、そういう先生の患者さんがすぐ埋めてしまう。埋めてしまって動かない。埋めてしまって動かないと、入院相談の電話を私が受けても、「明日来て頂ければ、診察は致しますが、即日入院できず、お待ち頂く可能性があります」と説明せざるを得ず、結果として断ったことになる。電話なく連れて来られてしまった、即入院必要な患者さんを入れるところがなくて(そういう患者さんは保護室か個室が必要なケースが多い)、その「埋めている患者さん」の先生たちに頭を下げて頼みこむことになる。「ああ、この患者さんは無理ですから」とろくに話も聞かず遮られたり、明らかに嫌な顔をされながら部屋を譲ってもらったりするのは、私だって気が重い。そんなこんなでやっているのだが、入院患者数が膨らんでしまう先生は、たまに31~32名まで減っても、すぐに35名とか、37名になっている。で、初診を受けた先生が外来看護師やPSW、事務に手回しして、新しい患者さんを、私の担当日に入院させることにしているのである。もちろん、私の知らないうちに。「患者さんにはこう説明しました。PSWも承知しています。じゅびあ先生は今担当患者さんが少ないですからお願いします。」と事後承諾だ。こういうのが何名か続くと、手持ちの入院患者数(毎週表で貼り出される)が減ってくるたび焦ることになる。「じゅびあ先生は入院患者数が少ない」=「じゅぴあ先生は仕事をあまりしていない」と周囲から評価されているのではないかと、強迫的、被害的になってくるのだ。空床のない病棟へ行くと、ナースたちにまたよく言われるんだ。「●●さんは、だいぶ落ち着いていますけど、じゅぴあ先生はこのままずっとここにいてもらうおつもりですか?」PSWも言う。「じゅびあ先生、××さんは、介護が主体になっていますし、施設への退院ができるんじゃないでしょうか。」...いや、確かにそうなんだけど。家族のもとへ帰せる人はとにかく優先して、1日も早く退院させている。その方針は変わらない。だけど、どのみち家族のもとへは帰れない人(施設などへの退院)については、あんまり一気に減らしてしまうと私の入院数が減って、困るのよ。今月末までに、あと3人、退院しちゃうし....。最初は「うんうん」と聞いてすぐに動いていたのだけど、最近は「それって、私だけでなくて、他の先生にも言ってよね...」と言っている。ある看護長とその話になった時、「じゅびあ先生、最近、★病棟と、▽病棟でも、言われたんじゃないですか?」と訊かれた。「うんうん、そう言えば言われた。」「看護師はつい、言いやすいと言うか、実際動いてくれそうな先生に言ってしまうんですよね。はなから『ああ、この人は無理だから』って言うだけの取りつくシマのない先生には、あんまり言わないものなんです。」退院は、させる方が患者さんのため。なるべく入院させないで、外来で維持するのが患者さんのため。でも、「じゅぴあ先生だけ目立って入院患者数が少ない」という言われ方をするのは心外。このジレンマは、入院病床をもつ病院に勤めている限り、ずっと続くのかも。