『大通りの店』
≪「諸悪の根源は恐怖にある」 この言葉が納得出来る作品≫1965年の作品ですが、モノクロでもっと前の作品かと思っていました。ファシストの姿はちらほら見えるものの、町往く人々はのんびりとして戦争中だがのどかな町。仲たがいしていた義兄が大工のヨゼフの元へ持ってきたのは、ユダヤ人排除に伴うあるユダヤ人老婆の大通りの店の管理人へという話。これで裕福になれると大喜びの妻、そしてヨゼフも意気込んで出かけたものの、その老婆はなあんにも分かっておらず、自分の身の上話を始める。おまけにものすごく耳が遠い為全く話にならない。でも老婆はヨゼフを息子のように扱い世話をやいてくれ、ヨゼフも老婆を何とかしてあげられないかと思うのだが…ナチへの嫌悪感はあるもののどうする事も出来ない一市民のヨゼフ。前半は噛みあわない老婆との会話、妻への嘘、それでも毎日店へ出かけて老婆の料理を食べて一日を過ごしていた彼も、日に日に強まるユダヤ人迫害の様子を後半からは息を呑んで観る展開となります。特にラストの数十分は手に汗を握ります。こんな結末って…想像していませんでした。だから、ラストの楽しげなシーンはより切なく感じてしまいます。老婆役のイダもヨゼフも迫真の演技で圧倒されました。何気なかった日常の、でも刻々と迫るその日への段階をヨゼフの目を通して私も観ているような気がして、恐怖を感じました。「おすすめ」にはしませんでしたが、深く考えさせられる作品です。 OBCHOD NA KORZE/THE SHOP ON MAIN STREET1965年チェコスロヴァキア監督:ヤン・カダール、エルマール・クロス脚本:ラディスラフ・グロスマン、ヤン・カダール、エルマール・クロス出演:イダ・カミンスカ、ヨーゼフ・クロネル、ハナ・スリフコワ