【アンナと過ごした4日間】 2008年 究極の純愛
ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキの名前は、この作品ではじめて聞いた。1991年の『Ferdydurke』以来、じつに17年ぶりの新作。過去のタイトルを眺めてみると、見ておきたいタイトルがいろいろある。 物語の舞台はポーランドの田舎町。病院の火葬場で働くレオンは、数年前にレイプ事件を偶然目撃してしまい、不運にも濡れ衣を着せられ逮捕されてしまった過去を持つ。出所後、レオンは、ずっと一緒に暮らした祖母の家に戻るが、その時の被害者アンナに心奪われ、いつしか自宅の窓から、彼女の部屋を覗くことが日課となるのだった――。 孤独で愚直な中年男の、一途すぎるがゆえの行動が、じつに奇妙で気味悪くて、愛おしい。不器用な純粋さが裏返って、<覗く>という変態行為にはしってしまう主人公の映画には、『愛に関する短いフィルム』『仕立て屋の恋』などがあるけれども、どの作品も、嫌悪感を過ぎたところに愛おしさを感じるから好きだ。きっとたいていの方がそうだから、一連の作品は人気がある。はじめは覗くだけだったのに、、。ある日、ずっと一緒に暮らした祖母が死んでひとりぼっちになってから、レオンはすこしだけ変わる。なにかから解き放たれたように、祖母の思い出の品を燃やし、自宅の窓を改築して、アンナを覗くことを生きがいとするのだった。やがて、覗くだけで満足できなくなったレオンは、彼女の留守中部屋に忍び込み、砂糖に睡眠薬を混ぜて、夜な夜な、深く眠った彼女の部屋に忍び込むようになる・・・・。長いながいお話のようでいて、タイトルからもわかるように、それはたった4夜限りの出来事。ただ彼女のそばにいて、布団をかけて、爪にマネキュア塗って、お片づけして、取れそうなボタンつけて・・・そんなふうにして過ごしていた4日間。無防備に目の前で眠る彼女を前に、究極のプラトニックを貫く。アンナの身になれば、それは強烈に気味悪いことだけれど、第三者感情としてはレオンの恋が実ることを願っていたりする。不器用でマジメな彼が、愛を表現するにはこの方法しかなかったのだから。しかし、アンナが彼の行為を好意的に捉えるはずもなく、、再び法廷へ引きずり出されたレオンの恋は儚く散ってしまう。。でもそれをだれが笑えるというのだろう。悲恋の先になにが待つのか、静かな悲しみの余韻が残って消えた。 ポーランド映画は、主人公がたいてい美男美女でないところに魅力があると思う。アンナもレオンも例外でなく、ふつうの男と女だからまた深い味わいが出る。<覗く>純愛の物語――まだほかにも数作あれば、ジャンルとして確立できるね、きっと。† † †監督・製作/ イエジー・スコリモフスキ脚本/ イエジー・スコリモフスキ エヴァ・ピャスコフスカ 音楽/ ミハウ・ロレンツ 出演/ アルトゥール・ステランコ キンガ・プレイス イエジー・フェドロヴィチ (カラー/94min/ポーランド=フランス合作)