【ミツバチのささやき(EL ESPIRITU DE LA COLMENA)】 1973年 スペイン内戦で疲弊した大人と、少女の無垢な魂の冒険
ながいこと観たいと思い続けてきた、ヴィクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』。 期待したわりに、内容がよくわからなくってびっくりしたけれど(笑) すごく好きだった。ノスタルジックで幻想的な世界。画面がとにかく魅惑的なもので。古いお屋敷、オルゴールつき懐中時計、調律されないピアノ、ドン・ホセという名の人体模型・・・・。もはや蠱惑にちかいほど惹かれてしまう。会話のないやつれた大人たちをよそに、子どもたちの空想力は果てなく広がり、研ぎ澄まされたアナの感性は眩しくて、子どもの目を通して内戦の傷痕と、人々の営みを眺めたら、いつもは気づかないことに気づけそうだった。おもしろいのは、屋敷の窓が六角形の格子柄、蜂の巣模様であること。ガラスの巣箱で蜂を観察している父親みたいに、じぶんが屋敷の外から、六角形の格子を通してアナ家族を観察している気持になってくる。「報われることのない過酷な努力、眠りはなく、休息は死である」父親の書きつけたミツバチの記録は、そのまま過酷な時代に生きる人間に通じる。原題は『ミツバチの巣箱の精霊』なのだそうだ。精霊がいるとすればそれはアナだった。無垢で純粋なこころのアナだった。 1940年代、スペイン中部の小さな村。『フランケンシュタイン』が巡回映画で上映され、少女アナ(トレント)は、フランケンシュタインにすっかり魅せられてしまう。姉のイザベル(テリェリア)から、怪物は村外れの廃屋に隠れていると聞かされたアナは、信じてひとり廃屋まで出かけ、スペイン内戦で傷ついた脱走兵と出会う――。村はずれの廃屋、負傷兵との束の間の交流は予想もしない悲しい結末に終わり、失意のアナは森へ家出した。夜も更けて、水縁にしゃがみこむアナは、あの映画のフランケンシュタインに出会う・・・・古典へのオマージュを込めた、なんてフシギな物語。 原案・監督 ヴィクトル・エリセ 脚本 アンヘル・フェルナンデス=サントス ヴィクトル・エリセ 音楽 ルイス・デ・パブロ 出演 アナ・トレント イザベル・テリェリア フェルナンド・フェルナン・ゴメス (99min)