【四川のうた(二十四城記)】 2008年 喜びも悲しみも―思い出は“うた”となり、心に響きわたる
『長江哀歌』がよかった、ジャ・ジャンクー監督作品。高度経済成長期をむかえている中国の、新しい世紀のはじまりを感じる一本。若い世代代表として、国の歴史と向き合い、中国の行く末を想う監督の気持ちが、なにやらあたたかい。状況は過酷でも、画面を通して伝わってくる眼差しは、『長江哀歌』のように、どこか楽観的だ。2007年、巨大な国営工場が閉鎖され、そこに働いていた労働者たちが語る、一つひとつの思い出―――。変革、政治のうねり。それらに翻弄されながらも、懸命に生きた人々の悲喜こもごも。それぞれの人生の物語はドキュメンタリーを織り交ぜたフィクション。語る人々は、みんな名の知れた俳優たちだ。けれどどの言葉も、どの思い出も、けしてウソ話には聞こえなくて、きっとこういうドラマは、現実にも起っていたに違いない。景気の良い頃はいい思いもしたし、工場内で恋もした。娘は、くたびれ果てた母親の姿に切なさを覚え、単調な作業を繰り返すだけの仕事に、息子世代は反撥した。カタチはどうであれ、生きている人々の日々の営みには哀愁がある―――。『長江哀歌』で書いた言葉そのままに、監督の、変わらないたしかな目線。新しい太平洋の世紀は、かくじつに中国にむかって追い風が吹く。日本を追いかけてくる速度は、きっと意外に速い。それを実感しつつ。けたたましくまくしたてる中国のイメージを払拭するような、一味違った穏やかで楽観的なジャ・ジャンクー作品が、好きだ。● ● ● ●監督・脚本/ ジャ・ジャンクー 撮影/ ユー・リクウァイ ワン・ユー 音楽/ 半野喜弘 リン・チャン 出演/ ジョアン・チェン リュイ・リーピン チャオ・タオ チェン・ジェンビン(カラー/112分/中国=日本合作)